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第五章【灰】
オアシスまでの道のり
しおりを挟む翌朝。ギルドで待つティティは、こんもりとしたリュックを背負っていた。
「おい待て、動けるのかそれで」
「いつもこうなのです!」
「・・・」
「大丈夫よん、ティティちゃんいつもこうだから」
「なら、いいが・・・」
最悪、彼女を戦闘に加わらせなければいい。危険な地域まで引っ張っていくつもりもないしな。
体の半分近くあるリュックを見つつ、俺はティティの後についてギルドを出発した。
コクーンを出て、少し歩けばすぐに砂漠地帯。
町の出口で荒野に出るか、砂漠へと出るかは変わる。
「俺が先に立つか?」
「いえ、私の方が索敵もできますのです!」
「張り切り過ぎるなよ」
「がってんなのです」
ふんす、と杖を構えて歩くティティ。
任せていいものか…と戸惑うが、俺も索敵しながら歩く事にする。
砂漠地帯といっても、奥地に行かない限りは危険なレベル帯の魔物が出てくる事もない。
目指すオアシスは町に近い場所ばかりであったし、ティティの経験の為にも任せよう。
道中は比較的安全なもので、小型の魔物が主だった。
少しばかり厄介なのは、鳥類のデザートイーグルくらいか。
今回は俺も小型のコンポジットボウを持ってきたので、射抜いて落とす。
「ティティ、仕留めろ」
「はいなのです!『流水の矢』!!!」
「大したもんだ、中級魔法を使えるのか」
「えっへんなのです!」
水系統の初級、水の矢くらいかと思っていたが、ティティは中級魔法が使えるようだ。
これなら砂漠地帯で腕磨き、も頷ける。ただし、前衛が必要だが。
砂漠地帯に比べると、荒野の方が駆け出しの冒険者はやりやすいだろう。
こっちは魔法を使える奴がいないと詰む。
ティティが使ったように、水系統の攻撃魔法が使えないと、一撃必殺とはならないからだ。
氷系統でもいいのだが、砂漠地帯は『水』に弱い魔物が多い。…干からびてんのかもな。
ティティの魔法の練習も兼ねて、俺は弓で魔物を撃ち落としたり、弱らせる事を優先。
疲れてきたな、と感じたら剣で倒し…ということをしているうちに、ひとつめのオアシスへ到着。
「着きましたのです~」
「ああ、そうだな。お疲れ、ティティ」
「シグムントさんもなのです、ティティ、こんなに安全に来たの始めてです」
「そうだったのか?」
「大抵、一回は逃げて走り回ります」
鉢合わせた魔物の種類にもよるだろうが、ティティは大抵デザートイーグルに追いかけ回されるらしい。
岩や砂丘の段差を利用して、隠れてやり過ごすことも多いそうだ。
「この羽で羽飾りでも作るのです」
「お守りにもなるからな」
「ふふふ、むしってやったのです」
恨みは深かったのか…?
ティティはデザートイーグルから毟り取った風切り羽を見て笑っている。
周りで休んでいた商人達がこちらに寄って来た。
「よお、あんたら、デザートイーグル仕留めたのかい」
「よかったら羽、売ってくれないか?良い値を付けるよ」
「珍しいな、風切り羽にそこまで目をつけるとは」
「最近、ここらで狩りをする冒険者が減ってね。
デザートイーグルの風切り羽は、装飾品の素材としてかなり有用なんだよ」
「でも手に入る数が減っててね。あれで作るお守りは、俺達のような戦えない商人にとっては必須なんだ」
「なるほどな。俺の手持ちでいいなら売ってもいい。彼女のものは数に入れないでくれ」
「毎度あり、お兄さん。助かるよ」
計15枚の風切り羽を売ってやった。
俺が持っていても町で売るだけだからな。この商人達もコクーンへ戻るのだろうから、問題ないだろう。
『良い値を付ける』というだけあり、ギルドで買い取る額より多かった。
「いいのか?」
「ああ、構わないさ。これはこのまま装飾屋に売るつもりだからね。
仕入れてほしい、と言われていたが、町じゃ全く手に入らなくて難儀したよ」
「だから、オアシスへ足を運んだのさ。食料や情報と引き換えに、いい素材をこうして売ってもらえるチャンスがあるからね」
ほらよ、とおまけのように渡されたのは、瑞々しい野菜が挟まったサンドイッチ。
後ろではお仲間だろう数人が、サンドイッチを作ったりスープを作って売っていた。
「悪いね」
「いやいやこれもサービスさ。また良いものがあったら頼むよ。
ほら、そっちのお嬢ちゃんもお食べ。スープもあったかいうちにな」
「おいしいのです!」
「お前、こういう時は早いな」
ティティはサンドイッチを頬張っている。ガキだな。雛よりはおとなしいが。
そういえばどうしているのやら。ケセディアから戻って早二月。こちらも依頼が立て込んでいたのもあり、新緑の森へは行っていない。
コクーンまで来てしまっているから、あちらへ足を運ぶとしても、ひと月は先だろうな。
この体になって既に100年以上。200年まではいってないはずだが。
あまり積極的に人に関わってこなかったが、雛は別だ。
…そもそも相手は『人』ではなく『魔女』、それも『古の魔女』だ。
雛と知り合ってから、怒涛のように高位魔女と関わってきた。
主に『黒の系譜』の魔女であるから、これは雛との関わりが大きいのだろう。
長い時をかけてもわからなかった、自分にかけられた呪いの一端を、魔女に関わってからは容易く掴むことができた。
なんとか、呪いを解く方法まで辿り着ければと思うのだが…
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