48 / 85
第三章【情】
悲しき呪詛の矛先
しおりを挟む全てを明らかにした俺達は、言葉が出てこない。
確かに、今回あの貴族のオッサンに騙されてクエストを依頼、受領した。本来詐欺とわかったら、その依頼はなかったことになる為、ここで終わりにしても何の問題もない。
とりあえずあの箱の中身が本物の『魔女の眼球』でないのなら、仲間の魔女からの襲撃はありえないし、アイーラによればこの街に雛がいることでもしもそんな事があっても二の足を踏むとの事。
貴族のオッサンがどうしてこんなことをしたのかも、残された遺書や、邸内に残っていた資料などから『本当のこと』であろう事が推察できた。それを知ってしまった俺達の心境はすごく複雑だ。
「ど、どうします・・・?ギルドマスター」
「どう、っていってもなぁ・・・こいつはさすがに俺達の手には余るだろう・・・」
「と言っても、王国軍が関与する理由がない。本来訴え出る本人が死んでしまっているし、これが全て真実、という証拠も今はない」
「でもシグムントさん、あいつらならやりかねないですよ!?」
「わかってる、恐らくこれは本当にあった事なんだろう。・・・ワイズマン、『裏』の奴等に連絡は取れたのか?」
聞くと、ワイズマンは首を振った。
「ダメだ、聞く耳持ちやしねえ。今はオークションの準備でてんてこ舞いだ。余計に話を聞いてくれそうな上層部の連中は捕まりゃしねえ」
「・・・結局、潜入するしかないのか」
「ちょ、ちょっとシグムントさん!」
「待て、シグムント。今回ばかりは認められねえ」
「何かあるのか?ワイズマン」
「昼に自警団が騒いだだろう?だから今回のブラックオークションは、『表』の人間の出入りを一切認めてねえ。出入りは不可能だ」
「なっ!?」
「しかもどこで行われるのかもわからねえ。いつもはこの地下のデカい地下墓地跡なんだが、今回はそれもあって別の場所にするとよ。さっきミュゼの奴に見てきてもらったが、いつもの場所には人っ子一人いやしねえと来た」
万事休すだ。場所さえ分かれば侵入し、幹部陣に説明だけする事は可能だ。その後続行するか否かは奴らに任せればいいと思うが、この事を知っていながら何もしないってのは、流石に寝覚めが悪い。
ちくしょう、どうすれば…と唇を噛み締めた瞬間、ふわりと香る『彼女』の香り。
「・・・すまん、出てくる」
「えっ!?シグムント!?」
「シグムント、馬鹿野郎!勝手に動くな!」
□ ■ □
日が落ちる。広場の喧騒も少しずつ少なくなり、皆灯りのついている屋台街や、店に移っていく。だが俺はひとつのテントに足を進めた。バサリ、と中に入るとそこには『彼女』が待っていた。
「来ると思っていましたわ」
「・・・『情熱の魔女』、頼みがある」
「『魔女』に頼み事をする時は、何が必要がご存知?」
ジジ、と蝋燭の燃える音。ゆらゆらと影が揺れて、アイーラの瞳が金色に輝き妖しく光る。
俺は彼女の側に立ち、その顔を見るために黒のヴェールをそっと上げる。そこには妖艶に微笑む『魔女』がいた。
「・・・対価なら好きなものをくれてやる」
「あら、そんな事を言って後悔しませんの?私が何を対価に望むのか知りませんわよね?」
「構わない、一刻を争う。俺を助けてくれ、アイーラ」
「まあ、なんて甘美な響きなんでしょう」
くすり、と微笑んでアイーラは俺に口付ける。舌を絡ませて吸い付き、その『名』に相応しい程の熱。
「んふ、反応くらいしてくれてもよろしいのではなくて?」
「時間が惜しいんだ、アイーラ。教えてくれ」
「焦らすなんて野暮ですわね。・・・いいですわ、これに着いてお行きなさい」
ひらり、と現れたのは黒い蝶。金色の燐光を放ちながら、ゆるり、ゆるりと飛んでいく。テントを出ようとすると、アイーラの声が届く。
「いいですこと?『結末は変えられない』これだけ申し上げておきますわ」
「・・・? わかった、対価は後ほど払う」
テントを出れば、夜の闇を払うように蝶は金色の燐光を放ちながら飛ぶ。他の人には見えていないらしいそれを追いかけ、俺は夜の王都を走り抜けた。
□ ■ □
裏道を抜け、いくつもの角を曲がり、地下に降り、下水を通り…俺が辿り着いたそこには、円形の闘技場のような場所だった。
こんな所がこの王都内にあったのか…?と思うが、こういった古い国の城がある街には、抜け道がたくさんあることは常識。ここはそんな抜け道の末の場所なんだろう。
いつの間にかあの黒い蝶は消え、薄暗い場内はいくつかの魔法の灯りで辛うじて周りを見る事ができるくらい。
オークション会場には既にかなりの人数がいて、幹部クラスの人間がどこにいるのかさえわからない。くそ、やるのかやめるのか俺にはどうしようもないが、せめて危険を伝える事位は…!そう思っていた俺の腕を、ぐっと後に引いた奴がいた。
「!?」
「おい、どうやってきたんです?驚きましたな」
「モルド・・・!?」
「旦那、今日はここにいちゃ危ないですぜ?『表』の人間の出入りがバレたらヤバい」
「頼む、モルド。誰でもいい、幹部クラスに合わせちゃくれないか。緊急で伝えたい事がある。あの『目』に関することだ」
「あー・・・それ絡みですか。ここで帰れと言っても旦那じゃ無理ですな。仕方がない、こちらへ」
助かった、モルドのルートの幹部クラスに会わせてもらえるかもしれない。モルドには申し訳ないが、これが最後のチャンスだろう。俺は顔を隠してモルドについて行った。
10
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜
みおな
ファンタジー
私の名前は、瀬尾あかり。
37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。
そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。
今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。
それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。
そして、目覚めた時ー
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
悪役令嬢発溺愛幼女着
みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」
わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。
響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。
わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。
冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。
どうして。
誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる