その力で人の身を焼く“悪魔”の聖女にしか、第三王子は救えない

カズヤ

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4.このリディアこそが鍵なのです

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「つ、疲れた……」

 看護師の待受室で、リディアはため息を付きながら座り込んだ。
 傷ついた兵たちの嵐のような看病が一段落したのだ。
 リディアの周囲には疲れ果てた聖女たちがぐったりと倒れ伏している。

「お疲れ様、リディア。少しいい?」

 そんなリディアに、不意に声をかけられる。
 振り向くとそこにはシスター・ヴィエラが居た。彼女の顔も疲労に曇っている。
 老聖女はリディアを手招きした。

「休憩中に悪いんだけど、これから来てほしいところがあるの」
 
「あ……はいシスター・ヴィエラ」

 うなずいてリディアはシスター・ヴィエラとともに院内を移動する。
 階段を登りどんどんと上層階へと向かう。

「そういえば……あの重症の男性はご無事ですか?」

 その途中、ふとリディアは口を開いた
 リディアが気になっていたのはあの担架に横たわる重症の男性だった。

 あの後、緊急治療室に運び込まれるところまでしか見届けることは出来ず、別の業務へと向かうことになった。
 忙しい中でも妙にあの男性のことが気がかりだった。

「ええクライヴ王子はもう心配ないくらいまで回復されたわ。それでお礼に貴女を呼んでるの」

 微笑を浮かべながらヴィエラは返す。
 その言葉に聞き捨てならないものを聞きつけリディアは固まった。

「……王子? え、ええええええ!? あの担架って、王族の方だったのですか!?」

 どっと背筋に冷や汗が吹き出る。
 担架を運ぶ際に、周囲の人が遠慮がちだったワケがようやく飲み込めた。
 王族……それも継承権の高い一桁の方。

「やっぱり気づいてなかったのね。ふふ。全く貴女らしいわ」

 リディアの呆然とした顔を見て笑いながら、ヴィエラはどんどんと上層に上がっていく。

 この治療院は、上に行けば行くほど高級な個室になっている。
 2人は、最上階に登った。
 そしてその最奥の部屋の扉の前にたどり着いた。ここは最高級の貴賓室である。
 
「わかっていると思うけど、ご失礼のないようにするのよ」

(そ、そう言われても……角を見せて嫌悪感を出だされないかしら)

 その釘刺しにリディアは心中涙目になりながらうなずいた。

 この扉の向こうに、王族の方がいる。
 王国という体制において、王族の存在は重い。
 王族の方と謁見するのにフードを被り続けるわけにも行かず、角を見せてしまうことになる。
 リディアが全身をガチガチに緊張させる隣で、シスター・ヴィエラは厳かにその扉をノックして、開いた。

「失礼いたします」

 部屋に入った瞬間であった。

「何処に行っていたのだヴィエラ・アストリア! 話の途中だぞ!」

 鋭い怒声が部屋に響き渡った。
 ぎょっとしたリディアがその声の主に視線を合わせる。

 するとベッドの上からこちらを睨む男性の姿があった。
 凄まじい怒気と、身も凍らせるような敵意が吹き寄せてくる。

(王子様! な、何か怒っていらっしゃるのですけど!?)

 もはや角を気にする気持ちさえなくなるほど圧倒されるリディア。
 それを尻目に、シスター・ヴィエラは落ち着いた対応で、体を落とし片膝をついた。
 
「は、中座、失礼いたしましたクライヴ殿下。どうしてもお目通りさせたい者がございまして――」

 王族への敬意と拝礼であった。同じようにリディアも慌てて膝を折る。
 一体どのような方が、こんな気を発しているのかと気になったリディアはちらりと顔を上げてしまう。
 ――その人を見た瞬間、頭がしびれた。

(これが、クライヴ・ヴァルヘルム第三王子)

 それはリディアがいまだかつて見たことがないほど、凛々しい人だった。
 肉食獣のような引き締まった体格に、強い意志を感じさせる眼光。

(……黒曜石のような真っ黒の髪と瞳。辺境の血の特徴だわ)

 次に目を引いたのが、その髪の目と色だ。
 この国では珍しい黒髪・黒目だ。闇色の光を吸い込むかのような色味に目が引き寄せられる。
 ――獅子のような精悍さを持った青年であった。

