127 / 187
第六章 帝国のゴーレム
連絡将校の夢
しおりを挟む
わずか二日間でエステル海尉の世界観は大変動した。
二十一才のオミネム・エステルはパトリア海軍本部所属の将校である。
先日、彼女はルークス卿の連絡将校に指名された。
連絡将校は建前で、その実ルークスに対する諜報活動だと内々に知らされた。
新型ゴーレムや精霊などの極秘情報、そして彼を操るのに必要な情報を収集するのが主な任務だ。
その為には対象から信頼される必要がある。
エクセル海尉は理解ある年上女性を演じた。
前日、帝国艦三隻を拿捕した艦上で、ルークスが突然「上陸地点の変更」を言いだしたときも、笑みこそ消したが黙っていた。
上陸地点の変更だけなら問題ない。むしろ望ましい。
逆に「敵が待ち伏せている場所への上陸」に執着したら諫言する場面だ。
問題は変更地点にあった。
大王都ケファレイオの海の玄関であるリマーニ軍港は、難攻不落の要衝と呼ばれている。
リスティア解放軍の参謀長が即座に「海からでは決して攻略できません」と断言したほどだ。
岬に囲われた入り江にあり、岬に配備されたゴーレムの投石で「大型船も沈められる」と言う。
しかもルークスが選んだ理由が「拿捕した艦隊の母港」だから呆れる。
さすがに諫めようとした連絡将校の眼前で、対象はあっさり言った。
「岬のゴーレムは新型ゴーレムが片付けます」
「その新型はどこに?」
「その質問には答えられません」
眼鏡の参謀長が顔をしかめるも、少年は涼しい顔だ。
新型ゴーレムの所在はパトリア海軍も知らない。
軍艦で運ぶとの偽情報まで流し、海に沈めてどこかへやってしまった。
エクセル海尉は心中で毒づく。
(海底を歩かせるなら、鎧なんか積む必要ないでしょ)
恐らく陸軍の連中も知らないだろう。
だのに長身の将軍は澄まし顔で言う。
「思いも寄らぬ場所に来るのが、新型ゴーレム最大の強みですから」
連絡将校は「新型ゴーレムが自艦に積載されている」とは夢にも思わなかった。
水と空気以外の体積が一樽分しかない、などは誰にも想像できない。
樽に収まるまでルークスも知らなかったのだから。
話を真に受けたリスティア人参謀長は、新型ゴーレムありきの奇策を練り上げた。
「拿捕艦三隻を帝国軍艦に偽装――つまり現状のまま――当艦隊に追跡されているように装います。その三隻を軍港に突入させて――岬のゴーレムを港内に突き落とせますか? 大波を起こしたい」
ルークスは二つ返事で「できる」と言ったあとで確認する。
「岬から落ちた先が海面なら」
「それなら大丈夫。切り立った崖の下はかなり深いはず」
「波が足りなかったら、イノリに飛び込ませましょう」
初めてリスティア人は新型ゴーレムの呼称を知った。
細部の確認で地図を見ていたルークスが、唐突に言いだす。
「旗艦を変更しないといけませんね」
「何故です?」
ティモール提督が怪訝な顔になる。
「このデルフィナ号は浜に乗り上げてもらいますから」
ルークスは軍港の南の砂浜を指した。
「そこで新型ゴーレムに武具を渡します。ですので旗艦はグライフェン号に戻して、ティモール提督には移乗してもらいましょう」
慣れた艦を離れるのに難色を示した臨時提督を、ルークスは追いこむ。
「浜に乗り上げ動けない船で艦隊指揮ができますか? 軍港近くで乗り換えのために止めるなんてできませんよ?」
ウンディーネがルークスの肩を突いた。
「ルークスちゃん、人間一人なら私たちが動いている船から船へ運べるわ」
「そりゃいいや。じゃあティモール提督には、海に飛び込んでもらって、ウンディーネたちに運ばせて、海面から甲板まで放り投げてもらおう」
