魔女の記憶を巡る旅

あろまりん

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第四章【白】

魔女の『能力』

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 未だ、壊れたように笑い続ける『魔女』。火に焼かれてもなお、その身は焼け爛れる事無く、身につけた衣服すらも損傷がない。俺は雛が歩いて行くのにつられ、一緒に澪の元に歩き出した。


「なんと変わり果てた姿よ、メルクーシュア」

「知り合い、なのか」

「儂の弟子の一人、だな」


 この変わり果てた『魔女』は、『白の系譜』の魔女であったようだ。今は壊れたように笑い声を響かせている。

 澪は燃える火刑台へと近寄っていく。危ない、と手を伸ばしかけるが、それをレンが遮った。


「あいつに火は効かない。悪いが黙ってそこで見ていてくれ」

「レン、あんた・・・」

「これは、あいつの仕事なんだ」


 澪は燃える火刑台に手を翳す。すると火は瞬く間に消えた。フードを取り、白い髪がさらりと零れ落ちる。


「済まなかったな、迎えに来た。もう、留まらなくていい。頑張ったな、メルクーシュア」

「い、あ、」

「さあ、旅立つがいい」


 そう告げた瞬間。変わり果てた『魔女』の体が光る。眩く光るその光は、一際輝いたかと思うと澪へ吸い込まれて消えた。

 火刑台へ括り付けられた『魔女』は、変わり果てた体に二重にブレるように一人の女の姿が見えた。

 水色の髪に、萌黄のような瞳。理知的な優しい顔立ちの一人の女の姿がそこにあった。その幻影のような姿は『体』から離れ、地面へと降りる。澪の前に跪いてはらはらと涙を零し、祈るように手を組んで『白』の魔女を見上げた。


『ああ、やっと・・・解き放たれるのですね』

「遅くなってすまなかった、メルクーシュア。儂がもっと早く付いていればこんな事は・・・」

『いいえ、いいえ。貴方様に手間をかけてしまい申し訳ございませんでした。此度の事はわたくしの浅慮が招きました事、決して『白』の君に恨み言など申しません』


 慈愛に満ちたその微笑みは、まるで聖女のようだった。その姿に、生前は『白の系譜』に相応しく良き魔女であった事が伺える。
 その萌黄の瞳が不意にこちらへと向いた。驚きと共に見開かれ、平伏するように頭を垂れた。


『まさかわたくし如きに『黒』の君までもが足を運んで下さいますとは・・・ご容赦くださいませ』

「気に病まずとも良い。妾が好きで来ただけの事」

『過分なるお言葉、旅立つわたくしに取りまして何よりの餞でございます』

「さあ、お逝き。其方の次の生に幸多からんことを」


 陽炎のような『白の系譜』の魔女は、はらはらと涙を零したまま『白』の魔女の元へと戻り、その靴先に口付け、光となって消えていった。
 その光はいつまでも名残惜しむかのようにその場に残り、小さな翠色の石を残して消えていった。



     □ ■ □



 立ち尽くす澪の側へと寄る雛。何かを話している訳でもないが、二人でふっと消えた。どこかへ場所を移したのだろう。

 俺もどうするかな、と思うとレンがクイッと『来いよ』という仕草をして歩いて行く。倒れている周りも気になるが、俺はレンについて行くことにした。

 教会広場から離れ、小さな店に入る。飲み物を頼んで一息つくと、レンが話し出した。


「気にしなくてもいい、あそこの連中には『異端審問は恙無く終わった』と暗示が掛かってる」

「いつの間に?」

「あいつの歌だ。バタバタ倒れた連中は術にかかったって訳だ。下手に耐性があって倒れなかった奴等は俺が昏倒させたから今頃しっかり術にかかってるだろうさ」

「・・・凄かったな、さっきの」


 『白』の魔女と口付けたかと思ったら、狂戦士化バーサーカー状態になるとは思わなかった。てっきり恋仲なのかと思ってしまった。それを察したのかレンはため息をつく。


「・・・お前にゃ言ってもいいだろ。『魔女の騎士』ってのはな、その身に契約者の『魔女』の魔力を受け、その魔力を使って戦うんだ。だから他の連中の魔法やら攻撃はほとんど効かなくなるし、自分の剣にも魔力が乗る」

「かなり負担が凄そうだが?」

「だからこその『契約』だ。俺の場合、あいつに俺の魂をやっちまってる。一体化、だな。だからこそあいつの魔力を受け止めても負担はあまりかからない。あいつに魂預けてるからこそ、死ぬ事もなくなる」

「それが、『魔女の騎士』の強さか」

「もう一つ。魂を預けてる、って事は死なない。つまり、歳を取らない。・・・俺がお前と似たようなもんだ、って言った意味がわかるな?」

「っ、それは・・・」

「お前と違うのは、あいつ・・・『白』の魔女が消滅すれば、同化している俺も消滅する。文字通り『一心同体』って事さ」


 驚いた。確かに、魂を預けてるって事は、レンは『白』の魔女に命を握られてるも同然だ。全てを捧げていると言ってもいい。その関係は…恋仲、よりも濃密で激しいような気がするが…


「レン、澪に惚れてる・・・のか?」

「止めてくれ、考えたくない。俺は騙されて契約したも同然なんだ。死にかけの時に契約を持ち出されて、軽い気持ちで結んだらこうなったんだ」

「・・・それはそれは」

「これだけ一緒にいれば、まあ情は湧く。だが『恋仲』かと聞かれれば・・・違うとしか言えねえな」


 ということにしてくれ、と疲れたように言うレン。なんだか結構苦労人なのかもしれない。

 しかし、『魔女の騎士』か。雛にも、いたのだろうか。

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