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エキセントリック・メイドドリーム

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「セブリアン様だって、もっとニコニコしていれば……勘違いされますよ? 本当は優しい人間なのに」
「やっ、優しいなんて……弱い者を助けるのが王族の役目、王たる資格だ!」
 照れるポイントがよく分からないけど、セブリアンは少し赤くなっている。ただ素直じゃないだけか、優しいと思われるのが恥ずかしいのか。褒められるのが、恥ずかしいという事も考えられる。照れ隠しというやつだ。実はも可愛らしい、良い人間なのかもしれない。今まで敬遠してしまっていたけど。
「王たる資格……か」
 不意にセブリアンが自嘲気味に呟く。今まで可愛らしい感じだったのに、表情には陰が差していた。
「私にその資格がなかったから、父上は私ではなくアンデスト兄上を選んだのにな」
 王様には見る眼がなかったのだろうか。セブリアンは優秀だ。それに、分かりづらいけど優しい。ちょっと気難しい所があるけど。あと字を読めるか聞いてきたのは、私の様な使用人に偏見があるっぽいからだし、それが難点か。まぁでもそれは、ちょっと裕福な人間ならみんな持ってる偏見だし。王様もそれを気にしないのでは。
「その……優劣の差とかそんなの関係なく順番というか、アンデスト様がお兄様だからでは」
 私の言葉に、セブリアンが首を横に小さく振った。
「それを言うなら、トール兄上が第一位になるべきだろう、誰の子供か関係なく」
「確……かに」
 何も考えず順番で決めたのなら、側妻の子供であっても、長男のトールが一位になっているはず。私が何か反論できないか模索していると「ありがとう」とセブリアンが力無く笑ってから、続ける。
「もう確認しようがないが、おそらく父上にとって、優秀だとか誰の子供だとか順番とか、そんな物は関係なかったのだと思う、王たる資格、それがアンデスト兄上にはあって、私にはなかった……それだけだ」
 セブリアンは背もたれにもたれかかって、天井を仰いだ。少し泣きそうな表情に見えた気がする。
「私は、父上を見返したかった、私を選ばなかった事を後悔させたかった」
 悲しみが絡みついた声。セブリアンは誰かに投げかけるわけでもない言葉を、呟く。
「なのに……どうやって……これから誰を見返せばいいのですか……父上」
 少しわかり辛いけど、セブリアンらしく王様の死を悼んでいるらしかった。私はどうすればいいだろう。セブリアンはきっと、思いっきり泣いたりもしないだろう。好物に逃げたりもしない。強い人間だ。良くも悪くも、一人で立ち続けようとする。強すぎる王様。孤独な王様。もしかしたらそれを避けるために、王位継承権第二位としたのではないだろうか。
 私はそれを口にするか迷って、やっぱりやめておく。セブリアンはそれに、自分で気づくべきなのかもしれない。
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