完璧主義な学園の嫌われ令息が、仮面を捨てて腹黒幼馴染み様へ跪くまで

笹井凩

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35.求める完璧の代償2

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「絆、部長に当たったらダメでしょ? それに、今の絆は少し焦りすぎてると思うよ」

 口の中で飴玉のように溶けた声の代わりに舞台裏へ落とされたのは桎月の声だった。
 咎める声に息が詰まった。頬を掴んできた手は払い落として、桎月を睨みつける。

「はっ、なに? 桎月も、俺に説教するつもり?」

「うーん、違うかな。焦るくらいなら、僕はまた、舞台で楽しそうに演技する絆が見たいなって思って。ほら、昔みたいに」

「……」

 指を立てて過去を指す桎月の浮かべる笑みはどこか寂しげに見えた。
 楽しそうな演技? そういえば確かに小学生の頃は、舞台に立つことを純粋に楽しめていたっけ。でも、そんな記憶も感覚も覚えていない。

 楽しめる、わけがない。
 ただでさえ脳内で試行錯誤し思い描いた動きをそのまま体に落とし込むことに注力しているのに。
 そのうえ舞台で照明と視線を浴びる度、取り戻すどころか乱れていくように感じる調子に、もう。目を瞑って、顔を背けて、どこかに隠れてしまいたかった。
 完璧な演技ができないで、楽しめるなんて都合の良いことがあるはずない。

「どうして、桎月までそんなこと言うの」

 俺のことをよく分かってくれる桎月なら、分からないはずもないだろうに。


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