英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル

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第一章

89話 就任演説

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 次の日、私は街の中心へと足を運んだ。
 領民たちへの誤解を解き、スムーズな政権移動の為に領主就任のご挨拶という訳だ。

 会場となる広場に、街の衛兵たちが一日で設置した仮設の台は、今にも崩れそうな木箱を積み上げ、申し訳程度に布を被せたものだった。

 それでも広場にはファリアに来て一番の人数が詰め掛けていた。
 その数およそ五百人。やはり領民の今後の生活に関わる一番の関心事だからであろう。

 警備の兵列に目をやると、その奥には街の代表団もいた。
 先に来た孔明と何やら話をしていて、孔明にペコペコと頭を下げていた。

「───レオ様、一応私たちが呼び掛けたお時間になりました。……不慣れな土地で周知が足りなかったことをお詫び申し上げます」

「いや、これだけ集まれば十分だ。ありがとう。それじゃあ始めようか」

「は!」

 私がタリオの肩を叩くと、彼は何やら手を掲げ合図を出した。
 すると、たった数名の軍楽隊がファンファーレを奏で始めた。

 単純に人数から来る音圧の無さが、どことなく哀愁を漂わせる。つま先で一歩一歩確認するようなたどたどしい音は、かえって式典を盛り下げている。

「あー、結構だ。───ッ!うお!…………手短に終わらせる」

 私が恐る恐る台座に登りそう言うと、軍楽隊はピタリと音を止め、楽器を小脇に抱えた。

 なんとも格好のつかない私の登場に、人々はざわめく。

 それでも、私は成すべきことを成さねばならない。



「諸君!ようこそお集まり頂いた!……いや、私がやって来た側なのだがな!」

「…………」

 どうやら私が昨晩考えた渾身の掴みは失敗に終わったようだ。

「……おっほん!さて、既に掲示板にてご存知の者もいるだろう。だが改めて私自身の口からお伝えすべきと思い、こうしてこの場をご用意したのだ」

 十ばかりの少年には似つかない口ぶりだが、変に媚びへつらって領民に舐められてもいけない。

 貴族と平民。紛争の勝者と敗者。その差はあれど、歩み寄る姿勢を大切に。
 そんなスピーチを心掛ける。

「これより先、ここファリアの地は、この私、レオ=ウィルフリードが治めることになった!これは陛下の勅命である!何人たりとも帝国に背くことは許されない!」

 この言葉はファリアの人々の胸に刺さるだろう。

「既に一部の機関には速やかな政権以降の為に動いて頂いている。諸君らも是非協力して戦いに疲弊したファリア復興を目指そうではないか!」

 私の呼び掛けにも反応はない。
 そればかりか、処刑の話が出ずに「協力」などという甘い言葉が出たことを良しとして、今にも帰ろうとする人まで現れた。

 もう少し聞いてから判断すべきだ。

「……先日、私は身分を隠し、このファリアの街を歩いた。ウィルフリードにはない自然の豊かさとのどかな景色に心打たれ、これからの発展に胸を膨らませた!ここファリアは素晴らしい場所だ!」

 全てが嘘ではない。
 だが演説にはほんの少しの嘘を混ぜると効果的だと、どこぞのちょび髭も言っていた。

 仮にも、以前戦い、血を流した相手のことを「素晴らしい」などと旧ウィルフリードの兵士たちの前で叫ぶ、私の心中も察して欲しいものだ。

「しかし!そんなファリアから逃げ出そうと考えている者がいるようだ!……帝国法第二十四条『何人たりとも納税・兵役その他の義務から逃れてはならない。帝国に叛いた者は帝国民としての一切の権利を失い、命の保証もない』。……私は陛下の忠誠なる貴族として、帝国法を遵守すべく、そのような者には厳しく対応するだろう!」

 私の真剣な眼差しと強い口調に、会場の空気が一変する。
 兵たちの剣や槍にかける手も、一層強く握られるのが見て取れた。

「───わ、我々は殺されるのですか!?」

 最前列に立つ男が私の演説に口を挟んだ。

 帝国法二十四条は単純な逃亡だけではなく、脱税等の取り締まりにも適応される。
 ……そしてもちろん、反乱を起こした者についても。

「いや、現在の所、その予定はない。……陛下は私にファリアを治めよと命じなさったのだ。戦後処理はバルン=ファリアの処刑、及び先日までいた皇都からの駐屯兵団が行ったもので全てである。私の任はここファリアを帝国の一部として再び返り咲かせることだ。よって無闇な殺生はしたくない。だからこそ、諸君らには協力して欲しいと願っているのだ」

 私の返答は意外だったのか、食い下がることも無く男は黙った。

「……ここはウィルフリードの一部になるのでしょうか?」

「いや、私は確かにレオ=ウィルフリードだが、地名は特にこだわるつもりもない。ウィルフリード家が治めるファリア地方ということで理解してくれ」

 戦争で奪った敵国の土地なら地名も変わるだろう。その方がより奪った土地の支配を誰もが容易に実感できるからだ。
 しかし帝国内での頭がすげ代わっただけなので、そのような無駄は省ける。

「さて、他にも質問があれば受け付けよう。……そうそう、後に目安箱という、要は執政側に意見を書く投書箱のようなものを設置しようと思っている。何か問題があればそこに匿名で書いてくれれば、掲示板でもお答えしよう」

 “地方自治は民主主義の最良学校であり、その成功の最良の保証人である“
 ───ジェームズ・ブライス

 私はいずれこの国を民主的なものにしたいと考えている。そのためにまずは、少しでも自分が政治に参加するという感覚を身に付けて欲しいのだ。

「少し落ち着いた頃に求人のお知らせなども掲示する予定だ。今まではあまり利用されていなかったようだが、これからは毎日一度は見るようにしてくれ」

 貴族が上から一方的に押し付けるのではなく、彼ら自身が主体的に動く。
 それは軍政に近い帝国の「上意下達」という美徳感覚には反するかもしれない。だが、私はそんなことお構いなしである。

 常に最善を目指そう。



「───特に質問はないようだな!それでは諸君、また会おう!」

 私は手を掲げ領民に挨拶をすると、軋む木箱をそろりと降りた。

「お疲れ様でしたレオ」

「あぁ孔明。……どうだ?少々気張りすぎたか?」

「いえ、そんなこともありません。……ご覧なさい」

 私は孔明が閉じた羽扇の指す先を見た。

 そこには未だ会場に残る人々がいた。
 彼らの顔は困惑に満ち、不安そうにガヤガヤと騒いでいる。

 しかし、それは私がここに来た時よりも、心做しか希望混じりの笑顔を見せる人も増えたようだ。

「まぁ、彼らも慣れればなんとかなるさ。これからが楽しみだな」

「そうですね。私もレオの期待に応えられるよう、精進しましょう」

「頼んだ。……君たちもよろしく頼むよ」

「は、はい!精一杯頑張らせて頂きます!」

 代表団は政府と民を繋ぐ架け橋として重要な役割を果たして貰わねばならない。

「さて歳三、戻ろうか」

「おう」

 私は確かな手応えを感じながら、帰路についた。
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