その力で人の身を焼く“悪魔”の聖女にしか、第三王子は救えない

カズヤ

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30.城内騒然

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「なぜ城に入る必要がある。商売人なら明日にしろ」

「ええっ!? 家具の納品ですよぉ!? この荷車全部持って帰れってんですか!?」

「今日はだめだ。出直してこい」

 城の前につくやいなや、そこには物々しい警備が退去として入り口を固めていた。
 ありの子一匹いれまいと警備が城門前を固めている。

「殺気立ってるッスねえ。裏側を知ってりゃ当然って感じなんだけど」

 リックがその様子を見てぼやく。
 そんな呑気な護衛を尻目にリディアは一目散に目的地へと走った。

「こっちです。赤い花の植え込み! あれです!」

 脇目も振らずリディアは城門を回り込み、植え込みのある方へと移動する。
 城壁に寄り添うように作られた生け垣の中から目的の物を見つける。
 赤い植え込みの下にはよく見ないと気づかないような、排水溝にも見える鉄の扉があった。

「鍵が合った! ここから入れます」

 リディアが鍵を合わせるとその扉が開いた。
 開いた扉を男二人で持ち上げる。
 
「おいリック開けるぞ!」

「うぐぐハンクさんこの扉……重いッス」

「おいもっと力入れろ。……よし開いた!」

 開いた扉の先は傾斜がついており、滑り降りれるようになっている。

「下が見えないな……ってリディア様!?」

 リディアはそこに思い切り飛び込んだ。
 ためらっていたハンクから驚きの声が飛ぶ。

「きゃああああああああああああっ!?」

 飛び込んだリディアのお尻にかかる傾斜の急さは予想以上だった。
 ほぼ落ちるような速度で滑り降りたリディアは、ぽんと空中に投げ出される。
 地面に激突した先に柔らかいなにかに受け止められた。
 閉じた目を開くとクッションが下には敷かれていた。
 
「り、リディア様ーっ!」

 驚いた護衛たちが慌てて続いて降りてくる。
 
「大丈夫ですか!?」
 
 ハンクが血相を変えて叫ぶ。
 続いてぼふりと地面のクッションに頭からおちて、目を白黒させながらリックが口を開く。

「む、無茶ッスよ……どこに繋がってるかわからない穴に……」

「恋する乙女は強いってか」

 腕をさすりながら立ち上がったハンクは、つぶやきながら周囲を見渡して目を細めた。

「ここは、地下の食料倉庫だな。こんな抜け道があったとは」

 王の姿を知っていたハンクは王宮の内部を見知っている立場らしい。

「ハンクさん、叙勲式はどこで行われるのでしょうか」

「おそらく3階のダンスホールでしょうね」

 リディアはそんなハンクに目的地を聞き、答えが返ってくる。
 王宮に詳しい人と連れ立てた幸運に感謝しながらリディアは出口へと一番最初に足を踏み出した。
 
「3階ですね。行きましょう!」

「は、はい!」

 リディアの行動力に護衛たちは慌てて付き従った。
 三人は連れ立って外に出た。
 間違いなくここは王城だった。
 大理石の床に絨毯が敷き詰められている。

「こっちです」

 王宮の構造を知るハンクに従い階段を上り目的地へと順調に進む。
 二階に駆け上がり三階にさしかかったときに、無数の人影が階段を通せん坊しているのに鉢合わせした。

「……お止まりください。この先には入れません」

 階段を守る兵士は、階上に行こうとするリディアたちを厳しい目で見とがめた。
 一見で理解できるほどの物々しい武装をした集団だった。
 その兵たち向けてリディアは叫んだ。

「お願いします! 通してください! クライヴ様が危険なんです!」

 無駄だと知りつつもリディアは懇願した。
 言葉が通じる可能性があるとリディアは考えた。
 もしかしたらこの人達は事情を知らない中立の兵士の可能性があるからだ。

「なぜそれを。ちっ、申し訳ありませんが別室にお越しいただけますか」
 
 だがそれを告げた瞬間に、兵士の顔に露骨な警戒心が浮かんだ。
 そしてリディアの手をがっとつかみ無理やり引き連れようとする。
 その所作にリディアは完全にこの兵士はシェルザスの手のものだと理解した。

「リディア様!」

 リディアの護衛二人が血相を変えて割り込もうとするより早くリディアは――兵士に掴まれた手に霊力を込めていた。

「退きなさい!」

 瞬間だった。
 リディアの聖女の力が発動し、霊力の発生光が取り囲む兵士たちの体を走り抜ける。
 そして。

「ぎゃ、ぎゃああああ!? いてえっ!?」

「うわあああ!? 手がっ、熱い」

 10人はいたであろう兵士が、手や足を抑え地面に崩れ落ちた。
 リディアの過剰な霊力による腐敗効果――。
 悪魔の力と呼ばれたそれにより兵士たちは一瞬で無力化される。

「す、すげえ……」

 護衛たち二人はぽかんとリディアを見た。
 武装した兵士たちがまたたくまに制圧されたのだ。
 衝撃ではらりと額を隠すローブがはだけ、リディアの角が露出した。

「ひ、ひいっ……あ、悪魔だ……こんな……」

 倒れ伏す兵士たちを見てリディアは悲しそうにその角を抑えた。

「こんなふうに……使いたい力じゃないんですよ……」

 そうぽつりとつぶやいてリディアは地面から顔を起こし前を向いた。

「どうしたッ!? 何があったっ!?」

 だが、その騒ぎを聞きつけた兵士たちが階下から大挙として押し寄せてきた。

「げえっ!? まずいッスよ気づかれた!」

 リックが大挙として押し寄せる兵をみて慌てふためいた。
 舌打ちしてハンクがリックの腕を引きずいっと階段の下に立ちふさがった。

「リディア様! ここは俺たちで止めます! クライヴ様に早く伝えてください!」

 背を向けながらハンクはリディアにそう告げた。

「え――――ーっ!? ハンクさん!? 20人はいますよ!」

 リックが情けない声を上げる。

「王様が味方連れて来るまで耐えりゃいいんだよ!」

「そんなっ……二人だけであの人数は……一緒に会場まで」

 ハンクの声も震えている。手を伸ばしたリディアだったが。

「リディア様! ここが一斉に襲いかかられない一番守りやすい場なんです!」

 ハンクは決然とそれを拒絶し、階上を指さしてリディアを促した。

「もう、外に出る道は封鎖されるでしょう。クライヴ様を連れ出して、可能ならば一緒に戦ってもらったほうが良い」

 ハンクの覚悟に気圧されてその手を引っ込めた。
 リディアは意を決してハンクたちに背を向け一礼した。

「ありがとうございます! ご無事で!」

 護衛二人の気配を背に受けながらリディアは階段を登った。
 三階、叙勲式の元にあるクライヴの元へ。






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