47 / 85
第三章【情】
魔女の眼球
しおりを挟む【魔女の眼球】
それは、生き物の眼球を使った呪詛のひとつ。
作り方は簡単。生きたまま眼球を傷つけることなく抉りだし、その眼球を触媒にして呪詛を組む。魔法陣の真ん中に目玉を置き、その持ち主が死ぬまでその眼球へ呪詛の対象者を刻み込めば完成、と。文字なり、絵であったり、方法は様々だ。
「対象者が死ぬまで痛めつけ、その苦痛と絶望を糧にして完成しますの」
「・・・そんなエグい呪法、どこから考えついたんだ」
「あら、これは私達『魔女』てはなくて、貴方達『人間』が考えついたものですのよ」
「っ、待ってくれ、対象者って事は」
「基本的に、生き物ならなんでもいいそうですけれど、人間を使うことが多いようですわね?ほら、今回もそうみたいですわよ?」
机の上に置かれた手札をめくり、アイーラはそう言う。こんな凄惨な事を口にしながらも、彼女は全くの世間話をする時と変わらない。
「あらあら、酷い。女性を使ったんですのね?これは今回厄介そうですわ」
「・・・女、だと違うのか」
「女である事が、どれだけ悲惨な目に合うか、貴方なら知っているのではなくて?心も体も汚されていく様を見た事はあるのでしょう?」
「っ、反吐が出るな」
「全く以てその通りですわね。で、その効果範囲ですけれど。今回は幸運ではなくて?」
「どういう意味だ?」
ペラ、と手札を二枚めくったアイーラ。つい、と唇を釣り上げて面白い物を見つけた、とでも言うように言う。
「地下オークションでしたかしら?その場にいる人だけで済みそうですわよ?」
「済みそう、って」
「呪詛の範囲が、ですわ。持ち込んだその貴族、本当に貴族ですの?私の見立てでは、その人が仕掛け人ですわよ?」
「何だって!?」
あいつが仕掛け人!?自ら箱がオークションに行くように仕掛けたってのか?『もうギルドにはいないのではないかしら』と呟くアイーラの声を最後に、俺はテントを飛び出した。
「行ってしまいましたわねえ。これでよろしかったの?雛様」
「うーん、これいじょうはひなたちがかんよすることじゃないし。おうとのひとたちからしてもらったことにたいして、ならこのくらいのてだすけしかできないしね。あとは、シグしだい?」
「中々手厳しいですわねえ」
「アイーラはシグきにいった?ならてだすけしていいよ、そのかわりちゃんとたいかはもらうこと。わすれないでね?」
「それは重々承知しておりますわ。天秤は傾く事の無いように、ですわよね?」
□ ■ □
冒険者ギルドに駆け込むと、そこにはナターシャしかいなかった。あの貴族のオッサンは何処に行った?
「ナターシャ、依頼人はどこだ」
「え?なんか自宅に戻ってお金を融通してくるって」
「何処だ、それは。調べてあるか?」
「ちょっと、シグムント、どうしたの?」
「あの男に一杯食わされたかもしれない。あいつが今回の騒動の首謀者だ」
「な、ど、どういう事なのシグムント!」
俺は戻ってきたワイズマンも交え、アイーラの所で得た情報を明かした。勿論広場の占い師が、とも『情熱の魔女』が、とも言っていない。俺の伝手で見知った情報ということにしてある。
全てを聞いたワイズマンとナターシャは顔から血の気が引いた。
「待て、狙いは『裏』のオークションって事か」
「恐らくな。某かの恨みがあっての事かもしれない。そんな厄介な呪物を持ち込むんだ、それなりの覚悟がなきゃやってないだろう。ナターシャ、そいつの家は?」
「待って、確か貴族街の一角のはず」
「わかった、近くの奴に調べさせる。ナターシャは連絡を取れ。シグムント、お前は一旦ここで待機だ。何があるかわからん、少し休んで備えろ。まだオークション開始まで時間はある。俺は『裏』の奴等に探りを入れるから」
だが、遅かった。ナターシャが近くにいたギルドメンバーにその貴族街の家を見に行ってもらったところ、もぬけの殻。
そしてその屋敷の地下におぞましい魔術の跡と、喉を付いて死んでいる依頼者だった貴族のオッサンがいた。
近くに落ちていた遺書によると、貴族のオッサンはこの街の『裏』の人間によって仕組まれた事件で落ちぶれたらしい。そして妻と娘、妹を『裏』の組織によって攫われ、殺され、遺体の一部を送り付けられた、と。
遺体の他の部分は『裏』のマーケットによって売り飛ばされ、行方すらわからなくなったのだという。
呪詛に使った女性は、その『裏』に関わる下働きの女で、凌辱し、苦しめ、儀式を行い、今日に至ったのだと…
「・・・·だから『ターゲットは地下のオークションの人間だけで済む』と言ったのか、アイーラ」
この貴族のオッサンの恨みの向かう先は、愛する家族達を惨たらしく死に追いやり、その死すらも悼ませてもらえなかった原因を作った『裏』の人間すべて。
この建国祭の間、『裏』では大掛かりなブラックオークションが起こる、と知ってこの方法を選んだのだろう。確かにこのオークションには、『裏』の人間全てが参加する。『表』の人間も参加するくらいだからな。
10
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜
みおな
ファンタジー
私の名前は、瀬尾あかり。
37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。
そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。
今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。
それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。
そして、目覚めた時ー
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
悪役令嬢発溺愛幼女着
みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」
わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。
響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。
わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。
冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。
どうして。
誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる