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エキセントリック・メイドドリーム

01

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 私はアンデストの自室までやってきた。まず最初に第一容疑者と言われていて、一番のお気に入りのアンデストの身の潔白を証明したかったのだ。
「失礼します」
 何度かノックをしても返事がなく、仕方なく断りを入れて中に入ってみる。部屋でうずくまっているかと思ったら、そうではないらしく姿が見えない。
「やっぱり……あそこか」
 私はある場所を思い浮かべる。アンデストが何かあるといつも行く場所。落ち込んだ時とか、何か嬉しかった時にも行っている気がする。何もなくてもいているかもしれない。私はそんな事を思いながら、いつもの場所へと急ぐ。


 王城の西の塔。元々見張り台として使われていたけど、新しく見張り台が作られて使われた場所。もう人はいなくて、誰かが来る事も滅多にない。一人になれるからなのか、アンデストはそこが好きなのだ。
 私は西の塔のてっぺんの部屋のドアノブを掴むと、鍵がかかっていなかった。やっぱりいる。中に入るとアンデストの背中が見える。窓から外を眺めていた様だ。ドアが開いた音に反応して、こちらを振り向く。
「……ベル」
 アンデストが観念したように苦笑してから口を開く。
「すまない、すぐ戻るよ」
 ドアに向かって歩き始めようとするアンデストに向って、私は微笑んで少し首を横に振る。
「呼び戻しに来たわけではありませんよ」
 そういうつもりで来た訳じゃない。身の潔白を証明するため。何より一人で悲しんでいそうなアンデストのそばに、居たかった。私はアンデストの隣に並んで外を眺める。今は昼を過ぎて十三の刻。城下町には日の光が降り注いで、きっといつも通りの日常が営まれている。まだ王様が亡くなった事は伝えられていない。当然なんの騒ぎにもなっていないだろう。アンデストも窓の方に体を向けなおして、窓の外を眺めた。
 しばらく二人で黙って外を眺めている。不意にアンデストがポツリと呟いた。
「私は、王になるらしい」
「そう……ですね」
 王様が亡くなったのだ。王位継承権第一位のアンデストが王になるのは当然の話。何を言っているんだ、というのは少し違う気がする。本来なら病に倒れるか、老いで弱っていく姿を見て、気持ちの整理をして死を目の当たりにする。その筈なのに、王様は殺されてしまって突然突き付けられた父親の死と王座だ。混乱するのも分かる気がする。
 私は体を横に向ける。アンデストは窓の外を眺めたままだった。横顔は苦痛に耐えるように眉をひそめている。
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