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第五章 艦隊出撃
軍港の奇蹟
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ルークスは外に出るやグラン・シルフに呼びかけた。
不可視状態で頭上にいたインスピラティオーネが姿を見せる。
「今来られる友達を全部集めてくれ。それから、リートレが戻っていたら呼んで」
「直ちに」
埠頭へと突き進むルークスの後ろにフォルティスらが続く。最後尾は連絡将校のエクセル海尉だ。
「ルークス卿は何をする気だ?」
プレイクラウス卿が苦虫を噛み潰した顔で弟に問いかける。短慮な少年に立腹していた。
フォルティスは言葉に注意して答える。
「精霊にまつわる迷信を打ち消すつもりです。恐らく力業に出るでしょう」
「それで問題は起きないのか?」
「逆です。迷信という既に起きている問題を解決します」
「それは詭弁ではないか!?」
「プレイクラウス卿は心配性ですな。御舎弟への責任でしたら、心配ご無用。これは軍事行動の一部、つまり私の管轄ですので」
と長身の将軍が取りなした。
「私は私事で物申しているわけではない!」
「我々年長者は、若者の暴走を見届けてから腰を上げればよろしい。走る前から手綱を引いては前に進めませんぞ」
「何を悠長な!」
二人の温度差は、騎士団と軍の「ルークスへの評価」の差だった。
学園で騎士がルークスに無礼をされたこともあるが、それ以上に「騎士団はイノリの活躍を見ていない」ことが大きい。
イノリがソロス川で戦闘していたとき、騎士団は上流の山間部で作戦中だった。
多数の死傷者を出し、リスティア軍の妨害を排除して勝敗を決める濁流を引き起こした。
「勝利を決したのは騎士団である」との思いがあった。
ましてやプレイクラウス卿は総司令官を捕縛までしている。
対して軍にとってルークスは戦友の息子であり、悲願のグラン・シルフ契約者でもあった。
ソロス川ではイノリの活躍に加え、グラン・シルフによる敵兵の渡河阻止も目撃している。
もしルークスが来なければ、濁流が来る前に少なくともゴーレム部隊には渡河されていたはず。
そうなれば戦争に負けていた。
さらに言えば「濁流が無くてもイノリは敵ゴーレムを壊滅させられた」との見方が圧倒的である。
ゴーレムさえ全滅させれば、リスティア軍将兵が戦意を失い撤退するのは自明であった。
味方の功績にケチを付けるのは争いの元なので、互いに触れずにいた。
しかしその配慮が新型ゴーレムひいてはルークスへの評価で温度差を生んでいたことに、まだ双方とも気付いていなかった。
だのでルークスの暴走を騎士は問題視し、将軍は黙認する姿勢となった。
戦闘集団の指揮官に最年少の将軍を選んだのも、ルークスが暴走するならさせるに任せる為だ。
慎重な年輩者は幕僚に置き「止め時」を見極めれば良いとの判断だ。
何しろルークスの暴走の成果が新型ゴーレムなのだ。
余程の事でもない限り、途中で止める判断はしない。
実際スーマム将軍は殊勝な事を口にはしたが、内心では「ルークスが何を見せてくれるか」期待に胸を弾ませていた。
その点では笑っている傭兵サルヴァージと同列であった。
兄と将軍との口論に、ルークスを追いながらフォルティスは嘆いた。
兄が真面目過ぎることを。
(いや、私もか)
父親を含めエクエス家の人間は生真面目が過ぎる。
秩序の守護者であれ、との騎士の教えが徹底されているからだ。
対して軍は創設されて日が浅く、日夜進歩をし続けている。
守るべき伝統もなく、停滞を恐れ変化を歓迎する意識が強い。
(もう騎士は時代遅れなのだな)
少年従者は内心で嘆息するのだった。
埠頭には旗艦が接舷していた。
階段式のタラップの前で、数名の水夫が焚き火を囲んでいた。
密航や脱走に目を光らせているのだ。
ルークスは焚き火に近づくと彼らに言った。
「少し火から離れてください」
「なんだ、このガキは?」
「彼はルークス卿です。気を付けてください」
フォルティスの警告は別の意味にとられた。
巨漢の傭兵が大股でルークスに続いているのだ。
大男を騎士と勘違いした水夫たちは、慌てて焚き火から離れた。
「カリディータ」
ルークスが呼びかけると、焚き火から炎の柱が噴き上がった。
水夫たちが悲鳴をあげて逃げるなか、火の粉をまき散らしてサラマンダーの娘が現れる。
「あたしに何をさせようってんだ、ルークス」
「火の粉を高く舞い上げて」
「そのくらいチョロいもんだ」
カリディータは焚き火から無数の火の粉を頭上に放った。
「火の粉を拾える?」
とルークスは虚空に声をかける。
いつの間にかシルフたちが集まっていて、半透明な手に手に火の粉を包み込む。
しかし上昇する間に消えてしまう。
「あー、うまくいかないか」
腕を組んで首をひねるルークスに、サラマンダーが問いかける。
「おめえは何がしたいんだ?」
「シルフたちを照らしたいんだけど、焚き火じゃ小さすぎる。でも火の粉じゃ消えちゃうね」
「照らすだけで、熱する必要はねえんだな?」
「そう。だから火でなくてもいいんだ。蛍でも」
「どれくらい照らせるかは、やってみねえとな」
カリディータは目を閉じた。
不意にその存在が「薄く」なるや、サラマンダーに大きくなる。
元からルークスより背はあるカリディータが、みるみる膨張して巨漢の傭兵を越し、舷側より高くなった。
巨大化した半透明のサラマンダーを通して、軍艦が見える。
その足下では、焚き火の上に元の大きさでほとんど見えないほど薄まったカリディータがいた。
そちらが実像で、巨体は虚像である。
虚像を取り巻く炎と放たれる火の粉が、帆桁の先まで夜空に浮かびあがらせた。
夜空を群舞するシルフたちの姿が照らしだされ、下にいる人間たちの目に映った。
「「「!?」」」
水夫や港の人間が驚き仰ぎ見る。
シルフの数は十や二十ではない。数十、それ以上だ。
グラン・シルフがルークスに報告する。
「ウンディーネたちが戻りました」
飛沫を上げてリートレが海面から飛び上がり、埠頭に降り立った。
「やっと皆を見つけたわ」
「お疲れ様。じゃあ、水柱を高く上げてくれるかな?」
「任せて、ルークスちゃん」
また海に飛び込むとリートレは水柱を帆柱より高く吹き上げた。
それが二本、三本と立ち上り、六本の水柱が旗艦を取り巻く。
水滴が炎を反射して光る雨となった。
リートレは今まで、ルークスの「旧友」ウンディーネ五人を探しに出ていたのだ。
接舷した旗艦や錨泊している軍艦にいた水夫や士官たちが、甲板に出てきて目を剥いた。
光る水柱と雨に囲まれた旗艦の前には炎の巨人、頭上にはシルフが群れなしている。
埠頭に屹立する輝く巨人と群れ飛ぶシルフは、宿舎にいるパトリア軍やリスティア解放軍の目にも映った。
「これは、何が起きているのだ?」
キニロギキ参謀長がうめく。
ルークスの頭上で、グラン・シルフが自らの姿をカリディータより大きくした。
「上位精霊が張り合うなよ」
とカリディータがぼやく。
インスピラティオーネは軍港中に声を響かせた。
「グラン・シルフのインスピラティオーネである! 我が主ルークス・レークタは我ら精霊の加護に守られている! 見よ!! ルークスを守るために集まった友の数々を!!」
シルフたちは一斉に散開、手近な人間に吹き寄り、語りながら飛び回る。
「おいらはルークスの友達さ」
「ルークスのためにはるばるやってきたのよ」
「ルークスのために力を振るえるなんて嬉しいや」
さらにインスピラティオーネは言う。
「今いるだけで百名を越すシルフ、遠すぎたり連絡が取れずで来ておらぬシルフは四十以上! さらに六名のウンディーネに加え、見てのとおりサラマンダー、そしてオムも助力する!」
四属性全ての精霊に守られた精霊使いなど、歴史上でも存在しない。
相性の壁を破った下位土精の存在が、それだけ特別だった。
この騒ぎに、好奇心が強いシルフが集まってきた。
噂のルークスに近寄り、そのまま友達になる者が続出する。
なおもインスピラティオーネは大音声を響かせた。
