一基当千ゴーレムライダー ~十年かけても動かせないので自分で操縦します~

葵東

文字の大きさ
150 / 187
第七章 激突

想定外

しおりを挟む
 征北軍は軍を分割した。
 リスティア侵攻時に先鋒を担ったゴーレム偵察大隊二個と、騎兵一個連隊のみを北のリスティア=パトリア連合軍に差し向けたのだ。
 本隊はその場で防御陣を敷く。
 南西から来るはずのマルヴァド軍に備えるために。
 偵察大隊は軽量型ゴーレムのみで構成されている。
 それに切り札まで付けての速攻だ。
 鈍足行軍に慣れた敵は、この変化に対応できないと判断された。
 北の小部隊には新型ゴーレムのコマンダーがいる公算が大である。
 その者さえ始末してしまえば、新型ゴーレムも拿捕できよう。
 ホウト元帥は勝負に出たのだ。

                  א

 帝国軍の読みは当たっていた。
 街道を塞ぐリスティア=パトリア連合軍の陣地には、ルークスがいた。
 イノリの足下で、シルフたちから情報を聞き取っている。
 敵軍の動きに小柄な少年は驚いた。
「戦力を分散した!? まさか!!」
 両国の将兵らも驚愕する。
 帝国軍の選択肢は二つしかないはずだった。
 全軍でここを攻めるか、全軍で南西に備えるか、である。
 パトリア軍のプルデンス参謀長が仕掛けた策は、前半まで成功した。
 問題は、帝国軍が二手に分かれてしまったことである。
「戦場に付きものの、想定外が出ましたか」
 陣地の設営を補助しているスーマム将軍が苦笑した。
 パトリア軍は強奪物資輸送のためゴーレムマスターを多数動員していた。複数のノームと契約した精霊士たちだ。
 彼らのノームたちが土木作業に勤しんでいる。
 リスティア軍は工兵を中心に千人が陣地を構築し、騎兵が周辺を警戒していた。
 さらに部隊とは別にキニロギキ参謀長もいる。
 敵の最新情報が得られるからだ。
 眼鏡の参謀長は嘆息した。
「新型ゴーレムは仕留め、自らも助かろうとは、いささか虫が良すぎますな」
 従来通り歩兵にゴーレムを囲ませる陣形なら、到着は明後日だったろう。
 だが軽量型ゴーレムだけなら、今晩には着いてしまう。
 到着までに陣地が間に合わないのは確実である。
 両国の協議で陣地縮小が決まった。できる範囲だけやり、夕刻に非戦闘員を帰還させるのだ。

「どうせ視界を奪われるのですから、敵は夜戦を仕掛けるでしょうね」
 ルークスは気楽に言う。
 夜戦におけるイノリの強さは実証済みである。
 だが別方向から来たシルフの情報に、少年は眉をしかめた。
「偵察に放たれた騎兵が、個々に北上を始めました。ここを騎兵で囲む腹でしょうね」
 陣内に歩き入ったルークスは、作業に夢中になっている幼なじみの肩を叩いた。
「アルティ、すぐにケファレイオに戻って」
「え?」
 ずらりと並んだ鋼鉄の棒――自ら飛ぶ矢セルフボルトの点検に集中していたので、少女はやり取りを聞いていなかった。
 ルークスにとっては当たり前のことなので、再度の説明もいとわなかった。
 発案者としてアルティは新兵器の使用場面を見たかったが、我が儘は控えて王都への帰還に同意する。
 ゴーレム車に乗ったアルティを、フォルティスと傭兵サルヴァージだけでなく、プレイクラウス卿とその従者も護衛に付いて出発した。

 異常に気付いたのは、キニロギキ参謀長だった。
 遅めの昼食時のことである。
 交代で食事をする将兵のそばでルークスは、入れ替わり立ち替わり来るシルフから報告を受けていた。
 その中に聞き捨てならない情報があったのだ。
「ゴーレムの先頭が石橋を通過した!?」
 痩せた参謀長は思わず口を挟んだ。
 シルフからの情報には、基本的に地名が無い。
 人間が決めた名称などシルフは気にしないし、字も読めない。
 ましてや地図でどこに該当するかなど、分かる由もなかった。
 目立つ地形を言うのだが、この街道上で石橋は本隊近辺の他は、この近くにしか無いのだ。
「もし後者なら、シルフで偵察できた侵攻時より相当早足です!」
 シルフを往復させ、その所用時間で後者だと確認できた。

 敵ゴーレム部隊は夕刻までに来てしまう。

 ただでさえ顔色が悪い参謀長の顔が、ますます青ざめた。
 リスティア軍は精霊士が不足していたので、敵軍の偵察をルークスが一手に担っていたことが裏目に出てしまった。
 土地勘が無いうえに、必要な情報を聞き出す話術に欠けていたのだ。
 これまで聞き取りをしていたフォルティスが抜けた穴は、非常に大きかった。
「ただちに非戦闘員は退避せよ!」
 スーマム将軍が命じる。
 何故速度が増したのかの詮索は後にして、ゴーレムマスターらをリスティア王都へ送り出す。
 周辺を警戒していた騎兵小隊が護衛して、リスティア軍工兵も帰途に付いた。
 陣地に残ったのは、両軍の指揮官とゴーレムコマンダーと、その護衛だけだ。
「アルティを先に返して正解だったな」
 不安の中でルークスは胸を撫でおろした。
 もし彼女がまだいたら、冷静でいられなかったろう。

                  א

 その頃アルティは、ゴーレム車の御者台で揺られていた。
 車内は蒸すし、帝国製ゴーレム車はシートが固くて乗り心地が悪い。
 御者台の方が居心地が良かった。
 眺めが良く風も当たるし、ゴーレムを動かすノームにすぐ指示ができる。
 ゴーレム車の前後をエクエス兄弟と従者、傭兵の四騎が守っていた。
 十人近くのシルフが交代で、進路と周辺とを警戒している。

 前方からシルフが猛スピードで飛んで来た。
「帝国の騎兵が来るぞ!」
 即座に応じたのは馬上のフォルティスだ。
「方角と数は?」
「前からだ。この道を通ってくる。数は――四十くらい」
「そんな大勢がどこから?」
 口を挟む従者を、主人のプレイクラウス卿がたしなめる。
 素早く弟が説明した。
「補給部隊の護衛か、北の軍港で待ち構えていた部隊の一部でしょう。ルークス卿はゴーレムのみを攻撃するので、敵兵は散逸こそすれ死傷は少なかったはずです」
「すぐにルークス卿に連絡を」
 騎士にうなずくシルフを、フォルティスは止めた。
「イノリで来られたら大変です。陣地で阻むはずの敵が、王都に押し寄せかねません」
「シルフで追い散らせば済む」
「そんな真似をしたら『ルークス卿が近くにいる』と誤解されます。それに、ルークス卿の心を乱すことは、リスティアのみならず我が国の命運をも左右します」
「ではどうするのだ!?」
 兄の問いかけに、弟は即答できなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

魔法が使えない落ちこぼれ貴族の三男は、天才錬金術師のたまごでした

茜カナコ
ファンタジー
魔法使いよりも錬金術士の方が少ない世界。 貴族は生まれつき魔力を持っていることが多いが錬金術を使えるものは、ほとんどいない。 母も魔力が弱く、父から「できそこないの妻」と馬鹿にされ、こき使われている。 バレット男爵家の三男として生まれた僕は、魔力がなく、家でおちこぼれとしてぞんざいに扱われている。 しかし、僕には錬金術の才能があることに気づき、この家を出ると決めた。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

処理中です...