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第一章
20話 正体
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「レオ様、もしもの時は落ち延びましょう」
「な、何を……」
「レオ様は死んだと、私が証言します。ですのでどうかこの混乱に乗じて逃げてください」
「そんなこと……」
できるはずがない。
「レオ様って子供らしくないですよね」
そう言いタリオは笑う。
「子供は自分のことだけ考えていいんですよ」
「し、しかし私はウィルフリード領主の子供で……」
「レオ様、私の顔に見覚えはありませんか?」
「ん?」
私はタリオの顔を見上げた。どこかで見たことがあるような……。いや、誰かに似ているような……。
「申し訳ないが分からない」
「そうですか」
タリオは少し悲しそうに笑う。
「父がよくウルツ様にお世話になってます。レオ様も勿論面識はありますよ」
「ま、まさか……」
そのヒントを聞けば、確かに彼にはある人物の面影があった。
「タリオはアルガーの……」
「そうです。私はアルガーの息子です」
そう言えば、私が幼い頃、彼が軍に入隊すると父に挨拶に来た事があったような記憶がある。
アルガーもよく、息子と同じ戦場に立つのが夢だと語っていた。
「しかし、それをなぜ今……?」
「そうですね……。レオ様には私のようになって欲しくないからですかね」
「それはどういう……?」
タリオは悲しそうな目で遠くを見つめる。
「私は代々、貴族直属の兵士の家庭に生まれました。父が大貴族の副将を務めているというのは私にとっても誇らしいことでした」
「……」
「私も当然のように軍に入隊することになりました。父はとても喜びました。……しかし、私は父の期待には応えられませんでした」
タリオは歯を食いしばった。
「偉大な父の影で、なんの才能もない私はこうして伝令として走り回るだけです。……実は私が生まれる前に、兄がいたそうで。しかし兄は成人する前に死んでしまった」
それは決して珍しいことではなかった。医療技術の低いこの世界では幼児死亡率は極めて高い。
以前述べたように、高等な治癒魔法を受けれる貴族ですらその危険は元の世界より遥かに高いほどだ。
「亡き兄の想いも託された。それは私にはあまりにも重すぎた。……レオ様も同じじゃないですか?」
「私は……」
「領主の子供だから戦わないといけない。貴族の子供だから逃げることは許されない。そう思っているんでしょう?」
なんの反論も出来なかった。
「レオ様は、レオ様がどうしたいか、自分の意思で決めてください。どんな選択肢でも、最後までそのお供をするのが私にとって、父に唯一誇れることになるんですから」
そんなに悲しい目で私を見つめないでくれ。
「どうしたいか……」
どうして私はこの世界に来たのか。
きっと私には神から託された運命があるのだ。そう思った時期もあった。
しかし、それはただの思い上がりなのかもしれない。
勇者のように勇敢に戦う必要は無い。「勇者」とは死ぬまで戦うことしか許されぬ、呪いに他ならない。
英雄として国に尽くす必要も無い。歴史書に名を連ねて、なんの得もない。
泥臭く生き抜いてもいい。物語の主人公になる必要は無いのだ!
「私は──────!」
───────────────
「あれは!!!」
私が口を開いたその瞬間、観測手が声を上げた。
「あれは帝国の旗です!」
「何!?どういうことだ!?」
私は壁から身を乗り出した。
下では兵士たちが今も戦っている。相手は傭兵部隊なだけあって、ナリスの進言通り既に撤退する動きを見せている。
「あちらを見てください!帝国の騎馬隊です!その数百……、いや、五百……、いえ!二千はいます!」
「なんだと!?」
彼が指を指す方向からは土煙が巻き起こっている。目を凝らして見てみると、確かに帝国の旗を掲げた騎馬隊がこちらへ向かってきていた。
「先頭を行くのは帝国精鋭の近衛騎士団です!」
私も望遠鏡を借りピントを合わせた。
馬鎧にまで装飾を施し、フルプレートの鎧を装備した騎士たちが見えた。先導する彼ら重装騎兵の後ろからは、軽装弓騎兵や軽騎兵が大軍を成している。
「後ろから来ているのは近隣領主のようです!帝国本軍が道沿いに騎兵だけを集めて駆けつけてくれたのです!」
帝国皇都から軍を出せばここまでは七日はかかる。しかし、騎兵隊だけならどうだろう。
そして、補給と募兵を道沿いの領主から行えば、全速力なら四日から五日で来ることも不可能ではなかったのだ。
───────────────
「行くぞタリオ!」
「え!?」
「このまま援軍が西門まで来たら間に合わないかもしれないだろ!北門が持ちこたえてるうちに、そっちまで先導するんだ!」
いつの間にか北門の方からは煙が上がっていた。投石器の攻撃を受けたらしい壁は一部崩れかかっている。
「さぁ行くぞ!」
私はそうタリオに言い、近くのウィルフリード家の旗を引き抜いた。旗は風になびいてバタバタと揺れる。
「分かりました!」
タリオは意を決し、胸に拳を当てた。これは帝国式の敬礼だ。
二人で馬に飛び乗った。タリオが手網を引くと嘶きをあげる。
私は左手でタリオに掴まり、右手には旗を持つ。
帝国の旗に使われる紫の地に、剣を持つ騎士のマーク。代々ウィルフリード家が受け継いできた、帝国の騎士としての地位を表す。