「精霊使いが船に乗ると嵐を招く? 笑止!! 何千何万のシルフが連携する嵐を、十や二十のシルフで招けるものか! たかだか一艦隊にいるシルフ程度で、嵐が向きを変えるなどあり得ない!!」
「そうか。ならさあ」
不意にルークスは上を向いて言った。
「ここにいる全員が力を合わせたら、嵐の向きを変えられるんじゃないの?」
「は?」
足下からの横槍に、さしものグラン・シルフも当惑してしまう。
ルークスの悪癖である、思ったことをすぐ口にし、それまでの事を忘れる特性が出たのだ。
「だってグラン・シルフがいて、これだけ友達がいるんだよ? 嵐を動かすことだってできるよね?」
「嵐は莫大な空気の流れと気圧の勾配によって動くもので、構成するシルフたちでさえ制御できるものではありません」
「だから、作れば良いんだよね? 空気の流れや気圧の勾配を」
「それは――まあ、挑戦してみないと」
「ねえ皆!」
とルークスは空に呼びかけた。
「世界で初めての『嵐を動かしたシルフ』に、なりたくない!?」
この呼びかけに初対面のシルフたちは顔を見合わせる。
「この人間は何を言い出すんだ?」と戸惑っていた。
だがルークスの友達にとっては魅力的な「遊びの誘い」だった。
「できるか?」
「これだけいればできるかも」
「やれるんじゃないか?」
シルフたちのささやきが波紋のごとく広まるにつれ、興奮が高まってゆく。
「やっちまおうぜ!」
「やってやろう!」
「やろう、やろう!」
「嵐を思いのままに動かすんだ!!」
ルークスの友達だけでなく、集まってきたシルフたちも巻き込み空はお祭り騒ぎになった。
その様に港にいた人間たちは呆然となっている。
特に水夫たちの衝撃は大きかった。
「精霊が、人間のために喜んで働く、だと?」
精霊とは自然の猛威そのもので、人間が御せるはずがない。
その世界観が転覆したのだ。
反対に、ずっと肩身が狭い思いをしていた精霊士たちは涙を流して喜んだ。
風に愛された少年、の通り名のごとくルークスは迷信を吹き飛ばしたのだった。
この大転換の場面を、海軍本部の大広間にいた海軍上層部は誰一人として目撃しなかった。
エクセル海尉がフラッシュ提督に必死に進言するも却下されたので、外に出るどころか窓から見もしなかったのだ。
不可視状態で頭上にいたインスピラティオーネが姿を見せる。
「今来られる友達を全部集めてくれ。それから、リートレが戻っていたら呼んで」
「直ちに」
埠頭へと突き進むルークスの後ろにフォルティスらが続く。最後尾は連絡将校のエクセル海尉だ。
「ルークス卿は何をする気だ?」
プレイクラウス卿が苦虫を噛み潰した顔で弟に問いかける。短慮な少年に立腹していた。
フォルティスは言葉に注意して答える。
「精霊にまつわる迷信を打ち消すつもりです。恐らく力業に出るでしょう」
「それで問題は起きないのか?」
「逆です。迷信という既に起きている問題を解決します」
「それは詭弁ではないか!?」
「プレイクラウス卿は心配性ですな。御舎弟への責任でしたら、心配ご無用。これは軍事行動の一部、つまり私の管轄ですので」
と長身の将軍が取りなした。
「私は私事で物申しているわけではない!」
「我々年長者は、若者の暴走を見届けてから腰を上げればよろしい。走る前から手綱を引いては前に進めませんぞ」
「何を悠長な!」
二人の温度差は、騎士団と軍の「ルークスへの評価」の差だった。
学園で騎士がルークスに無礼をされたこともあるが、それ以上に「騎士団はイノリの活躍を見ていない」ことが大きい。
イノリがソロス川で戦闘していたとき、騎士団は上流の山間部で作戦中だった。
多数の死傷者を出し、リスティア軍の妨害を排除して勝敗を決める濁流を引き起こした。
「勝利を決したのは騎士団である」との思いがあった。
ましてやプレイクラウス卿は総司令官を捕縛までしている。
対して軍にとってルークスは戦友の息子であり、悲願のグラン・シルフ契約者でもあった。
ソロス川ではイノリの活躍に加え、グラン・シルフによる敵兵の渡河阻止も目撃している。
もしルークスが来なければ、濁流が来る前に少なくともゴーレム部隊には渡河されていたはず。
