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第一章
09
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「いや、凄くなんか……いろいろ分からない事ばかりで」
謙遜ではなく、本当に分からない事しかない。恥ずかしいばかりである。こういう時、どう言葉を続けていいか迷ってしまうな。謙遜のつもりはないけど、相手からは謙遜に見えているのなら嫌味に聞こえかねない。
「そういえば……申し遅れました、私はエリスです」
ちょっと言葉に困っているとそれを察してくれたのか、エリスが思い出したように自己紹介をした。私はありがたい、と思いすぐさま声をあげる。
「あっ、私はルネーナ、よろしく」
私も軽い自己紹介を返すと、エリスが口を開いた。
「……改めて助けていただいてありがとうございます」
何度言っても足りない、という感じでエリスがもう一度頭を下げる。それを見て私は、その所作が気になった。エリスの頭の下げ方は、気品にあふれている。この国の所作とは少し違う気がするから、別の国の貴族かもしれない。いや元貴族、少なくとも王族ではないはずだ。王族同士の付き合いでは見た事がない。恰好は私と同じで簡素な冒険者らしい恰好。キレイな黒髪に黒い瞳。整った顔立ちに、よく見ると立ち姿も気品がある。こんな所で冒険者として一人でうろついていたという事は、もしかしたら訳アリだろうか。
「? どうしました?」
エリスは不思議そうな顔をした。私は急いで「何でもない」と言うと、体を反転させる。走ってきたルートを戻る様に私は歩き始めた。
「どこか寄り道ですか? 私もご一緒してよろしいですか?」
私の隣に並んだエリスが、そう声をかけてくる。
「? 私は街に戻るけど」
私がそう言うと、エリスが驚いたように「え?」と呟く。何か変な事を言ったのだろうか。私は分からないという感じでエリスの顔を見る。
「街はあっちですよ?」
少し恐る恐るという感じで、エリスが左手方向を指差した。全然違う方向に向かっているという事だ。
「あっ、うん……そうだね」
一応強がって見せたけど、エリスがクスクスと笑い始める。
「先ほど試験が終わって帰る所と言っていたのに、街とは明後日の方向に向かうから、てっきり他にも用事があるのかと思いましたけど……もしかして方向音痴ですか? あんなに凄いのに、意外です」
「凄さとか関係ないでしょ! 認めるよ! 迷ってたよ!」
開き直って私が声をあげると、エリスがさらに笑う。
「相当ですね、迷うような場所ではないはずですが……わざわざナビゲートを使うまでもないというか」
私は顔が熱くなるのを感じる。なんか悔しくなって、エリスを置いていくように歩くスピードをあげた。
「あっ、だからそっちじゃないですよっ」
エリスの声が聞こえた瞬間、私は左手方向に直角に曲がった。
謙遜ではなく、本当に分からない事しかない。恥ずかしいばかりである。こういう時、どう言葉を続けていいか迷ってしまうな。謙遜のつもりはないけど、相手からは謙遜に見えているのなら嫌味に聞こえかねない。
「そういえば……申し遅れました、私はエリスです」
ちょっと言葉に困っているとそれを察してくれたのか、エリスが思い出したように自己紹介をした。私はありがたい、と思いすぐさま声をあげる。
「あっ、私はルネーナ、よろしく」
私も軽い自己紹介を返すと、エリスが口を開いた。
「……改めて助けていただいてありがとうございます」
何度言っても足りない、という感じでエリスがもう一度頭を下げる。それを見て私は、その所作が気になった。エリスの頭の下げ方は、気品にあふれている。この国の所作とは少し違う気がするから、別の国の貴族かもしれない。いや元貴族、少なくとも王族ではないはずだ。王族同士の付き合いでは見た事がない。恰好は私と同じで簡素な冒険者らしい恰好。キレイな黒髪に黒い瞳。整った顔立ちに、よく見ると立ち姿も気品がある。こんな所で冒険者として一人でうろついていたという事は、もしかしたら訳アリだろうか。
「? どうしました?」
エリスは不思議そうな顔をした。私は急いで「何でもない」と言うと、体を反転させる。走ってきたルートを戻る様に私は歩き始めた。
「どこか寄り道ですか? 私もご一緒してよろしいですか?」
私の隣に並んだエリスが、そう声をかけてくる。
「? 私は街に戻るけど」
私がそう言うと、エリスが驚いたように「え?」と呟く。何か変な事を言ったのだろうか。私は分からないという感じでエリスの顔を見る。
「街はあっちですよ?」
少し恐る恐るという感じで、エリスが左手方向を指差した。全然違う方向に向かっているという事だ。
「あっ、うん……そうだね」
一応強がって見せたけど、エリスがクスクスと笑い始める。
「先ほど試験が終わって帰る所と言っていたのに、街とは明後日の方向に向かうから、てっきり他にも用事があるのかと思いましたけど……もしかして方向音痴ですか? あんなに凄いのに、意外です」
「凄さとか関係ないでしょ! 認めるよ! 迷ってたよ!」
開き直って私が声をあげると、エリスがさらに笑う。
「相当ですね、迷うような場所ではないはずですが……わざわざナビゲートを使うまでもないというか」
私は顔が熱くなるのを感じる。なんか悔しくなって、エリスを置いていくように歩くスピードをあげた。
「あっ、だからそっちじゃないですよっ」
エリスの声が聞こえた瞬間、私は左手方向に直角に曲がった。
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