雪辱を晴らす時が遂に巡ってきたのだ。
「な、何を……」
「レオ様は死んだと、私が証言します。ですのでどうかこの混乱に乗じて逃げてください」
「そんなこと……」
できるはずがない。
「レオ様って子供らしくないですよね」
そう言いタリオは笑う。
「子供は自分のことだけ考えていいんですよ」
「し、しかし私はウィルフリード領主の子供で……」
「レオ様、私の顔に見覚えはありませんか?」
「ん?」
私はタリオの顔を見上げた。どこかで見たことがあるような……。いや、誰かに似ているような……。
「申し訳ないが分からない」
「そうですか」
タリオは少し悲しそうに笑う。
「父がよくウルツ様にお世話になってます。レオ様も勿論面識はありますよ」
「ま、まさか……」
そのヒントを聞けば、確かに彼にはある人物の面影があった。
「タリオはアルガーの……」
「そうです。私はアルガーの息子です」
そう言えば、私が幼い頃、彼が軍に入隊すると父に挨拶に来た事があったような記憶がある。
アルガーもよく、息子と同じ戦場に立つのが夢だと語っていた。
「しかし、それをなぜ今……?」
「そうですね……。レオ様には私のようになって欲しくないからですかね」
「それはどういう……?」
タリオは悲しそうな目で遠くを見つめる。
「私は代々、貴族直属の兵士の家庭に生まれました。父が大貴族の副将を務めているというのは私にとっても誇らしいことでした」
「……」
「私も当然のように軍に入隊することになりました。父はとても喜びました。……しかし、私は父の期待には応えられませんでした」
タリオは歯を食いしばった。
「偉大な父の影で、なんの才能もない私はこうして伝令として走り回るだけです。……実は私が生まれる前に、兄がいたそうで。しかし兄は成人する前に死んでしまった」
それは決して珍しいことではなかった。医療技術の低いこの世界では幼児死亡率は極めて高い。
以前述べたように、高等な治癒魔法を受けれる貴族ですらその危険は元の世界より遥かに高いほどだ。
「亡き兄の想いも託された。それは私にはあまりにも重すぎた。……レオ様も同じじゃないですか?」
「私は……」
「領主の子供だから戦わないといけない。貴族の子供だから逃げることは許されない。そう思っているんでしょう?」
なんの反論も出来なかった。
「レオ様は、レオ様がどうしたいか、自分の意思で決めてください。どんな選択肢でも、最後までそのお供をするのが私にとって、父に唯一誇れることになるんですから」
そんなに悲しい目で私を見つめないでくれ。
「どうしたいか……」
どうして私はこの世界に来たのか。
きっと私には神から託された運命があるのだ。そう思った時期もあった。
しかし、それはただの思い上がりなのかもしれない。
勇者のように勇敢に戦う必要は無い。「勇者」とは死ぬまで戦うことしか許されぬ、呪いに他ならない。
英雄として国に尽くす必要も無い。歴史書に名を連ねて、なんの得もない。
泥臭く生き抜いてもいい。物語の主人公になる必要は無いのだ!
「私は──────!」
───────────────
「あれは!!!」
私が口を開いたその瞬間、観測手が声を上げた。
「あれは帝国の旗です!」
「何!?どういうことだ!?」
私は壁から身を乗り出した。
下では兵士たちが今も戦っている。相手は傭兵部隊なだけあって、ナリスの進言通り既に撤退する動きを見せている。
「あちらを見てください!帝国の騎馬隊です!その数百……、いや、五百……、いえ!二千はいます!」
「なんだと!?」
彼が指を指す方向からは土煙が巻き起こっている。目を凝らして見てみると、確かに帝国の旗を掲げた騎馬隊がこちらへ向かってきていた。
「先頭を行くのは帝国精鋭の近衛騎士団です!」
私も望遠鏡を借りピントを合わせた。
馬鎧にまで装飾を施し、フルプレートの鎧を装備した騎士たちが見えた。先導する彼ら重装騎兵の後ろからは、軽装弓騎兵や軽騎兵が大軍を成している。
「後ろから来ているのは近隣領主のようです!帝国本軍が道沿いに騎兵だけを集めて駆けつけてくれたのです!」
帝国皇都から軍を出せばここまでは七日はかかる。しかし、騎兵隊だけならどうだろう。
そして、補給と募兵を道沿いの領主から行えば、全速力なら四日から五日で来ることも不可能ではなかったのだ。
───────────────
「行くぞタリオ!」
「え!?」
「このまま援軍が西門まで来たら間に合わないかもしれないだろ!北門が持ちこたえてるうちに、そっちまで先導するんだ!」
いつの間にか北門の方からは煙が上がっていた。投石器の攻撃を受けたらしい壁は一部崩れかかっている。
「さぁ行くぞ!」
私はそうタリオに言い、近くのウィルフリード家の旗を引き抜いた。旗は風になびいてバタバタと揺れる。
「分かりました!」
タリオは意を決し、胸に拳を当てた。これは帝国式の敬礼だ。
二人で馬に飛び乗った。タリオが手網を引くと嘶きをあげる。
私は左手でタリオに掴まり、右手には旗を持つ。
帝国の旗に使われる紫の地に、剣を持つ騎士のマーク。代々ウィルフリード家が受け継いできた、帝国の騎士としての地位を表す。
雪辱を晴らす時が遂に巡ってきたのだ。
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