そうなれば戦争に負けていた。
さらに言えば「濁流が無くてもイノリは敵ゴーレムを壊滅させられた」との見方が圧倒的である。
ゴーレムさえ全滅させれば、リスティア軍将兵が戦意を失い撤退するのは自明であった。
味方の功績にケチを付けるのは争いの元なので、互いに触れずにいた。
しかしその配慮が新型ゴーレムひいてはルークスへの評価で温度差を生んでいたことに、まだ双方とも気付いていなかった。
だのでルークスの暴走を騎士は問題視し、将軍は黙認する姿勢となった。
戦闘集団の指揮官に最年少の将軍を選んだのも、ルークスが暴走するならさせるに任せる為だ。
慎重な年輩者は幕僚に置き「止め時」を見極めれば良いとの判断だ。
何しろルークスの暴走の成果が新型ゴーレムなのだ。
余程の事でもない限り、途中で止める判断はしない。
実際スーマム将軍は殊勝な事を口にはしたが、内心では「ルークスが何を見せてくれるか」期待に胸を弾ませていた。
その点では笑っている傭兵サルヴァージと同列であった。
兄と将軍との口論に、ルークスを追いながらフォルティスは嘆いた。
兄が真面目過ぎることを。
(いや、私もか)
父親を含めエクエス家の人間は生真面目が過ぎる。
秩序の守護者であれ、との騎士の教えが徹底されているからだ。
対して軍は創設されて日が浅く、日夜進歩をし続けている。
守るべき伝統もなく、停滞を恐れ変化を歓迎する意識が強い。
(もう騎士は時代遅れなのだな)
少年従者は内心で嘆息するのだった。
埠頭には旗艦が接舷していた。
階段式のタラップの前で、数名の水夫が焚き火を囲んでいた。
密航や脱走に目を光らせているのだ。
ルークスは焚き火に近づくと彼らに言った。
「少し火から離れてください」
「なんだ、このガキは?」
「彼はルークス卿です。気を付けてください」
フォルティスの警告は別の意味にとられた。
巨漢の傭兵が大股でルークスに続いているのだ。
大男を騎士と勘違いした水夫たちは、慌てて焚き火から離れた。
「カリディータ」
ルークスが呼びかけると、焚き火から炎の柱が噴き上がった。
水夫たちが悲鳴をあげて逃げるなか、火の粉をまき散らしてサラマンダーの娘が現れる。
「あたしに何をさせようってんだ、ルークス」
「火の粉を高く舞い上げて」
「そのくらいチョロいもんだ」
カリディータは焚き火から無数の火の粉を頭上に放った。
「火の粉を拾える?」
とルークスは虚空に声をかける。
いつの間にかシルフたちが集まっていて、半透明な手に手に火の粉を包み込む。
しかし上昇する間に消えてしまう。
「あー、うまくいかないか」
腕を組んで首をひねるルークスに、サラマンダーが問いかける。
「おめえは何がしたいんだ?」
「シルフたちを照らしたいんだけど、焚き火じゃ小さすぎる。でも火の粉じゃ消えちゃうね」
「照らすだけで、熱する必要はねえんだな?」
「そう。だから火でなくてもいいんだ。蛍でも」
「どれくらい照らせるかは、やってみねえとな」
カリディータは目を閉じた。
不意にその存在が「薄く」なるや、サラマンダーに大きくなる。
元からルークスより背はあるカリディータが、みるみる膨張して巨漢の傭兵を越し、舷側より高くなった。
巨大化した半透明のサラマンダーを通して、軍艦が見える。
その足下では、焚き火の上に元の大きさでほとんど見えないほど薄まったカリディータがいた。
そちらが実像で、巨体は虚像である。
虚像を取り巻く炎と放たれる火の粉が、帆桁の先まで夜空に浮かびあがらせた。
夜空を群舞するシルフたちの姿が照らしだされ、下にいる人間たちの目に映った。
「「「!?」」」
水夫や港の人間が驚き仰ぎ見る。
シルフの数は十や二十ではない。数十、それ以上だ。
グラン・シルフがルークスに報告する。
「ウンディーネたちが戻りました」
飛沫を上げてリートレが海面から飛び上がり、埠頭に降り立った。
「やっと皆を見つけたわ」
「お疲れ様。じゃあ、水柱を高く上げてくれるかな?」
「任せて、ルークスちゃん」
また海に飛び込むとリートレは水柱を帆柱より高く吹き上げた。
