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第三章【情】
情熱の魔女
しおりを挟む呆然としている俺の横に、アイーラが並ぶ。手を差し出してくるので、その手を握りしめて立ち上がる。
「これは、何なんだ」
「呪詛の成就ですわ」
「呪詛の・・・成就?」
「ええ。私言いましたでしょう?『結末は変えられない』と」
「あ─────」
そう、確かにアイーラはそう言った。それは、これの事か?俺が何をしようと、変わらなかった?
「哀れだな」
「ええ。本当に。───ラゼル様、よろしいですか?」
「其方の好きにするがいい。妾は止めぬ」
雛であり、雛でない声。その声の主に『情熱の魔女』は膝を折り、厳かに許しを乞うた。
そして俺に振り返り、慈愛に満ちた瞳を向ける。
「シグムント・スカルディオ。貴方の望みは?」
「───俺、は」
「私、対価を頂きますけれど、それに対して貴方が先ほど望んだ事は少ないんですのよ。ですから、他に何か望みがありまして?ここを、このままにしておいてよろしいの?それとも───」
「───頼む、『情熱の魔女』」
「契約は結ばれましたわ」
にこり、と妖艶に微笑む『情熱の魔女』。
そして、『情熱の魔女』による華麗な舞踏が幕を開けた。
□ ■ □
『情熱の魔女』アイーラ・フルクレア。
彼女が何故その二つ名を抱くのか、その苛烈で奔放な性格そのままを名乗ったのかと思っていた。
───今、彼女による魔術を見るまでは。
タン、と足が床を踏む。シャラン、と手足に付いたブレスの飾りが音を響かせる。彼女が全身で奏でるリズムと共に、その体から吹き上がるのは朱金の炎。
その『浄化の炎』は彼女が舞う事に周りへと広がり、溢れ、弾け、このおぞましくも凄惨な場を鎮めていく。
朱金の炎に焼かれた肉塊は、痕跡を残す事なく消え去る。何もかもなかったように。
「美しいだろう?」
「あ、ああ」
「アイーラは自由奔放に見えるが、それだけではない。人間を愛し、慈しみ、その想いがああして『浄化の炎』を産み出す。妾と違い、すぐに転生させることは叶わぬが、ああして導く事は出来る」
「あんたなら───『黒』の魔女なら転生させることも可能なのか」
「出来ようが、それは遥かな代償が必要となるな」
雛───『黒』の魔女を見ると、その瞳は何か痛みに耐えるかのような色をしていた。いつものような無邪気な瞳ではなく、永い時を生きてきた女性の瞳。
何故、何故そんな痛ましい顔をするのか。俺は何も声をかけることができないでいた。
ふと、手にしているものに目が行く。
「それは、何だ?」
「これは、ひながさがしていたもの。このオークションにあるってしったから、とりにきた」
「これを探しに・・・王都へ来たのか」
「うん。ここでひとのよにでてくるってしってたから」
臙脂色をした、卵型の置物。そこまで大きいものではないが、雛の手には余るようだ。
金色の飾りに、色とりどりの宝石が飾り、まるでそれ自体が宝石のタマゴのよう。
「? それ、どこかで───」
「シグ、そういえばずっとちかにいたんじゃないんだね。とちゅうでどこかにいってたの?」
「は?ああ、知り合いに会って、地上への道を送ってもらっていたんだ。その途中に叫び声が聞こえて・・・」
「そう。・・・ならそのひともおくってあげないとね」
「な、何でだ?ここにいなかったんだから、」
「シグ、じゅそのないようはどんなものだったか、しってた?」
「呪詛の内容って・・・『地下オークションにいる人、全て』って」
「ならどうして、シグにはきかなかったの?」
確かにそうだ。俺も『地下オークションにいる人物』に変わりはない。雛やアイーラは『魔女』であるから除外としても、俺にもあの呪詛が振りかからないのは何でだ?
「アイーラはきちんといってなかったんだね。じゅそのたいしょうは、『ちかそしきにしょぞくするすべてのひと』だよ」
「───っ、モルド!」
俺はその場から一目散に走る。地上への道を走り、暗い中も何故か迷うことなく走り抜けた。
そして、地上への出口付近で俺はソレに出会う。
「モル、ド」
「tJwmw.ajwmg」
人の耳には聞き取れない、異形の声。ブヨブヨとした肉塊へと変わり果てた奴の姿がそこにあった。それは俺に襲いかかるでもなく、ただそこに存在しているだけのもの。
「れいがいはない」
「助け、られないんだな」
「そうだね。これはそういうものだから。『まじょ』がつくったものならひなになんとかできるけど、『ひと』がつくったものにはひなはかんよできない」
「そう、なんだな」
「どうする?」
「どう、って」
「アイーラにおねがいする?それとも、シグがおくってあげる?」
「───俺は」
「もうひとつ、エリカのでしのおじいちゃんのところにおくるってほうほうもなくはないけど」
「・・・」
「あそこにあるやつ、あれもこういうものだから。きょうせいしようとおもえばできるかな。でもそうするとこのひとはずっとこのよにとどめられたままだね。
このすがたになると、じゅみょうがないから」
「死なない、のか」
「・・・しねない、んだよ。たいきちゅうのマナをすって、ずっとじこさいせいしつづける。だから」
「殺す、しかない、のか」
これ程の呪いなのか、あれは。これを創り出したのは、『人間』なのか。自分と同じ。
脱力感が襲う。手に力が入らない。これ程までに無力感を感じたのは、いつ以来だろう。
迷う俺の目に、小さな手が肉塊へとかざされたのが見えた。そして、金色の焔が包む。跡形もなく消えるまで、俺はそれをずっと見ていた。
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