「ルークス卿、あなたはもしご自分が『それをやれ』と言われたらやるのですか!?」
たまりかねた提督に、ルークスは事もなげに言う。
「簡単ですよ。人間は飛び込むだけで、あとは精霊が運んでくれます。なんなら、今やってみせましょうか?」
うな垂れたティモール提督は、事前の移乗に同意するしかなかった。
ルークスが精霊を信頼する度合いに舌を巻きつつ、フォルティスは考えた。
「ルークス卿、敵艦隊の哨戒は今後密になるはずです」
「そうだね。そうやってリマーニ所属の艦隊は僕らを探しているから、出払っているだろうね」
度を超した対象の楽観ぶりに、エクセル海尉は性格把握のために異を唱えた。
「しかし空にはしないでしょう。出入りもあるので、軍港に近づくほど発見される危険が増します」
「ここから北へ行くまでの間よりも、リマーニまでの方が遙かに短いし――」
(まだ子供だ。自分の意見に固執している)
しゃべっているうちにルークスは、急に遠い目をした。
「――嵐の中、敵艦隊を探すってできる?」
「風雨が弱ければある程度は。昼中に限りますが。強い嵐では転覆や離散をしないよう操艦するので手一杯になります」
「じゃあ嵐に先行してもらって、それを追いかけよう。嵐に吹き込む風が使えるよ」
「しかし嵐は今、東にあって――」
「だから動かすんだよ。嵐を」
昨夜、シルフたちに言った不可能事を口にした。
連絡将校は信じなかった。昨晩も今も。
だがグラン・シルフは「昨夜のうちに手順は組んでおります」と頷くのだった。
(まさか、可能と言うの?)
そして大精霊の号令一下、風精たちは一斉に東へと飛び去った。
時折伝令が戻るくらいで、警戒要員まで動員した総掛かりである。
嵐をどうやって動かすかはルークスも理解しておらず、説明はフォルティスの役目になった。
「嵐は気圧の山に押され、気圧の谷に引かれるそうです。シルフたちは嵐の前方に山を、嵐の西に気圧の谷を作ります。山は下降気流で、谷は上昇気流で作れるそうです。
「嵐の北で下降したシルフは海面ギリギリを嵐の西まで移動、そこで上昇、上空で転じ嵐の北へ行き、再び降下します。これを繰り返すことで嵐の北上を阻害しつつ、西に引っ張るのです」
「本当に可能なのですか?」
エクセル海尉の問いかけにフォルティスはうなずく。
「原理的に可能だから精霊たちがは取りかかったのです。ただ嵐との力比べは『やってみないと分からない』らしいです」
肯定されたので彼女は小躍りしたくなった。
(天変地異を制御できたら歴史が変わる)
是が非でも成功して欲しいものだ。
暗くなるころシルフの伝令が「嵐が西に動きだした」と報告した。
風向きが変わり、向かい風を切り上がっていた艦隊は、南からの追い風を受けて北上ペースを速めた。
風が強まり波も高まったので艦隊は帆を畳み、風上に舳先を向けて艦尾から吹き流しを垂らした。
それでも風に押されて北に流されてゆく。
夜が更けるにつれ、嵐が艦隊の北を横切ってゆくのをシルフが報告する。
エクセル海尉は興奮を抑えきれなかった。
嵐を自在に動かせるなら、望んだ場所に雨を降らせられるではないか。
パトリア王国はもう干ばつに苦しむことはなくなり、敵国に洪水を引き起こせる。
竜巻で海戦に勝つどころではない。
天候制御能力をクナトス殿下が得れば、世界を掌中に収めるのも夢ではない。
(なんとしても、あの坊やを味方に引き入れなければ)
彼女は決意をさらに固めた。
夜が明けても全天が雲に覆われた空は暗い。
シルフが「嵐はリマーニ軍港を逸れ、やや北に上陸した」と報告した。
それでも軍港は暴風雨のまっただ中だ。
「やった! お疲れ。あとは嵐を北に追い払うだけだね」
