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監禁生活とヘルパー
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高層マンションの最上階にある一室で、大きく縁取られた窓ガラスから外を眺める。2月の空は快晴で、遠くに見える山々の上にはまだら雲が広がっていた。
飽きるほど眺めてきた同じ風景に、煌生はチッと舌打ちして窓から離れた。どさっとわざと音を立てて、1人で使うには大きすぎるソファへと身を沈めた。
今日も何もやることがない。朝起きて、シャワーを浴び、朝食を食べ、趣味の筋トレを済ませたところで時計を見たが、まだ朝の10時過ぎだった。テレビも平日の昼間はくだらない情報番組かドラマの再放送しかやっていないし、読書をしようにも、ここに入れられてから何十冊と読破したので、もう読む気にもならなかった。
「いつまでここにおらなあかんねん」
誰に言うでもなく呟いた。
煌生が拉致同然にここに連れてこられたのは、3ヶ月ほど前だった。高校を卒業後、実家を飛び出して好き勝手に暮らしてきた。まあ、少し好き勝手にし過ぎたのかもしれない。ある日、居候していた女のマンションに、実家から向けられた舎弟どもが押しかけてきて捕獲された。
行く先々で派手にトラブルを起こし、色んな意味で名を上げてしまっていたのだが、とうとう父親の堪忍袋の緒が切れたようだった。道楽息子の根性をたたき直そうとしたのかは不明だが、煌生が反省するまでは一歩も外に出してはならないと組全体に通達があったらしく、この、ドアの外側から鍵をかけられた組所有の洒脱なマンションで、四六時中見張られながら半監禁状態が続いている。
煌生と外界を繋ぐものは、週に一度来る『ヘルパー』だけだった。1週間分の食材と、煌生がリクエストした物、補充用の日用品などを持って現われる。部屋の掃除をし、洗濯をし、夕食の支度をして、煌生に抱かれて帰っていく。
結局のところ『ヘルパー』とは、煌生の性欲処理の手伝いまでを含んだ『奉仕係』というわけだ。
まだ20代半ばの煌生にとっては、この配慮は有り難かった。1人でやるのとではやはり満足度が違うからだ。
しかし、なぜか『ヘルパー』は頻繁に変わった。大抵1、2度来たら別の『ヘルパー』が現われた。若い男の時もあった。煌生は男でも構わず抱いた。組側も煌生の性癖についてよく把握していた。煌生はどちらもいけるバイセクシャルだったのだ。
前回『ヘルパー』が来てから1週間が経とうとしていた。今日辺り来るのではないかと思っていたが、夕方近くになっても誰も現われない。
今日は来おへんのか、と映画でも見ようとテレビを点けた時。玄関の鍵が開けられる音がした。
玄関の扉が勢いよく開いて、勢いよく閉まる。がさがさと買い物袋が擦れる音が段々と近付いてきて、リビングと廊下を隔てるドアの向こうに人影が映った。かちゃっ、とそのドアが開かれる。
煌生はなんとなくドアが開くのを見ていたが、入ってきた人物を認めた途端、どくり、と心臓が鳴るのをはっきりと感じた。目を見開いたまま、その人物を見つめ続ける。
「なんで……」
お前が来んねん、と続けようとしたが、喉がからからに渇いたようになり何の音も出てこなかった。
飽きるほど眺めてきた同じ風景に、煌生はチッと舌打ちして窓から離れた。どさっとわざと音を立てて、1人で使うには大きすぎるソファへと身を沈めた。
今日も何もやることがない。朝起きて、シャワーを浴び、朝食を食べ、趣味の筋トレを済ませたところで時計を見たが、まだ朝の10時過ぎだった。テレビも平日の昼間はくだらない情報番組かドラマの再放送しかやっていないし、読書をしようにも、ここに入れられてから何十冊と読破したので、もう読む気にもならなかった。
「いつまでここにおらなあかんねん」
誰に言うでもなく呟いた。
煌生が拉致同然にここに連れてこられたのは、3ヶ月ほど前だった。高校を卒業後、実家を飛び出して好き勝手に暮らしてきた。まあ、少し好き勝手にし過ぎたのかもしれない。ある日、居候していた女のマンションに、実家から向けられた舎弟どもが押しかけてきて捕獲された。
行く先々で派手にトラブルを起こし、色んな意味で名を上げてしまっていたのだが、とうとう父親の堪忍袋の緒が切れたようだった。道楽息子の根性をたたき直そうとしたのかは不明だが、煌生が反省するまでは一歩も外に出してはならないと組全体に通達があったらしく、この、ドアの外側から鍵をかけられた組所有の洒脱なマンションで、四六時中見張られながら半監禁状態が続いている。
煌生と外界を繋ぐものは、週に一度来る『ヘルパー』だけだった。1週間分の食材と、煌生がリクエストした物、補充用の日用品などを持って現われる。部屋の掃除をし、洗濯をし、夕食の支度をして、煌生に抱かれて帰っていく。
結局のところ『ヘルパー』とは、煌生の性欲処理の手伝いまでを含んだ『奉仕係』というわけだ。
まだ20代半ばの煌生にとっては、この配慮は有り難かった。1人でやるのとではやはり満足度が違うからだ。
しかし、なぜか『ヘルパー』は頻繁に変わった。大抵1、2度来たら別の『ヘルパー』が現われた。若い男の時もあった。煌生は男でも構わず抱いた。組側も煌生の性癖についてよく把握していた。煌生はどちらもいけるバイセクシャルだったのだ。
前回『ヘルパー』が来てから1週間が経とうとしていた。今日辺り来るのではないかと思っていたが、夕方近くになっても誰も現われない。
今日は来おへんのか、と映画でも見ようとテレビを点けた時。玄関の鍵が開けられる音がした。
玄関の扉が勢いよく開いて、勢いよく閉まる。がさがさと買い物袋が擦れる音が段々と近付いてきて、リビングと廊下を隔てるドアの向こうに人影が映った。かちゃっ、とそのドアが開かれる。
煌生はなんとなくドアが開くのを見ていたが、入ってきた人物を認めた途端、どくり、と心臓が鳴るのをはっきりと感じた。目を見開いたまま、その人物を見つめ続ける。
「なんで……」
お前が来んねん、と続けようとしたが、喉がからからに渇いたようになり何の音も出てこなかった。
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