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第三章
217話 仮初の平和
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それから更に一年の時が過ぎた。
今年は私も十七だ。そろそろ皇帝としての雰囲気も出てきたのではないだろうか、などと自分でも思う。
「それにしても、たった一年半でこの国の景色も随分と見違えたものだな」
皇城のバルコニーからエルシャと一緒にこの景色を眺めるのが日課となっている。
「全部、貴方のおかげよ」
「いや違う。この国の人間全員のおかげだ」
王国やアキードと国交が途絶えようとも、帝国と亜人・獣人の国々だけで人類は目覚しい発展を遂げていた。
産業革命を経た帝国の国力は敵国二つを合わせても遠く及ばない程だ。
「でも戦争も内乱もなく、貴方が皇帝になってから本当に平和になったわ」
「ほんの一時の平和を、こうやって君と享受できていることは嬉しく思うよ」
「……そう悲観するのは貴方の悪い癖だわ。例えそうだとしても、この国の民はその一時の平和に、そして貴方に感謝しているのよ」
「……そうか。それなら良かった」
帝国と亜人・獣人の国々を横断する機関車は今日も黒煙を上げながら大勢の人を運んでいる。
私の仕事もだいぶ落ち着いてきた。
外交が不要になったので、そういう面で苦労することはない。内政も各省庁に任せて問題ない。
国内の貴族たちもこの経済発展を見て、私に逆らってまでこの利益を逃す馬鹿な真似はしなかった。
「今日は少し出掛けようか」
「いえ、今日はこのままがいいわ」
「そうか。……口が寂しいな」
「そうね──」
「……!」
エルシャは突然私の唇に口付けをした。
「なッ! エ、エルッ! ちがっ、そうじゃない! ……ミーツ! 何かお茶と例のデザートを持ってきてくれ!」
「……は~いにゃ~……」
廊下の方からミーツの返事が聞こえてくる。
少しして数名のメイドが紅茶と幾つかの菓子を持ってきて、テーブルの上に並べていった。
「……これは?」
「これはプリンというスイーツだ。交通網の発達や魔導冷蔵庫によって、新鮮な乳製品や卵をどこでも手軽に手に入れられるようになったから簡単に作れるんじゃないかと思ってな。シェフに伝えてみたんだ」
「そう。頂いてみるわ」
エルシャは小さなガラス容器に満たされた黄金色のプリンをスプーンで口に滑らせる。そして彼女は目を丸くして私を見つめた。
「美味しい! ファリアで貴方が出してくれたお菓子も美味しかったけど、私はこっちの方が好きだわ!」
「そうだろう。その横の黒いソースを少し絡めて食べるとまた違った味で楽しめるぞ」
エルシャは言われるがままにカラメルをスプーン一杯分プリンに掛けてまた一口。
「美味しいわ!」
それからは美味しい美味しいとしきりに呟きながら笑顔でプリンを完食した。
「……喜んでくれて何よりだ」
「ねえ、他にも思い付いたメニューはないの?」
「はは! そんなに気に入ったか。……他にもいくつかアイデアはある。冷蔵庫、と言うより冷凍庫が必要になる冷たいスイーツがな。だがもしかしたらその香り付けに使う素材が栽培されていないかもしれないから、時間がかかるかもしれないな」
「ええー! そこまで言われたら気になるからなんとしてでも見つけなさいよ!」
「ふっ、分かったよ。探させてみる」
一般的に歴史上の支配者は酒や女、贅沢に溺れることが多いが、私たちにはこのようなささやかな楽しみで十分だった。
「こんな日々がいつまでも続けばいいな……」
そう思っていた時だった。
「──レオ様!」
「何者だ!」
男子禁制のこの場所に私以外の男の声が響き渡った。
私は咄嗟に右腰のホルスターに手を掛け部屋の方へ戻る。立ち上がり私に続こうとするエルシャを左手で静止しバルコニーへの扉を閉めカーテンで完全に覆い隠した。
そこまで警戒していた私だったが、部屋に入ってきたのは見慣れた男だった。
「タリオ……!? どうしたんだ!?」
「大変ですレオ様!」
タリオは額に汗を浮かべ息を切らしながら、真っ青な表情で跪き、叫んだ。