喜ぶルークスにシルフが笑いかける。
「精霊が疲れるかよ」
夕刻、嵐が去った直後の軍港に艦隊は到着した。
西日に照らされた海上に、他の艦影は見当たらない。
作戦どおり帝国軍旗を掲げた拿捕艦が軍港に逃げ込む。
デルフィナ号は舵の故障を装い砂浜に突進、波打ち際からかなり離れた位置で着底、停止した。
海兵を乗せた長艇を水夫が下ろす。
火矢を射られたら木造艦はひとたまりもない。砂浜に防衛線を敷く必要がある。
エクセル海尉も降りる準備をし、舷側から海面を見下ろした。
濁った波の引き際に砂州が見え隠れする。
「これだけ浅ければ、沈んでいたゴーレムも――」
水夫たちが驚き騒ぐ方を見て、彼女は息を詰まらせた。
艦尾の後ろに巨大な泥の女性――新型ゴーレムが立っているではないか。
「いつの間に――ルークス卿!?」
少年の姿は甲板から消えていた。
場違いな装いの者は従者と傭兵、陸軍の将兵しかいない。
イノリは船倉から上げられていた槍を掴むと、索具が交錯する甲板から慎重に抜き取る。
そして鎧は着けずに走りだした。
既に拿捕艦隊は岬に隠れている。
だが走る巨大な女性の姿に、エクセル海尉の懸念は吹き飛んだ。
あっという間に新型ゴーレムは岬先端の作業ゴーレムを倒し、海に飛び込む。
連絡将校は息を切らせて岬の尾根に駆け上がった。
岸壁にゴーレムの残骸が点在している。
新型ゴーレムは、都市を囲む城壁に達していた。
城門を守る敵ゴーレムが戦槌を振り上げるや、イノリは一瞬で横に回りこんだ。
槍でひと突き。
直後にゴーレムが破裂して崩れた。
最後の一基も同様に、神速の動きで破壊される。
まるで亀と犬くらい、両者の動きに差があった。
「帝国が奪いに来るわけだ……」
サントル帝国最大の強みである「圧倒的な数のゴーレム」を無効化してしまう新型ゴーレムに、エクセル海尉は笑いが止まらない。
陸も海も、たった一基で制することができるではないか。
(何としても手懐けるのだ。クナトス殿下が世界を掌中に収めるために!)
その為に欠かせない、重大な使命を任された我が身をエクセル海尉は誇った。
それだけプロディートル公爵に「信頼されている」ことを意味するのだから。
二十一才のオミネム・エステルはパトリア海軍本部所属の将校である。
先日、彼女はルークス卿の連絡将校に指名された。
連絡将校は建前で、その実ルークスに対する諜報活動だと内々に知らされた。
新型ゴーレムや精霊などの極秘情報、そして彼を操るのに必要な情報を収集するのが主な任務だ。
その為には対象から信頼される必要がある。
エクセル海尉は理解ある年上女性を演じた。
前日、帝国艦三隻を拿捕した艦上で、ルークスが突然「上陸地点の変更」を言いだしたときも、笑みこそ消したが黙っていた。
上陸地点の変更だけなら問題ない。むしろ望ましい。
逆に「敵が待ち伏せている場所への上陸」に執着したら諫言する場面だ。
問題は変更地点にあった。
大王都ケファレイオの海の玄関であるリマーニ軍港は、難攻不落の要衝と呼ばれている。
リスティア解放軍の参謀長が即座に「海からでは決して攻略できません」と断言したほどだ。
岬に囲われた入り江にあり、岬に配備されたゴーレムの投石で「大型船も沈められる」と言う。
しかもルークスが選んだ理由が「拿捕した艦隊の母港」だから呆れる。
さすがに諫めようとした連絡将校の眼前で、対象はあっさり言った。
「岬のゴーレムは新型ゴーレムが片付けます」
「その新型はどこに?」
「その質問には答えられません」
眼鏡の参謀長が顔をしかめるも、少年は涼しい顔だ。
新型ゴーレムの所在はパトリア海軍も知らない。
軍艦で運ぶとの偽情報まで流し、海に沈めてどこかへやってしまった。
エクセル海尉は心中で毒づく。
(海底を歩かせるなら、鎧なんか積む必要ないでしょ)
恐らく陸軍の連中も知らないだろう。
だのに長身の将軍は澄まし顔で言う。
「思いも寄らぬ場所に来るのが、新型ゴーレム最大の強みですから」
連絡将校は「新型ゴーレムが自艦に積載されている」とは夢にも思わなかった。
水と空気以外の体積が一樽分しかない、などは誰にも想像できない。
樽に収まるまでルークスも知らなかったのだから。
話を真に受けたリスティア人参謀長は、新型ゴーレムありきの奇策を練り上げた。
「拿捕艦三隻を帝国軍艦に偽装――つまり現状のまま――当艦隊に追跡されているように装います。その三隻を軍港に突入させて――岬のゴーレムを港内に突き落とせますか? 大波を起こしたい」
ルークスは二つ返事で「できる」と言ったあとで確認する。
「岬から落ちた先が海面なら」
「それなら大丈夫。切り立った崖の下はかなり深いはず」
「波が足りなかったら、イノリに飛び込ませましょう」
初めてリスティア人は新型ゴーレムの呼称を知った。
細部の確認で地図を見ていたルークスが、唐突に言いだす。
「旗艦を変更しないといけませんね」
「何故です?」
ティモール提督が怪訝な顔になる。
「このデルフィナ号は浜に乗り上げてもらいますから」
ルークスは軍港の南の砂浜を指した。
「そこで新型ゴーレムに武具を渡します。ですので旗艦はグライフェン号に戻して、ティモール提督には移乗してもらいましょう」
慣れた艦を離れるのに難色を示した臨時提督を、ルークスは追いこむ。
「浜に乗り上げ動けない船で艦隊指揮ができますか? 軍港近くで乗り換えのために止めるなんてできませんよ?」
ウンディーネがルークスの肩を突いた。
「ルークスちゃん、人間一人なら私たちが動いている船から船へ運べるわ」
「そりゃいいや。じゃあティモール提督には、海に飛び込んでもらって、ウンディーネたちに運ばせて、海面から甲板まで放り投げてもらおう」
「ルークス卿、あなたはもしご自分が『それをやれ』と言われたらやるのですか!?」
たまりかねた提督に、ルークスは事もなげに言う。
「簡単ですよ。人間は飛び込むだけで、あとは精霊が運んでくれます。なんなら、今やってみせましょうか?」
うな垂れたティモール提督は、事前の移乗に同意するしかなかった。
ルークスが精霊を信頼する度合いに舌を巻きつつ、フォルティスは考えた。
「ルークス卿、敵艦隊の哨戒は今後密になるはずです」
「そうだね。そうやってリマーニ所属の艦隊は僕らを探しているから、出払っているだろうね」
度を超した対象の楽観ぶりに、エクセル海尉は性格把握のために異を唱えた。
「しかし空にはしないでしょう。出入りもあるので、軍港に近づくほど発見される危険が増します」
「ここから北へ行くまでの間よりも、リマーニまでの方が遙かに短いし――」
(まだ子供だ。自分の意見に固執している)
しゃべっているうちにルークスは、急に遠い目をした。
「――嵐の中、敵艦隊を探すってできる?」
「風雨が弱ければある程度は。昼中に限りますが。強い嵐では転覆や離散をしないよう操艦するので手一杯になります」
「じゃあ嵐に先行してもらって、それを追いかけよう。嵐に吹き込む風が使えるよ」
「しかし嵐は今、東にあって――」
「だから動かすんだよ。嵐を」
昨夜、シルフたちに言った不可能事を口にした。
連絡将校は信じなかった。昨晩も今も。
だがグラン・シルフは「昨夜のうちに手順は組んでおります」と頷くのだった。
(まさか、可能と言うの?)
