水の流れるところ

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この時が一番

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 中学生になっていた誉は、母親が置いていく現金でなんとかやりくりして、自炊をしながら生活した。家にある物を片っ端からネットで売ったりもした。アルバイトは諦めた。中学生がアルバイトをするには、親の許可が必要だったからだ。ほとんど顔も合わせない親から許可などもらえるわけもない。

 学校にも相談しなかった。この頃には、母親に対する愛情など残っていなかったが、思春期だった誉は、自分の母親の愚行が明るみに出ることを恐れた。それによって、同情の目や、好奇の目を向けられることが、なにより嫌だったのだ。だが、そんな生活もやがて限界がきた。

 2年生になって、学校の担任に異変を悟られてしまったのだ。それはそうだろう。学校行事にも三者面談にも一切来ず、連絡を取ろうにも取れない。家庭訪問してもいつも留守。仕事が忙しいからとか、友人と旅行に出ていてとか、そんな誉の言い訳が何度も通用するはずがない。

 なにより、この時の誉は異常なほど痩せ細っていた。周りの大人が気づかないわけがない。というより、気づいてはいたのだろう。しかし、見て見ぬフリをされていたのだ。この担任以外には。

 学校側が児童相談所に通報したことで、誉は保護された。母親は誉を引き取りたがった。あんなに誉の存在を無視していたくせに。今さら母親顔をされるのは嫌だった。

 誉は、全てを告白した。暴力を受けていたことも話した。その結果、誉は高校卒業まで児童福祉施設で過ごすことになった。母親は最後まで抗議していたらしいが、アルコール中毒の上に精神的にも不安定だったこともあり、要求が通ることはなかった。

 それから高校卒業までの日々は、施設の不自由さはあるにしろ、平和な生活を送ることができた。誉からしたら、天国のようだった。暴力を振るう大人もいない。毎日3食きちんと食べられる。風呂も水の節約のため何日も我慢しなくていい。施設の子供たちはみな似たような事情を抱えているので、お互いを理解して支え合える同士ができたのも有り難かった。

 おそらく、誉の今までの人生で、この時が一番、充実して楽しかった。
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