「なんて、きれい――」
 
 その全身に見惚れたリディアは、ついうっかりと口を滑らせてしまった。
 静寂の中響いたリディアに向かって、王子の視線が投げかけられた。
 しまったと思った。慌てて顔を伏せるがもう遅い。

「俺の風貌が珍しいか? 何者だこやつは」

 クライヴは苦笑とも憮然ともつかぬ声で、問いを発した。
 
「クライヴ殿下。この者が殿下の担架を運んだ者です」

「ああ――あの。そうか」

 シスター・ヴィエラが素早く補足を入れた瞬間だった。
 ふわりとクライヴの空気が和らいだ。

「お前があのとき俺の手を握った女か。意識が朦朧としていたが確かに覚えている」

「は、はい。恐れながら……ご無礼をいたしました!」

 空気がやわらいだといえ、緊張がすぐに解けるわけもない。
 ひええ……とリディアは平身低頭する。

 あの時を思い返すと、なかなか大胆なことをしてしまった気がする。
 非常時とはいえ、皇族の方に対し、市政の人間を扱うような対応をしてしまった。
 そのうえ今、考えたことをそのまま口にしてしまって……。
 焦るリディアを見て、苦笑しながらクライヴ皇子は言葉を続ける。

「良い。若き聖女よ、面をあげよ」

「あの、わたし、聖女ではなくまだ修道院の見習いでして。さきほどは大変ご無礼を……」

 慌てたリディアは考えがまとまらない状態でさらに口を開いてしまう。
 自分でも何を行っているのか分からない。
 ただ思ったことを直接口に出す状態だ。
 だからとんでもないことを勢いで口にしてしまう。

「本当に、クライヴ様のお顔が美しくて、見惚れてしまいましてっ」

 余すこと無くリディアは胸の内を晒してしまう。
 さすがにクライヴはぽかんとして――次の瞬間、吹き出した。

「ふふ。はははは。正直な性だな、無礼を通り越して小気味いい。名はなんという」

 クライヴ王子は愉快そうに笑い続けている。
 その笑い声に我に返って少し落ち着いた。
 冷や汗をかきながらリディアは質問に答える。

「リディア・フェスティアと申します。フェスティア侯爵家の長女になります」

「フェスティア……その性は確か」

(……っ、“悪魔”と言われていることを知っているのかな)

 何かを思い出すように思案するクライヴに、リディアはとっさに自分の角を手で覆ってしまう。
 狭い貴族社会で、こうした異貌はかっこうの話の種だ。
 クライヴ王子にも伝わっているのだろうか。
 角付き、聖女の力で人の身を腐らせる悪魔リディアの噂が。

「そうだ、すぐ上の兄がフェスティア家の次女を夜会に呼ぶと言っていたが、その姉にあたるか」

 しかし告げられた言葉は妹のことだった。
 確かに第二王子様の夜会に呼ばれたと話していた。
 ほっとすると同時に、自意識過剰になっている気がして顔が熱くなる。

「リディア、俺の前で角を恥じるな。俺も母が南方の出で、その特徴を受け継いだ。だがそれを恥じてはおらん」

 視線を落とした瞬間、クライヴが不意にそういった。
 知っていて、言わないでいてくれたのだ。
 その不意打ちにリディアは口をパクパクさせながら、息をつまらせた。

「噂を……ご、ご存知でしたか。お見苦しいなりで申し訳ありません……」

 心臓が内側から破裂しそうなほど高鳴った。
 同時にクライヴもこの国では異端者なのだと思った。
 金髪に蒼い目が多いこのヴァルヘルム王国において、クライヴのその姿は珍しい。

(外見で分け隔てられる辛さを知っているのに。それを初対面で指摘しちゃった……馬鹿だ私っ)

 リディアは心中で頭を抱えた。
 人と違うことを指摘される疎外感を知っているにも関わらずそれを指摘してしまった。

 あまつさえ美しいなどと……。
 でも、そう告げることが止められなかったのだ。

 ――背筋を真っすぐ伸ばし、異端である髪と目を隠そうともしない出で立ちが。
 角を手で覆ってしまう自分にはあまりにも眩しすぎて。

「身を挺して魔物と戦ってくださるクライヴ様には感謝の気持ちしかありませぬ」

 だからリディアは、再び頭を垂れた。
 そのまま胸中に湧き上がる様々な感情をまとめて言葉を紡いだ。
 威風堂々としたその面持ちで、国のために命をかけて戦うことのなんと立派なことだろう。