それが二本、三本と立ち上り、六本の水柱が旗艦を取り巻く。
水滴が炎を反射して光る雨となった。
リートレは今まで、ルークスの「旧友」ウンディーネ五人を探しに出ていたのだ。
接舷した旗艦や錨泊している軍艦にいた水夫や士官たちが、甲板に出てきて目を剥いた。
光る水柱と雨に囲まれた旗艦の前には炎の巨人、頭上にはシルフが群れなしている。
埠頭に屹立する輝く巨人と群れ飛ぶシルフは、宿舎にいるパトリア軍やリスティア解放軍の目にも映った。
「これは、何が起きているのだ?」
キニロギキ参謀長がうめく。
ルークスの頭上で、グラン・シルフが自らの姿をカリディータより大きくした。
「上位精霊が張り合うなよ」
とカリディータがぼやく。
インスピラティオーネは軍港中に声を響かせた。
「グラン・シルフのインスピラティオーネである! 我が主ルークス・レークタは我ら精霊の加護に守られている! 見よ!! ルークスを守るために集まった友の数々を!!」
シルフたちは一斉に散開、手近な人間に吹き寄り、語りながら飛び回る。
「おいらはルークスの友達さ」
「ルークスのためにはるばるやってきたのよ」
「ルークスのために力を振るえるなんて嬉しいや」
さらにインスピラティオーネは言う。
「今いるだけで百名を越すシルフ、遠すぎたり連絡が取れずで来ておらぬシルフは四十以上! さらに六名のウンディーネに加え、見てのとおりサラマンダー、そしてオムも助力する!」
四属性全ての精霊に守られた精霊使いなど、歴史上でも存在しない。
相性の壁を破った下位土精の存在が、それだけ特別だった。
この騒ぎに、好奇心が強いシルフが集まってきた。
噂のルークスに近寄り、そのまま友達になる者が続出する。
なおもインスピラティオーネは大音声を響かせた。
「精霊使いが船に乗ると嵐を招く? 笑止!! 何千何万のシルフが連携する嵐を、十や二十のシルフで招けるものか! たかだか一艦隊にいるシルフ程度で、嵐が向きを変えるなどあり得ない!!」
「そうか。ならさあ」
不意にルークスは上を向いて言った。
「ここにいる全員が力を合わせたら、嵐の向きを変えられるんじゃないの?」
「は?」
足下からの横槍に、さしものグラン・シルフも当惑してしまう。
ルークスの悪癖である、思ったことをすぐ口にし、それまでの事を忘れる特性が出たのだ。
「だってグラン・シルフがいて、これだけ友達がいるんだよ? 嵐を動かすことだってできるよね?」
「嵐は莫大な空気の流れと気圧の勾配によって動くもので、構成するシルフたちでさえ制御できるものではありません」
「だから、作れば良いんだよね? 空気の流れや気圧の勾配を」
「それは――まあ、挑戦してみないと」
「ねえ皆!」
とルークスは空に呼びかけた。
「世界で初めての『嵐を動かしたシルフ』に、なりたくない!?」
この呼びかけに初対面のシルフたちは顔を見合わせる。
「この人間は何を言い出すんだ?」と戸惑っていた。
だがルークスの友達にとっては魅力的な「遊びの誘い」だった。
「できるか?」
「これだけいればできるかも」
「やれるんじゃないか?」
シルフたちのささやきが波紋のごとく広まるにつれ、興奮が高まってゆく。
「やっちまおうぜ!」
「やってやろう!」
「やろう、やろう!」
「嵐を思いのままに動かすんだ!!」
ルークスの友達だけでなく、集まってきたシルフたちも巻き込み空はお祭り騒ぎになった。
その様に港にいた人間たちは呆然となっている。
特に水夫たちの衝撃は大きかった。
「精霊が、人間のために喜んで働く、だと?」
精霊とは自然の猛威そのもので、人間が御せるはずがない。
その世界観が転覆したのだ。
反対に、ずっと肩身が狭い思いをしていた精霊士たちは涙を流して喜んだ。
風に愛された少年、の通り名のごとくルークスは迷信を吹き飛ばしたのだった。
この大転換の場面を、海軍本部の大広間にいた海軍上層部は誰一人として目撃しなかった。
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