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第五章【灰】
噂話
しおりを挟む「ところで兄さんは、砂漠地帯の奥まで行くのかい?」
はいよ、と食後に珈琲を進めてくれた年嵩の商人。
好々爺という笑みを浮かべ、こちらを見た。
珈琲の香りが鼻をくすぐる。
「・・・いや、奥までは行かないよ。俺はあの子の護衛だからな」
「ああ、なるほど。だったら行かない方がいいだろうな。
いや、兄さんはかなりの腕と見たから、砂漠の砂嵐が弱くなったという話を聞いて、奥地へ行くのかとね」
「やはり、砂嵐は弱まっているのか?」
「そうだね、見た目には弱まっているようだったよ。でも人の出入りができるほどじゃあない。
魔法なり使って、強行突破ができそうだ、というくらいだろうね。何しろ、以前は近くに寄ることすらできないくらいだったから」
「誰か挑戦した奴は?」
「ああ、いたよ。すぐに吹き飛ばされてオアシスへ戻ってきた奴等もいるし、帰ってこなかった奴等もいる。
・・・帰って来なかったからといって、砂嵐の向こう側へ行けたとは言ってないからね?」
「それくらいは承知の上さ。・・・町じゃ、見かけない大物がいるとも言っていたが」
「それは『砂嵐の主』のことかね」
「『砂嵐の主』?」
「弱まった砂嵐の向こう側に、かなり大きな魔物の姿が見え隠れするのさ。
確かにかなりの大物だろうが、砂嵐を抜けるか、アレがこっちに出てくるかしない限り真相はわからんね」
ジャネットの話は本物のようだ。まあ、ギルドの冒険者が見てきた話だったんだろう。
これは近いうちに探索隊が組まれるだろうな。年嵩の商人も同じ事を思ったらしく、話を続けた。
「なに、そろそろウルグスタの連中が手を出して来る頃だ。奴等はローリマ公国の財宝をまだ諦めていないというから」
「・・・爺さん、随分古い事を知っているんだな」
「おや、お若いのにローリマの名前を知っているとは勤勉だね」
「冒険者なら一度は聞いたことくらいあるんじゃないか?
『一夜にして滅亡した華のローリマ公国』の話は」
「確かにね。・・・全ては砂嵐の向こう側だ。本当にまだあるのかなんて誰にもわからないさ。
この砂嵐も、旧ローリマ公国の魔術師が作った魔導兵器の一部、なんていう奴等もいるくらいだからね」
「眉唾だな」
「それを一番信じているのが、ウルグスタの首脳陣というわけさ。過去の栄光に夢見ているんだろうさ」
「饒舌だな、爺さん」
「ここだけの話、儂は昔ウルグスタの上級役人だったんだよ。ローリマの話はそこで聞いたのさ。
絵姿は確かに残っちゃいるが、どうなろうなあ?『緋の貴婦人』に焼き尽くされたという話だがね」
『緋の貴婦人』。…雛と同じく『古の魔女』の1人、エルヴァリータ・クリムゾン。
緋色の髪と瞳を持つ、絶世の美女だという。…まあ確かに澪も美少女、ではあったな。雛もデカくなりゃ美人になりそうだし、魔女はどいつもこいつも容姿に恵まれているようだ。『氷』や『情熱』もそうだったし。
珈琲を飲み干し、立ち上がる。年嵩の商人は手を出してカップを回収してくれた。
「そろそろ行くかい?」
「ああ、日暮れまでにもう一つのオアシスへ行きたいんでな」
「なら、頼まれてくれないか?東のオアシスだろ?」
「ああ、何だ?手紙か」
「そうだ。儂の従兄弟がいるのでな。頼まれてくれるか?」
「渡すくらいは構わんよ。色々と話も聞いたしな。駄賃だ」
「感謝する。我々だけではオアシス間を行き来するのにも手間でな。傭兵達がいればよかったんだが、ここよりもっと奥のオアシスへと移動してしまったのさ」
「金稼ぎのチャンスと取るのはいいんだがな・・・」
手紙を預かり、ティティを探す。
手招くと、出発と捉えたのか、リュックを背負って寄ってきた。
「行きますか?」
「ああ、次のオアシスへ移動だ。採取するのは向こうのオアシスだろう?」
「はい~」
「じゃあな、爺さん。手紙は預かった」
「頼んだよ、あんた達の旅路に光あらんことを」
◻︎ ◼︎ ◻︎
次のオアシスまでは日暮れまでに着きそうな距離だ。
途中、オアシスの水場が地表付近を通るのか、植生が見られた。
ティティはその植生に近寄り、いくつか草を採取している。
そんなことを繰り返し、近寄る魔物を仕留めつつ進む。
次のオアシスが遠くに見えた頃、ティティが道を外れ出した。
「おい、オアシスはそっちじゃないだろ」
「いいのです、こっちなのです」
「道に迷うのは御免だぞ?」
「大丈夫なのです!ティティを信じるのです!!!」
大きく道を外れるわけではないが、砂漠地帯で道に迷うのだけは勘弁してもらいたい。
この辺りならば危険は少ないが、全くないというわけでもないのだ。
空を見上げると、うっすらと日が傾いて、遠くがラベンダー色に変わってきている。
日暮れまでは2時間もないな。
ずんずん迷わず進むティティに合わせて歩く事、1時間ほど。
先程まで見えていたオアシスは日が落ちてきたのもあり、見えなくなっている。
方向は確認してはいるが、少し不安だな。いざとなったら、引っ張ってでも向かわないと。
「おい、どこまで行くんだ?」
「あ、あれです」
「は?」
「あそこに行きたいのです」
先を歩くティティに合わせて見やると、指差す先に、小さなオアシスが。
水場もあるようで、夕日に水面がチカリ、と反射する。
あんなところにもオアシスができたのか?と考える。
俺も砂漠に詳しいわけでもないが、ここ数年足が遠ざかっていた事も考えると、新しくできたものかもしれない。
日が落ちる前に、小さなオアシスに到着。
ティティは水場の近くへ。
「こっちなのです~」
「へいへい。こんなところにオアシ、スっ!?」
ティティに手招きされ、水場へと歩いて近寄れば、足元から光が立ち上る。
地面を見れば、灰色に光る幾何学模様。
「っ!?魔法陣か!?」
「お一人様、ご案内なのです」
「ティティ!?」
光が視界を塞ぐ中、俺の目に映ったのは、フードを被ったティティが手を振る姿。
くそ、一体何がどうなって─────
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