「フッ……戦う……か」

 だがそのリディアの言葉を聞いたクライヴ王子はリディアから視線を外し、窓へと目をやってしまった。
 ぴしり、と部屋の空気が冷えた気がした。
 先程から静観していたシスター・ヴィエラから奇妙な緊張感が発されているのがわかる。

 ついていけずに困惑するリディアを尻目に、クライヴは視線を戻さないままつぶやいた。

「ヴィエラ院長、そういえば話が途中だったな。俺の体はどうなっている? ……正直に申してみよ」

 シスター・ヴィエラの顔色がその一言で変わった。

「人もおりますので、そのお話は……」

「注意を払ってもいずれ知られる。それよりも疾く聞きたいのだ」

 部屋の空気が変わった。リディアはおろおろとシスター・ヴィエラを見た。
 シスター・ヴィエラは苦虫を噛み潰したような顔をしている。

「手に力が入らん。足がまったく動かん。俺は……もう立ち上がれないのではないか?」

 よく見ればクライヴは、ベッドのふちを背もたれにし、無理に半身を起こしている。
 それを今まで立ち振舞で気づかせなかったのだ。
 手足が動かない状態でなお、そう見せない威厳がクライヴ王子にはあった。

「二度と立ち上がれないって……クライヴ王子が?」

 リディアはぽかんとクライヴ王子を見つめる。
 こうして見ているだけなら信じられなかった。

「……療養の結果が出るまでは時間がかかりますゆえ」

「今の見立てを話せ!」

 明らかに断言を恐れているヴィエラの言に、ついにクライヴは声を荒げた。

「はぐらかすようにこの女を呼んでくると出ていったが、話をそらしたいのが見え透いておるわ!」

 その王子の言葉に、なぜ自分が突然呼ばれたのかリディアは理解した。
 この話をさせたくないために、話を逸らすべく自分が呼ばれたのだ。
 つまりクライヴ王子の様態は、告げることをためらわせるほどの状態であるということで……。


「率直に申し上げますと、クライヴ様の両手両足は、もはや動かない可能性が高いと思われます」

 クライヴの詰問に、ついにシスター・ヴィエラは重い口を開いた。

「全身の骨が損傷されていました。国中の聖女を集めても、完治は難しいものと」

「そんな……シスター・ヴィエラ。なんとかなりませんか!」

 リディアは思わず叫んでしまった。
 誰よりも大きな声であり、全員の視線が集中した。

「リディア……」

「私達のために魔物と戦ってくださったクライヴ様にそんな!」

 リディアは悲しかった。
 担架の上で掴んだあの手のぬくもりが失われるなんて。
 言い募るリディアのその後ろから、クライヴの低い声が続く。

「そうだ。どんな方法でも良い。もう一度俺に剣を取らせろ」

 その視線にリディアはびくりと体を硬直させる。

(剣? この人はそんなに戦場に戻りたいの?)

 鬼気迫る感情がクライヴ王子の目にこもっていた。
 その激しい炎のような気にリディアは気圧された、
 クライヴはその威圧感をまとったまま言葉を続ける。

「治療の余地がないというのは、俺の身に危険がない前提の内であろう」

「なっ……どこでそのようなことを!?」

 クライヴ王子の指摘にシスター・ヴィエラの顔色が変わる。

「軍人に伝わる噂で、再起不能の体をも癒やす方法があると聞く」

 シスター・ヴィエラは唇を噛み、黙りこくってしまった。
 その態度からして、皇子の告げたことは正しいものであるだろう。しかし同時にそれは相応な危険があることを示していた。

「…………確かに、大変危険を伴う方法ですが、治療の方法はございます」

 観念したようにシスター・ヴィエラは白状する。
 それを聞いたクライヴは両手を上げるような剣幕で口を開いた。

「まことか! 俺はまた剣を握れるようになるのだな! 何でも良い、話せ!」

 その口調はまさに鬼気迫ると言ったものであった。
 
「やはり貴方はそう望まれますか……」
 
 シスター・ヴィエラはそんなクライヴの言葉を受け止め、小さくそうつぶやいた。
 そしてクライヴから視線をそらし、リディアへと向けた。

「リディア、立ちなさい」

「えっ……あ、はい」

 跪くリディアに向かって老聖女はそう促した。
 リディアは驚きながら言う通りにする。
 するとシスター・ヴィエラはリディアを指しながら驚くべきことを告げた。
 
「このリディアが、王子を再び立たせる鍵を握ります」

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