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第五章【灰】
灰の魔女
しおりを挟む目覚めれば、石造りの天井。
起き上がると、そこは石造りの建物の中だった。
「ここは・・・どこだ?」
自分の装備を確認する。特に異常はない。
近くのテーブルに、剣やリュック、荷物が置かれている。
マントは外され、壁に掛けてあった。
人がいないという訳ではなく、生活している環境だと思う。
足を下ろし、脱がされていたブーツを履き直していると、人の気配。敵意はない。
きい、と立て付けの扉を開く音。軽い足音。
「あ~お目覚めですか?おはようなのです」
「お前、ティティ!よく、も・・・」
「はい?」
「・・・・・・お前、ティティ、か?」
「はい、ティティなのですよ」
「髪、いや、耳が・・・」
ひょこん、と空いたドアの向こうにいたのは、確かにティティ、なのだろう。
しかし、髪の色は茶から金へ。瞳の色は同じようでも生き生きとした翠緑。
決定的に違うのは、耳が長く尖っている。
「ティティ、まさか、長耳族、なのか?」
「はい~、そうなのです~」
「人里に降りていたから、隠していた、のか」
「はい、町へ買い出しに出る時は、お師匠様の魔法で変えてもらうのです。ティティはまだ未熟なので、できないのです。精進あるのみ、です」
「おししょうさま、か」
「はい、凄いのですよ!胸がボイーンでお尻もぷりーん、なのです」
「・・・そこかよ」
「男の人はお師匠様を見るとメロメロバキュンなのですよ」
何か、言い方に既視感を覚える。
待て待て、そんなに簡単に他の魔女と知り合ってたまるか。
「ご飯の用意ができているのです!こっちなのですよ」
ティティの呼びかけに応え、俺は部屋を出ることにした。
◻︎ ◼︎ ◻︎
部屋の外に出てみれば、そこは緑で覆われた場所だった。
足元を見ると、石作りの道が通っている。かつてはきちんとした町、だったのだろう。
噴水のようなモニュメントもあるが、蔦や葉に覆われており、チョロチョロと水が流れているだけだ。噴き上がるほどの水量はないらしい。
小道を通り、先程俺がいた小さめの家よりも大きな作りの家へ。
ティティはそこへ迷わず入り、来い来いと手招き。
・・・俺がいたところは、離れという感じだな。
元々はここも貴族の屋敷かなにかだったのかもしれない。
町であったことを鑑みると、町長なんかの住む場所なのかもな。
広間のような場所に、大きなテーブル。
そこに既に女性が1人、座っていた。
「ああら、おはよう。気分はいかが?」
「まあまあ、だな」
「初めまして剣士サマ。チャコーレア・グラニスよ、覚えて頂戴ね」
「・・・」
「貴方には『灰の魔女』という方が通りがいいかしら?」
「灰の、魔女」
灰色の髪に、灰色の瞳。ウエーブのかかったボリュームのある髪は緩やかに編まれている。
大きなレンズのメガネを掛け、茶色のドレスローブを着ている。よく魔法使いの女が着ている奴だ。
しかし、違いは胸元までがっつり開けられていること…確かに先程ティティが『お師匠様を見るとメロメロバキュン』と言っていたが、こういう事か?
『氷』も『情熱』もそうだが、負けず劣らずの豊満な身体つき。
そこらの高級娼婦も裸足で逃げ出すほどの、グラマラスかつセクシーな容姿だ。
乳房が零れ落ちそうなくらい胸元が空いているが、重力操作でもされているのかと思うくらい維持されているのだから男としては驚きだ。
目元は下がり、トロンとした目つき。
酔っている、というわけではなく、そもそもこの『チャコーレア・グラニス』という女性の顔立ちなのだろう。
「ティティ?お腹空いたわあ」
「もうすぐなのです!パンがいい感じで焼けるのです!」
「貴方もお座りなさいな?・・・ええと、何て呼べばいいのかしらん?」
「失礼した。シグムント・スカルディオだ」
「なるほど?シグムント、ね?私のことはチャコーレアでいいわよ」
「名を呼ぶのは不敬に当たらないのか」
そう言うと、灰の魔女はテーブルに頬杖をついた。
のしん、と大きな乳房も乗っかる。ふにん、と形を変えて。…責めるな、男なら目が行くのは当然だ。
「エリカもアイーラも貴方については『上物』と言っていたわよ?今時珍しくも魔女を目の敵にしない変わり者って」
「2人に会ったのか」
「会ってなくとも、私達には通信手段があるのよ。それに、雛様のお気に入りでしょう?アナタ。
弟子の私が興味を持つのも当たり前じゃない?」
・・・いずれ、こうなっていたということか。
まあ、魔女に対して敵意を持っているわけではない。
『黒の系譜』最後の1人、灰の魔女。会えたことに幸運と言うべきか、悪運なのか。
と、ワイングラスを取ろうとした手が、グラスを倒してワインをぶちまけた。ワイングラスも落として割れる。
「あらあ」
「あ~、またやりましたねお師匠様あ」
「またかかっちゃったわあ」
「お洗濯してもしても追いつきませんよう」
「これも洗わなくっちゃねえ」
「って、待て!ここで脱ぐな!!!」
よいしょ、と遠慮なくドレスローブを脱ぐ魔女。
待て!ここには俺もいるんだぞ!!!
そんな事に躊躇せず、こちらを見た。メガネの奥の垂れた瞳がこちらを向く。
「だって、早く洗わないとシミになるじゃない」
「だからって、男のいる前で脱ぐな!」
「大丈夫よ、下着は付いてるもの」
「そういう意味じゃねえ!ティティも止めろ!」
「えっ?こういう時人間の男性は『眼福』って言うってお師匠様が言ってましたよ?」
「何を教えているんだアンタは!」
「偉いわティティ、よく覚えていたわね。そうよ、いい女でいるためには常に男を誘惑していないとね。
たまにはこうして見せて、視姦させてあげないといけないの。こっちも意識を高めていかないと」
「勉強になりますお師匠様!ティティはまだ乳房が小さいので、お尻しか見せられないのです!」
「いいのよティティ、小さいのが好きだっていう男もいるのだから」
「そうなのですね!じゃあティティも頑張らなくてはなのです!」
「平気な顔して教えるな!服を着ろ!」
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