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チェロとピアノと素敵なディナー ④
しおりを挟む「仕事はどうしてるんだ?」
不意に白哉が口を開いた。
「ピアノ講師だったんだろ? 今は――」
「同じ会社の、本社の事務員をしてます。あ、でも今は、チェロにも挑戦してます」
「チェロ?」
白哉がこちらを向いた。
「はい。義手で弓を持って、肩甲骨を動かしてボーイングするんです。音程を決めるのは左手だから、片腕でもできるかなって」
言いながらチェロを弾く真似をした。けれど、途中で恥ずかしくなってしまい、最後は照れ笑いが混じってしまった。
白哉は杏依の話に一度目を見開く。けれどすぐに目を優しく細めて、杏依の頭に大きな手を置いた。
「……すごいな」
「そんなこと、ないです」
コーヒーカップで照れた顔を隠すように俯くと、彼の手が杏依の髪を滑る。その手つきが、くすぐったい。
「結局、私は音楽から逃れられないんです。奏でることが、好きなんですよね」
「強いな。俺とは大違いだ」
「白哉先生だって、たくさんオペをこなしてらっしゃるじゃないですか」
「俺の場合は、それでしか償えないからだ」
「償い……」
まただ、と杏依は思った。でも、そこには踏み込んではいけないような気がする。
黙ってしまうと、気まずい空気が二人の間に漂った。
そうだ!
杏依は重たい空気をかき消したいと、鞄からチラシを取り出した。
「あの、今度うちの器楽教室の発表会があるんですけど、そこで私もチェロを弾くんです。初めての舞台なので、うまくいくか分からないんですけど……あの、よかったら――」
言いかけて、はっとして口を噤んだ。
来てください、とは言えない。白哉は忙しい人だ。オペだらけだと、この間、碧人から聞いたばかりだ。
「へえ」
けれど、白哉は杏依の引っ込めたチラシを華麗に攫ってゆく。
「行く。聞きたい」
「……はい!」
優しい笑みで告げられて。杏依の心は、それだけで弾けそうなくらい、嬉しくなった。
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