魔女の記憶を巡る旅

あろまりん

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第三章【情】

悲しき呪詛の矛先

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 全てを明らかにした俺達は、言葉が出てこない。

 確かに、今回あの貴族のオッサンに騙されてクエストを依頼、受領した。本来詐欺とわかったら、その依頼はなかったことになる為、ここで終わりにしても何の問題もない。

 とりあえずあの箱の中身が本物の『魔女の眼球』でないのなら、仲間の魔女からの襲撃はありえないし、アイーラによればこの街に雛がいることでもしもそんな事があっても二の足を踏むとの事。

 貴族のオッサンがどうしてこんなことをしたのかも、残された遺書や、邸内に残っていた資料などから『本当のこと』であろう事が推察できた。それを知ってしまった俺達の心境はすごく複雑だ。


「ど、どうします・・・?ギルドマスター」

「どう、っていってもなぁ・・・こいつはさすがに俺達の手には余るだろう・・・」

「と言っても、王国軍が関与する理由がない。本来訴え出る本人が死んでしまっているし、これが全て真実、という証拠も今はない」

「でもシグムントさん、あいつらならやりかねないですよ!?」

「わかってる、恐らくこれは本当にあった事なんだろう。・・・ワイズマン、『裏』の奴等に連絡は取れたのか?」


 聞くと、ワイズマンは首を振った。


「ダメだ、聞く耳持ちやしねえ。今はオークションの準備でてんてこ舞いだ。余計に話を聞いてくれそうな上層部の連中は捕まりゃしねえ」

「・・・結局、潜入するしかないのか」

「ちょ、ちょっとシグムントさん!」
「待て、シグムント。今回ばかりは認められねえ」

「何かあるのか?ワイズマン」

「昼に自警団が騒いだだろう?だから今回のブラックオークションは、『表』の人間の出入りを一切認めてねえ。出入りは不可能だ」

「なっ!?」

「しかもどこで行われるのかもわからねえ。いつもはこの地下のデカい地下墓地カタコンベ跡なんだが、今回はそれもあって別の場所にするとよ。さっきミュゼの奴に見てきてもらったが、いつもの場所には人っ子一人いやしねえと来た」


 万事休すだ。場所さえ分かれば侵入し、幹部陣に説明だけする事は可能だ。その後続行するか否かは奴らに任せればいいと思うが、この事を知っていながら何もしないってのは、流石に寝覚めが悪い。

 ちくしょう、どうすれば…と唇を噛み締めた瞬間、ふわりと香る『彼女』の香り。


「・・・すまん、出てくる」

「えっ!?シグムント!?」
「シグムント、馬鹿野郎!勝手に動くな!」



     □ ■ □



 日が落ちる。広場の喧騒も少しずつ少なくなり、皆灯りのついている屋台街や、店に移っていく。だが俺はひとつのテントに足を進めた。バサリ、と中に入るとそこには『彼女』が待っていた。


「来ると思っていましたわ」

「・・・『情熱の魔女』、頼みがある」

「『魔女』に頼み事をする時は、何が必要がご存知?」


 ジジ、と蝋燭の燃える音。ゆらゆらと影が揺れて、アイーラの瞳が金色に輝き妖しく光る。
 俺は彼女の側に立ち、その顔を見るために黒のヴェールをそっと上げる。そこには妖艶に微笑む『魔女』がいた。


「・・・対価なら好きなものをくれてやる」

「あら、そんな事を言って後悔しませんの?私が何を対価に望むのか知りませんわよね?」

「構わない、一刻を争う。俺を助けてくれ、アイーラ」

「まあ、なんて甘美な響きなんでしょう」


 くすり、と微笑んでアイーラは俺に口付ける。舌を絡ませて吸い付き、その『名』に相応しい程の熱。


「んふ、反応くらいしてくれてもよろしいのではなくて?」

「時間が惜しいんだ、アイーラ。教えてくれ」

「焦らすなんて野暮ですわね。・・・いいですわ、これに着いてお行きなさい」


 ひらり、と現れたのは黒い蝶。金色の燐光を放ちながら、ゆるり、ゆるりと飛んでいく。テントを出ようとすると、アイーラの声が届く。


「いいですこと?『結末は変えられない』これだけ申し上げておきますわ」

「・・・? わかった、対価は後ほど払う」


 テントを出れば、夜の闇を払うように蝶は金色の燐光を放ちながら飛ぶ。他の人には見えていないらしいそれを追いかけ、俺は夜の王都を走り抜けた。



     □ ■ □



 裏道を抜け、いくつもの角を曲がり、地下に降り、下水を通り…俺が辿り着いたそこには、円形の闘技場のような場所だった。
 こんな所がこの王都内にあったのか…?と思うが、こういった古い国の城がある街には、抜け道がたくさんあることは常識。ここはそんな抜け道の末の場所なんだろう。

 いつの間にかあの黒い蝶は消え、薄暗い場内はいくつかの魔法の灯りで辛うじて周りを見る事ができるくらい。

 オークション会場には既にかなりの人数がいて、幹部クラスの人間がどこにいるのかさえわからない。くそ、やるのかやめるのか俺にはどうしようもないが、せめて危険を伝える事位は…!そう思っていた俺の腕を、ぐっと後に引いた奴がいた。


「!?」

「おい、どうやってきたんです?驚きましたな」

「モルド・・・!?」

「旦那、今日はここにいちゃ危ないですぜ?『表』の人間の出入りがバレたらヤバい」

「頼む、モルド。誰でもいい、幹部クラスに合わせちゃくれないか。緊急で伝えたい事がある。あの『目』に関することだ」

「あー・・・それ絡みですか。ここで帰れと言っても旦那じゃ無理ですな。仕方がない、こちらへ」


 助かった、モルドのルートの幹部クラスに会わせてもらえるかもしれない。モルドには申し訳ないが、これが最後のチャンスだろう。俺は顔を隠してモルドについて行った。

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