モフモフしたいだけなら撫でさせません! え?私に触りたい?!ここここ今回だけ特別に撫でさせてあげなくもないですがー後宮もふもふ事件手帖

高岩唯丑

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プロローグ

03

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 私は寝台の上で姿勢を正す。そして座礼をした。お詫びの気持ちもある。疑ってしまったから。
「いいの、頭を上げて」
 肩の辺りに温もりを感じる。メイユーが肩に手を置いたらしい。頭を上げるとメイユーの微笑みが見える。
「そんな風に頭を下げてお礼をいう事じゃないわ」
 メイユーは私の肩から手を外すと、そのまま寝台の上に乗る。それから悲しそうな表情を浮かべた。
「こんな風にしなきゃいけない、誰かが守らないと命さえ危ないなんて事、やっぱりおかしいわ、こんな世の中がいけないのよ」
 メイユーが悔やむ事ではないはずなのに、とても悔しそうな顔をする。そういえば話をしていたこれまでに、時折悔しそうにしたり悲しそうにしたりしていた。そういう人なんだ、この人は。どこまでも優しくて、どこまでも愛情深い。
「市内に情報収集者を送ってはいるけど、どうしても獣憑きになってすぐには見つけられない、ごめんね、でもあの子たちも頑張ってるのよ……怒るなら力不足の私にしてね」
「そんな……事」
 嘘をついていない。なぜだかわからないけど、そう判断できる。どれもこれも真実の言葉。本気でそんな事を言っている。この人は本当に。
「無事でいてくれて、ありがとう」
 ほとんど泣きそうな表情で、それでも笑顔を維持した顔でそう口にするメイユー。それから私は体を引き寄せられる。いきなりで何が起こったか分からなかった。
「……あ」
 気の抜けた声が出てしまう。私はメイユーに抱き寄せられていた。全身が暖かくなって、包み込まれる感じがして、初めてその事を理解した。
「よく頑張ったわね」
 体に伝わってくる温もり。温かい言葉。私は孤児で、親はいない。こんな風に抱きしめられたのは。
「あ……あぁ」
 気づくと涙が溢れてきていた。泣こうと思った訳ではない。自然に零れてきてしまった。
「お召し物が、汚れてしまう」
 こんなきれいな着物が、私なんかの涙で汚れてしまう。私はなんとか涙を拭おうと手を動かす。でもそれを阻むように、メイユーの抱きしめる力は強くなった。
「そんなの気にしないでいいから、もう気を張らなくていいわ、力を抜いて良いのよ」
「……でも、力を抜いてしまったら」
 力を抜いてしまったら、もう止められない。感情が押し留められなくなる。なってしまう。
「もう大丈夫だから……大丈夫、ここまでよく頑張ったわね、力を抜いていいの」
 優しい声。体の中に染みわたって、力が抜けていきそうになる。一度抵抗したけど、でもやっぱり無理みたいだ。
「……うぅぅ……あぁぁぁ……」
 メイユーにしっかりとしがみついた。どうしてそうしたのかわからない。
 私は全てを吐き出す様に、声をあげた。



「落ち着いてきたみたいね」
 そう言ってメイユーが離れてしまう。少し名残惜しい気持ちが出てしまったのか、両手が伸びた状態になってしまった。それに気づいて少し恥ずかしくなり、すぐに両手をひっこめる。メイユーがそれに気づいていたのか、小さくイタズラっぽく笑った。
「ここの事とか、それから私も自己紹介しないといけないわね」
「私もまだしてません」
 メイユーとチュウが言う。名前は呼ばれていたからわかったけど、正式には自己紹介していなかった。ミンズーとユンよりも二人の方が立場が上だろう。二人は自分達より上の者を差し置いて、出しゃばった訳だ。それでも咎められる事もない。自由な職場だ。
「まずは私から自己紹介、私は美玉(メイユー)と言います、外では黄妃(ファンヒ)と呼ばれているわね……と言っても何のことかわからないと思うけど」
 メイユーが苦笑すると、チュウの方に視線を送る。
「その説明の前に、チュウさんの自己紹介を」
 その視線を受けて、チュウが「はい」と一歩進み出た。
「私は秋蓮(チュウリエン)、侍女頭を勤めております」
 とてもしっかりしてそうな印象だったから、納得の侍女頭だ。
「みんなチュウさんって呼んでるな」
 何故だか得意げにそう口にするユン。それに続いてミンズーが思いついたように口を開く。
「みんなのお母さん、いッ!」
 言葉の途中でミンズーが小さな悲鳴を上げる。チュウがミンズーのお尻の辺りをつねった様だ。
「みんなのお姉さん的存在で通っております」
 圧の強い笑顔を浮かべるチュウ。なるほど。いろいろな力関係を理解した。サカラッテハイケナイヒトダ。
「とりあえず、他の子はまたの機会に」
 どれくらいの人数がいるのかわからないけど、助かる。一度に全員を紹介されても、覚えきれない。
「それよりもまず……ここがどこなのか分からないのは気持ち悪いわよね?」
 メイユーが苦笑をうかべて、問いかけてくる。確かに分かっていなければ、とても居心地が悪い事だろう。でも、ここまでのやり取りで、おおよそここがどこなのか検討はついている。
「……ここはもしかして後宮ではないでしょうか?」
 私の言葉で、今まで苦笑していたメイユーは驚いた表情に変わる。他の者も驚いている様だ。しばらく誰も口を開かない時間があり、それから代表する様にメイユーが問いかけてくる。
「その通り……だけど、どうしてわかったの?」
 仰々しく発表する事ではないけど、問われたのなら答えない訳にいかない。私は自分の考えた事を披露する。
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