「お父上であるウルツ=ウィルフリード様がお亡くなりになられました……!!!」
今年は私も十七だ。そろそろ皇帝としての雰囲気も出てきたのではないだろうか、などと自分でも思う。
「それにしても、たった一年半でこの国の景色も随分と見違えたものだな」
皇城のバルコニーからエルシャと一緒にこの景色を眺めるのが日課となっている。
「全部、貴方のおかげよ」
「いや違う。この国の人間全員のおかげだ」
王国やアキードと国交が途絶えようとも、帝国と亜人・獣人の国々だけで人類は目覚しい発展を遂げていた。
産業革命を経た帝国の国力は敵国二つを合わせても遠く及ばない程だ。
「でも戦争も内乱もなく、貴方が皇帝になってから本当に平和になったわ」
「ほんの一時の平和を、こうやって君と享受できていることは嬉しく思うよ」
「……そう悲観するのは貴方の悪い癖だわ。例えそうだとしても、この国の民はその一時の平和に、そして貴方に感謝しているのよ」
「……そうか。それなら良かった」
帝国と亜人・獣人の国々を横断する機関車は今日も黒煙を上げながら大勢の人を運んでいる。
私の仕事もだいぶ落ち着いてきた。
外交が不要になったので、そういう面で苦労することはない。内政も各省庁に任せて問題ない。
国内の貴族たちもこの経済発展を見て、私に逆らってまでこの利益を逃す馬鹿な真似はしなかった。
「今日は少し出掛けようか」
「いえ、今日はこのままがいいわ」
「そうか。……口が寂しいな」
「そうね──」
「……!」
エルシャは突然私の唇に口付けをした。
「なッ! エ、エルッ! ちがっ、そうじゃない! ……ミーツ! 何かお茶と例のデザートを持ってきてくれ!」
「……は~いにゃ~……」
廊下の方からミーツの返事が聞こえてくる。
少しして数名のメイドが紅茶と幾つかの菓子を持ってきて、テーブルの上に並べていった。
「……これは?」
「これはプリンというスイーツだ。交通網の発達や魔導冷蔵庫によって、新鮮な乳製品や卵をどこでも手軽に手に入れられるようになったから簡単に作れるんじゃないかと思ってな。シェフに伝えてみたんだ」
「そう。頂いてみるわ」
エルシャは小さなガラス容器に満たされた黄金色のプリンをスプーンで口に滑らせる。そして彼女は目を丸くして私を見つめた。
「美味しい! ファリアで貴方が出してくれたお菓子も美味しかったけど、私はこっちの方が好きだわ!」
「そうだろう。その横の黒いソースを少し絡めて食べるとまた違った味で楽しめるぞ」
エルシャは言われるがままにカラメルをスプーン一杯分プリンに掛けてまた一口。
「美味しいわ!」
それからは美味しい美味しいとしきりに呟きながら笑顔でプリンを完食した。
「……喜んでくれて何よりだ」
「ねえ、他にも思い付いたメニューはないの?」
「はは! そんなに気に入ったか。……他にもいくつかアイデアはある。冷蔵庫、と言うより冷凍庫が必要になる冷たいスイーツがな。だがもしかしたらその香り付けに使う素材が栽培されていないかもしれないから、時間がかかるかもしれないな」
「ええー! そこまで言われたら気になるからなんとしてでも見つけなさいよ!」
「ふっ、分かったよ。探させてみる」
一般的に歴史上の支配者は酒や女、贅沢に溺れることが多いが、私たちにはこのようなささやかな楽しみで十分だった。
「こんな日々がいつまでも続けばいいな……」
そう思っていた時だった。
「──レオ様!」
「何者だ!」
男子禁制のこの場所に私以外の男の声が響き渡った。
私は咄嗟に右腰のホルスターに手を掛け部屋の方へ戻る。立ち上がり私に続こうとするエルシャを左手で静止しバルコニーへの扉を閉めカーテンで完全に覆い隠した。
そこまで警戒していた私だったが、部屋に入ってきたのは見慣れた男だった。
「タリオ……!? どうしたんだ!?」
「大変ですレオ様!」
タリオは額に汗を浮かべ息を切らしながら、真っ青な表情で跪き、叫んだ。
「お父上であるウルツ=ウィルフリード様がお亡くなりになられました……!!!」
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