そして大精霊の号令一下、風精たちは一斉に東へと飛び去った。
時折伝令が戻るくらいで、警戒要員まで動員した総掛かりである。
嵐をどうやって動かすかはルークスも理解しておらず、説明はフォルティスの役目になった。
「嵐は気圧の山に押され、気圧の谷に引かれるそうです。シルフたちは嵐の前方に山を、嵐の西に気圧の谷を作ります。山は下降気流で、谷は上昇気流で作れるそうです。
「嵐の北で下降したシルフは海面ギリギリを嵐の西まで移動、そこで上昇、上空で転じ嵐の北へ行き、再び降下します。これを繰り返すことで嵐の北上を阻害しつつ、西に引っ張るのです」
「本当に可能なのですか?」
エクセル海尉の問いかけにフォルティスはうなずく。
「原理的に可能だから精霊たちがは取りかかったのです。ただ嵐との力比べは『やってみないと分からない』らしいです」
肯定されたので彼女は小躍りしたくなった。
(天変地異を制御できたら歴史が変わる)
是が非でも成功して欲しいものだ。
暗くなるころシルフの伝令が「嵐が西に動きだした」と報告した。
風向きが変わり、向かい風を切り上がっていた艦隊は、南からの追い風を受けて北上ペースを速めた。
風が強まり波も高まったので艦隊は帆を畳み、風上に舳先を向けて艦尾から吹き流しを垂らした。
それでも風に押されて北に流されてゆく。
夜が更けるにつれ、嵐が艦隊の北を横切ってゆくのをシルフが報告する。
エクセル海尉は興奮を抑えきれなかった。
嵐を自在に動かせるなら、望んだ場所に雨を降らせられるではないか。
パトリア王国はもう干ばつに苦しむことはなくなり、敵国に洪水を引き起こせる。
竜巻で海戦に勝つどころではない。
天候制御能力をクナトス殿下が得れば、世界を掌中に収めるのも夢ではない。
(なんとしても、あの坊やを味方に引き入れなければ)
彼女は決意をさらに固めた。
夜が明けても全天が雲に覆われた空は暗い。
シルフが「嵐はリマーニ軍港を逸れ、やや北に上陸した」と報告した。
それでも軍港は暴風雨のまっただ中だ。
「やった! お疲れ。あとは嵐を北に追い払うだけだね」
喜ぶルークスにシルフが笑いかける。
「精霊が疲れるかよ」
夕刻、嵐が去った直後の軍港に艦隊は到着した。
西日に照らされた海上に、他の艦影は見当たらない。
作戦どおり帝国軍旗を掲げた拿捕艦が軍港に逃げ込む。
デルフィナ号は舵の故障を装い砂浜に突進、波打ち際からかなり離れた位置で着底、停止した。
海兵を乗せた長艇を水夫が下ろす。
火矢を射られたら木造艦はひとたまりもない。砂浜に防衛線を敷く必要がある。
エクセル海尉も降りる準備をし、舷側から海面を見下ろした。
濁った波の引き際に砂州が見え隠れする。
「これだけ浅ければ、沈んでいたゴーレムも――」
水夫たちが驚き騒ぐ方を見て、彼女は息を詰まらせた。
艦尾の後ろに巨大な泥の女性――新型ゴーレムが立っているではないか。
「いつの間に――ルークス卿!?」
少年の姿は甲板から消えていた。
場違いな装いの者は従者と傭兵、陸軍の将兵しかいない。
イノリは船倉から上げられていた槍を掴むと、索具が交錯する甲板から慎重に抜き取る。
そして鎧は着けずに走りだした。
既に拿捕艦隊は岬に隠れている。
だが走る巨大な女性の姿に、エクセル海尉の懸念は吹き飛んだ。
あっという間に新型ゴーレムは岬先端の作業ゴーレムを倒し、海に飛び込む。
連絡将校は息を切らせて岬の尾根に駆け上がった。
岸壁にゴーレムの残骸が点在している。
新型ゴーレムは、都市を囲む城壁に達していた。
城門を守る敵ゴーレムが戦槌を振り上げるや、イノリは一瞬で横に回りこんだ。
槍でひと突き。
直後にゴーレムが破裂して崩れた。
最後の一基も同様に、神速の動きで破壊される。
まるで亀と犬くらい、両者の動きに差があった。
「帝国が奪いに来るわけだ……」
サントル帝国最大の強みである「圧倒的な数のゴーレム」を無効化してしまう新型ゴーレムに、エクセル海尉は笑いが止まらない。
陸も海も、たった一基で制することができるではないか。
(何としても手懐けるのだ。クナトス殿下が世界を掌中に収めるために!)
その為に欠かせない、重大な使命を任された我が身をエクセル海尉は誇った。
それだけプロディートル公爵に「信頼されている」ことを意味するのだから。
0
あなたにおすすめの小説
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜
黒城白爵
ファンタジー
異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。
魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。
そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。
自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。
後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。
そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。
自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!
転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる