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放浪編
092 放浪編11 プリンス
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判決が出たとはいえ、ギルバート伯爵も臣下も武力をそのまま保持していた。
艦隊で武装蜂起されたら数の差で対抗できそうもないし、伯爵の臣下に白兵戦で襲撃されたら、艦以外の武器を持たない僕らは手も足も出ない。
だが裁判官から閉廷の言葉が出ると同時に、伯爵はいきなり痙攣をして麻痺状態になってしまった。
帝国民が共通して着けている腕輪の機能を使い、拘束のために麻痺させたとのことだ。
あっけなくギルバート伯爵も共犯の臣下もお縄についた。
伯爵が指揮していた第183艦隊は、帝国正規軍であって伯爵の私兵ではなかった。
なので一部伯爵子飼いの臣下の艦以外はアノイ要塞に恭順した。
その子飼いの臣下も共犯として捕まったため、混乱は全く起きなかった。
ただ、この腕輪の機能が自分達にも向いていることに、僕は脅威を覚えた。
洗脳と同様に、今後は腕輪にも気をつけなければならない。
裁判官AIからコマンダー・サンダースに判決が伝えられ、ギルバート伯爵とその臣下は収監された。
後で罪状とともに帝国本国へ移送されることになるだろう。
護衛騎士として来ていた帝国軍補佐官はギルバート伯爵の臣下ではなく、柵のないディッシュ伯爵の息子なのだそうだ。
彼が法的に正しく審議したところ、全てギルバート伯爵が法をねじ曲げた結果の暴挙だったと確定した。
この際、僕が帝国の第6皇子だということが、コマンダー・サンダースに伝えられた。
犬族の長である男爵家から嫁を出していたことに、コマンダー・サンダースは小さくガッツポーズをしていた。
当然、この期に及んで嫁入りの撤回など考えもしないから、嫁入りは確定することになった。
そういやアノイ要塞の3軍は、嫁3人の実家の領兵だった。
小領地混成軍は小領地を持つ小規模部族の集団だが、実質ラーテル族がほぼ支配しているのだそうだ。
僕は嫁を通じてアノイ要塞の全軍を牛耳れる立場になってしまった。
実験体、獣と虐げられ、二級市民の座に甘んじなければならない彼らにとって、僕を皇帝に据えられれば自分たちの立場を高めることが出来る。
彼らは第6皇子である僕に付くことを早々に決めたようだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
僕が事務所に帰ると、先に解放された社長以下みんなが僕を心配してくれていた。
強引に連れて行かれた綾姫も帰って来た。
「今回の件、裏でシナリオを書いていたのはプリンスだったよ」
「なんだって!」
社長が驚く。みんなも呆然としている。
「ステーションが攻撃されていると言われていた時、洗脳から覚めていた僕は、ステーションの後方から迫る艦隊も、ステーションの損傷も見えなかった。
大損害を出したと言っていたステーションに、傷ひとつ無かったから、これも幻覚を使った何かの陰謀だろうと思っていた。
だが、次元跳躍門からの敵艦隊の襲撃は本物だった。
それでステーションの撤退は本当なんだろうと思ってしまっていたんだ。
あれはプリンスの企みだったに違いない。僕たちを帝国に誘拐し、あわよくば貴族の支配下に置くことが目的だったんだろう。
監察官が動いていたからどうにかなると思っていたけど、まさかプリンスが一連の事件の主犯だったなんて思いもしなかった……」
「つまりプリンスが黒幕だということか」
神澤社長が顔をしかめながら問う。
「たぶんね。
愛さん、プリンスは第何皇子だ?」
「「「え? 皇子 (だと)?」」」
みんなが驚く。そういえば僕も皇子だったって伝えてなかったな。
「プリンス様――ケイン殿下は、第13皇子です。
晶羅殿下が皇子と判明したことで第12皇子から継承権が1つ下がりました」
「「「「えーーーー! 晶羅も皇子? どういうこと(だ)」」」」
ここは皇子の認定条件の話からしないとならないだろうな……。
愛さんに説明を全振りする。
「……というわけで、皇帝陛下の血筋外で皇帝の因子を持って稀に生まれるのが自然発生皇子と呼ばれる存在――晶羅殿下です。
晶羅殿下がステーションでDNAを登録した際に、皇帝の因子を持っていることが判明し、その因子の強さから第6皇子と認定されました」
みんな僕が皇子だと知って動転している。
綾姫と美優はパニックになっている。
紗綾は「玉の輿」と言いながらガッツポーズをしている。
「つまり、それによりプリンスは自分の立場が危うくなったということか」
社長がいち早く復帰した。
そこなんだよね。それが動機っぽい。
「だろうね。自分の皇位継承を脅かす存在がいきなり1人、しかも上位に増えたってことだからね」
社長の言葉に僕も現実が見えてきた。プリンスは僕が邪魔だったんだ。
「皇子に認定されると、それを伝えないなんてことはあるの?」
「基本的に有り得ません。
私の情報提供にロックがかかっていたこともプリンス殿下の皇子命令だと思われます」
ああ、立場を使っての隠蔽工作か。
伝えるべき人間が隠蔽に走ったんじゃ知りようがないわな。
愛さんの存在が無ければ終わっていたかもしれない。
まさか愛さんの機密管理が時々ユルユルなのは……。まさかね。
「つまり僕は皇位継承問題に既に巻き込まれているってことだよね」
「そうなります」
「これ、どこまでやっていいんだろ?」
「質問内容が曖昧です。もう少し具体的にお願いします」
「プリンスを法的、物理的に排除出来るのかって話」
「法的には無理です。法より身分が優先してしまいます。
ただし、この件によって晶羅殿下にはケイン殿下へ報復する権利が与えられます」
そういや、プリンスの本名はケインなのか。
ケインという名にはたしか「裏切り」という意味があったな。
プリンスにピッタリの名前じゃないか。
「報復とは、どの程度のことが出来るの?」
「この件を帝国中に晒しケイン殿下の権威を失墜させることから、決闘による全面武力衝突まで出来ます」
「全面武力衝突は、こっちの方が危なそうだね。
悔しいけど効果的な報復手段は無さそうだ。
まずは逆にやられないために戦力増強が必要だな」
どうやら地球帰還=プリンス打倒になりそうだ。
さて、どこから戦力を増強するべきか。
周辺地域を僕の支配域に入れていくか?
プリンスの支配域なら他所から文句は出ないだろう。
そのためには色々知る必要がある。
「愛さん、帝国の情報がいる。僕に全てを教えてくれ。
まず敵勢力とは何だ?」
「敵勢力とは、旧皇帝派の残党と野良の艦船生物のことです」
ちょっと待って。とんでもない情報が2つあるぞ。
「まず旧皇帝派とは?」
「遙か昔、今の皇家よりずっと前の時代に、騙し討ちで倒され帝位を簒奪された皇帝がいました。
その係累や臣下が今も正当な帝国の継承者であるとして抵抗しているです。
それが敵勢力と言われている勢力の1つです」
遥か昔、すっと前の時代か……。
それにしても帝国のサポートAIが簒奪と言うのか。
これも旧帝国の技術を丸々パクった弊害だろうか?
しかし、旧帝国の残党が長年諦めずに戦いを挑むという事は何か譲れない理由でもあるのか?
「旧皇帝派が帝国に戦いを挑むのは何か譲れない理由でもあるの?」
「はい。帝国が今も掌握している、とある秘宝を取り返そうとしているようです」
「とある秘宝とは?」
「サポートAIのデータバンクに情報そのものがありません」
旧皇帝派か。僕の地球の常識では帝位を簒奪した今の帝国より正当性がありそうな気がするぞ。
だけど皇子認定されてしまっている僕も彼らからしたら敵の皇子になるんだろうな。
味方に引き込むのは不可能かな。
「野良の艦船生物とは?」
「帝国の艦船も元はと言えば艦船生物なのです。無機物系の鉱物生物が帝国人のDNAに残された情報を元に艦船の形をとっているのです。
これは旧帝国の遺産だと推定されており、元々旧帝国の生物兵器だと言われています。
それが野良化したのが野良の艦船生物で、DNAの情報を得て進化するために人を襲います」
「暴走した鉱物生物兵器か。これは話し合いの余地もなさそうだね」
こっちはナーブクラックで支配すれば有力な戦力になるかもしれないぞ。
「皇帝の因子によって皇子に順位がついているけど、これは固定されているの?」
「いいえ。因子は艦の成長と共に強くなります。因子が強くなれば順位が上がります」
「その順位によって次期皇帝が決まるの?」
「基本的にそうです」
ほう。皇帝の血筋じゃなくても皇帝になれるのか。
「簒奪したにしては、地位を自分の血筋に残さないんだね」
「いいえ。今のところは代々新皇帝陛下の血筋が継承しています」
「それは血筋以外は結果的に粛清されてるということ?」
「一部は戦いにより命を落とした結果ですが、ほとんどは病死です」
「病死?」
「皇帝の因子持ちは病弱なのです。それで生体強化の実験で生命力の強い生物のDNAを入れようとしたのです」
ああ、それが獣人たちってことか。
「その生体強化の実験と猫族や犬族達の境遇がやっと繋がったよ」
「その実験結果により強化された者達が新皇帝陛下の血筋なのです。
自然発生の因子持ちはその強化の恩恵を受けていないので弱いのです」
「僕も自然発生だから弱いのか……。僕は結構元気なんだけどな。
となると、病死以外の順位入れ替えは皇子同士で争ったということか」
「はい」
血生臭い話だな。
だからプリンスは僕を目の敵にしたんだな。
そんな素振りは一切見せないで、むしろ味方だと思わせて……。
ジワリジワリと僕を追い込んでいたなんて恐ろしい奴だ。
そんな皇位継承争いになんで僕が巻き込まれなければいけないんだ。
「晶羅殿下は帝国人以外から発生した初めての因子持ちです。
地球人は帝国人とは全く違う系統で発生した人類なのです。
それが交配可能レベルまで帝国人と遺伝的にそっくりだということが不思議なのです。
もしかすると共通の先祖から派生した兄弟種族、旧皇帝種族の再来かと思われたのかもしれません」
僕が脅威だと思われていた理由がなんとなくわかって来たぞ。
◇ ◇ ◇ ◆ ◇
今、アノイ要塞の地球人たちに騒がれている件がある。
僕はあまり気にしたことが無かったんだけど、SFOって総勢何人ぐらいがプロゲーマーとして所属しているんだろう。
たしか新人が毎週30~40人ぐらい増えていると聞いたことがある。
6人で受講した研修室が8部屋はあったし、週毎に人数に波があるとしても5部屋から7部屋ぐらいが常に使われていた印象だった。
その新人が3年契約で入って来るんだから、常時5500人ぐらいはSFOプレイヤーがいるはずだ。
それに加えて上位ランクを得た人はそのまま契約延長している人が多いし、RP専門で来ている傭兵さんたちも長期契約で更新している。
ざっと総勢8000人はいてもおかしくない。
各ランクのトーナメント同時開催数と人数構成からいってもそれぐらいが妥当だろう。
なのにアノイ要塞にいる地球人が2500人ぐらいしかいないっておかしくないか?
残り5500人ってどこに行っちゃったの?
SFOランカーが10人いるはずだけど、ここに全員が揃ってないのはおかしいよね?
最初は遠征に行ったまま、まだ帰って来ていないのだと思われていた。
しかし、時間が経つにつれ、知り合いがいないとか、あのSFOランカーを見かけないとか、皆が異常に気付きだした。
アノイ要塞に来る前のこと、最初にステーションに人がいないと思ったのは、敵の攻勢が止まってRP組の皆が遠征に出かけた時だった。
VPには人がいたけど、そもそも仮想空間での虚像の戦いだ。
はたして、その人達は本当にそこに居たのだろうか?
そう思うと僕たちが遠征から帰って来た後のステーションは、おかしかった。
もしや元からいたSFOプレイヤーがそこにはいなかったのではないか?
何らかの選抜によって集められた者たちだけが、そこに残留していて、そのままアノイ要塞に連れて来られたのではないのか。
こんなことが出来るのは、洗脳によって誘導されたからじゃないだろうか。
消えた5500人は、もしかしたらビギニ星系で今でも普通にSFOをプレイして配信しているのではないのか?
プリンスに裏切られたと判った今では、そう疑わざるを得ない。
アノイ要塞に連れて来られた2500人というのが、丁度契約切れにより1年間でSFOを去るはずだった人数とほぼ同じだというのも何かを暗示している気がする。
もしかすると、姉華蓮が行方不明な理由もこれかもしれない。
艦隊で武装蜂起されたら数の差で対抗できそうもないし、伯爵の臣下に白兵戦で襲撃されたら、艦以外の武器を持たない僕らは手も足も出ない。
だが裁判官から閉廷の言葉が出ると同時に、伯爵はいきなり痙攣をして麻痺状態になってしまった。
帝国民が共通して着けている腕輪の機能を使い、拘束のために麻痺させたとのことだ。
あっけなくギルバート伯爵も共犯の臣下もお縄についた。
伯爵が指揮していた第183艦隊は、帝国正規軍であって伯爵の私兵ではなかった。
なので一部伯爵子飼いの臣下の艦以外はアノイ要塞に恭順した。
その子飼いの臣下も共犯として捕まったため、混乱は全く起きなかった。
ただ、この腕輪の機能が自分達にも向いていることに、僕は脅威を覚えた。
洗脳と同様に、今後は腕輪にも気をつけなければならない。
裁判官AIからコマンダー・サンダースに判決が伝えられ、ギルバート伯爵とその臣下は収監された。
後で罪状とともに帝国本国へ移送されることになるだろう。
護衛騎士として来ていた帝国軍補佐官はギルバート伯爵の臣下ではなく、柵のないディッシュ伯爵の息子なのだそうだ。
彼が法的に正しく審議したところ、全てギルバート伯爵が法をねじ曲げた結果の暴挙だったと確定した。
この際、僕が帝国の第6皇子だということが、コマンダー・サンダースに伝えられた。
犬族の長である男爵家から嫁を出していたことに、コマンダー・サンダースは小さくガッツポーズをしていた。
当然、この期に及んで嫁入りの撤回など考えもしないから、嫁入りは確定することになった。
そういやアノイ要塞の3軍は、嫁3人の実家の領兵だった。
小領地混成軍は小領地を持つ小規模部族の集団だが、実質ラーテル族がほぼ支配しているのだそうだ。
僕は嫁を通じてアノイ要塞の全軍を牛耳れる立場になってしまった。
実験体、獣と虐げられ、二級市民の座に甘んじなければならない彼らにとって、僕を皇帝に据えられれば自分たちの立場を高めることが出来る。
彼らは第6皇子である僕に付くことを早々に決めたようだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
僕が事務所に帰ると、先に解放された社長以下みんなが僕を心配してくれていた。
強引に連れて行かれた綾姫も帰って来た。
「今回の件、裏でシナリオを書いていたのはプリンスだったよ」
「なんだって!」
社長が驚く。みんなも呆然としている。
「ステーションが攻撃されていると言われていた時、洗脳から覚めていた僕は、ステーションの後方から迫る艦隊も、ステーションの損傷も見えなかった。
大損害を出したと言っていたステーションに、傷ひとつ無かったから、これも幻覚を使った何かの陰謀だろうと思っていた。
だが、次元跳躍門からの敵艦隊の襲撃は本物だった。
それでステーションの撤退は本当なんだろうと思ってしまっていたんだ。
あれはプリンスの企みだったに違いない。僕たちを帝国に誘拐し、あわよくば貴族の支配下に置くことが目的だったんだろう。
監察官が動いていたからどうにかなると思っていたけど、まさかプリンスが一連の事件の主犯だったなんて思いもしなかった……」
「つまりプリンスが黒幕だということか」
神澤社長が顔をしかめながら問う。
「たぶんね。
愛さん、プリンスは第何皇子だ?」
「「「え? 皇子 (だと)?」」」
みんなが驚く。そういえば僕も皇子だったって伝えてなかったな。
「プリンス様――ケイン殿下は、第13皇子です。
晶羅殿下が皇子と判明したことで第12皇子から継承権が1つ下がりました」
「「「「えーーーー! 晶羅も皇子? どういうこと(だ)」」」」
ここは皇子の認定条件の話からしないとならないだろうな……。
愛さんに説明を全振りする。
「……というわけで、皇帝陛下の血筋外で皇帝の因子を持って稀に生まれるのが自然発生皇子と呼ばれる存在――晶羅殿下です。
晶羅殿下がステーションでDNAを登録した際に、皇帝の因子を持っていることが判明し、その因子の強さから第6皇子と認定されました」
みんな僕が皇子だと知って動転している。
綾姫と美優はパニックになっている。
紗綾は「玉の輿」と言いながらガッツポーズをしている。
「つまり、それによりプリンスは自分の立場が危うくなったということか」
社長がいち早く復帰した。
そこなんだよね。それが動機っぽい。
「だろうね。自分の皇位継承を脅かす存在がいきなり1人、しかも上位に増えたってことだからね」
社長の言葉に僕も現実が見えてきた。プリンスは僕が邪魔だったんだ。
「皇子に認定されると、それを伝えないなんてことはあるの?」
「基本的に有り得ません。
私の情報提供にロックがかかっていたこともプリンス殿下の皇子命令だと思われます」
ああ、立場を使っての隠蔽工作か。
伝えるべき人間が隠蔽に走ったんじゃ知りようがないわな。
愛さんの存在が無ければ終わっていたかもしれない。
まさか愛さんの機密管理が時々ユルユルなのは……。まさかね。
「つまり僕は皇位継承問題に既に巻き込まれているってことだよね」
「そうなります」
「これ、どこまでやっていいんだろ?」
「質問内容が曖昧です。もう少し具体的にお願いします」
「プリンスを法的、物理的に排除出来るのかって話」
「法的には無理です。法より身分が優先してしまいます。
ただし、この件によって晶羅殿下にはケイン殿下へ報復する権利が与えられます」
そういや、プリンスの本名はケインなのか。
ケインという名にはたしか「裏切り」という意味があったな。
プリンスにピッタリの名前じゃないか。
「報復とは、どの程度のことが出来るの?」
「この件を帝国中に晒しケイン殿下の権威を失墜させることから、決闘による全面武力衝突まで出来ます」
「全面武力衝突は、こっちの方が危なそうだね。
悔しいけど効果的な報復手段は無さそうだ。
まずは逆にやられないために戦力増強が必要だな」
どうやら地球帰還=プリンス打倒になりそうだ。
さて、どこから戦力を増強するべきか。
周辺地域を僕の支配域に入れていくか?
プリンスの支配域なら他所から文句は出ないだろう。
そのためには色々知る必要がある。
「愛さん、帝国の情報がいる。僕に全てを教えてくれ。
まず敵勢力とは何だ?」
「敵勢力とは、旧皇帝派の残党と野良の艦船生物のことです」
ちょっと待って。とんでもない情報が2つあるぞ。
「まず旧皇帝派とは?」
「遙か昔、今の皇家よりずっと前の時代に、騙し討ちで倒され帝位を簒奪された皇帝がいました。
その係累や臣下が今も正当な帝国の継承者であるとして抵抗しているです。
それが敵勢力と言われている勢力の1つです」
遥か昔、すっと前の時代か……。
それにしても帝国のサポートAIが簒奪と言うのか。
これも旧帝国の技術を丸々パクった弊害だろうか?
しかし、旧帝国の残党が長年諦めずに戦いを挑むという事は何か譲れない理由でもあるのか?
「旧皇帝派が帝国に戦いを挑むのは何か譲れない理由でもあるの?」
「はい。帝国が今も掌握している、とある秘宝を取り返そうとしているようです」
「とある秘宝とは?」
「サポートAIのデータバンクに情報そのものがありません」
旧皇帝派か。僕の地球の常識では帝位を簒奪した今の帝国より正当性がありそうな気がするぞ。
だけど皇子認定されてしまっている僕も彼らからしたら敵の皇子になるんだろうな。
味方に引き込むのは不可能かな。
「野良の艦船生物とは?」
「帝国の艦船も元はと言えば艦船生物なのです。無機物系の鉱物生物が帝国人のDNAに残された情報を元に艦船の形をとっているのです。
これは旧帝国の遺産だと推定されており、元々旧帝国の生物兵器だと言われています。
それが野良化したのが野良の艦船生物で、DNAの情報を得て進化するために人を襲います」
「暴走した鉱物生物兵器か。これは話し合いの余地もなさそうだね」
こっちはナーブクラックで支配すれば有力な戦力になるかもしれないぞ。
「皇帝の因子によって皇子に順位がついているけど、これは固定されているの?」
「いいえ。因子は艦の成長と共に強くなります。因子が強くなれば順位が上がります」
「その順位によって次期皇帝が決まるの?」
「基本的にそうです」
ほう。皇帝の血筋じゃなくても皇帝になれるのか。
「簒奪したにしては、地位を自分の血筋に残さないんだね」
「いいえ。今のところは代々新皇帝陛下の血筋が継承しています」
「それは血筋以外は結果的に粛清されてるということ?」
「一部は戦いにより命を落とした結果ですが、ほとんどは病死です」
「病死?」
「皇帝の因子持ちは病弱なのです。それで生体強化の実験で生命力の強い生物のDNAを入れようとしたのです」
ああ、それが獣人たちってことか。
「その生体強化の実験と猫族や犬族達の境遇がやっと繋がったよ」
「その実験結果により強化された者達が新皇帝陛下の血筋なのです。
自然発生の因子持ちはその強化の恩恵を受けていないので弱いのです」
「僕も自然発生だから弱いのか……。僕は結構元気なんだけどな。
となると、病死以外の順位入れ替えは皇子同士で争ったということか」
「はい」
血生臭い話だな。
だからプリンスは僕を目の敵にしたんだな。
そんな素振りは一切見せないで、むしろ味方だと思わせて……。
ジワリジワリと僕を追い込んでいたなんて恐ろしい奴だ。
そんな皇位継承争いになんで僕が巻き込まれなければいけないんだ。
「晶羅殿下は帝国人以外から発生した初めての因子持ちです。
地球人は帝国人とは全く違う系統で発生した人類なのです。
それが交配可能レベルまで帝国人と遺伝的にそっくりだということが不思議なのです。
もしかすると共通の先祖から派生した兄弟種族、旧皇帝種族の再来かと思われたのかもしれません」
僕が脅威だと思われていた理由がなんとなくわかって来たぞ。
◇ ◇ ◇ ◆ ◇
今、アノイ要塞の地球人たちに騒がれている件がある。
僕はあまり気にしたことが無かったんだけど、SFOって総勢何人ぐらいがプロゲーマーとして所属しているんだろう。
たしか新人が毎週30~40人ぐらい増えていると聞いたことがある。
6人で受講した研修室が8部屋はあったし、週毎に人数に波があるとしても5部屋から7部屋ぐらいが常に使われていた印象だった。
その新人が3年契約で入って来るんだから、常時5500人ぐらいはSFOプレイヤーがいるはずだ。
それに加えて上位ランクを得た人はそのまま契約延長している人が多いし、RP専門で来ている傭兵さんたちも長期契約で更新している。
ざっと総勢8000人はいてもおかしくない。
各ランクのトーナメント同時開催数と人数構成からいってもそれぐらいが妥当だろう。
なのにアノイ要塞にいる地球人が2500人ぐらいしかいないっておかしくないか?
残り5500人ってどこに行っちゃったの?
SFOランカーが10人いるはずだけど、ここに全員が揃ってないのはおかしいよね?
最初は遠征に行ったまま、まだ帰って来ていないのだと思われていた。
しかし、時間が経つにつれ、知り合いがいないとか、あのSFOランカーを見かけないとか、皆が異常に気付きだした。
アノイ要塞に来る前のこと、最初にステーションに人がいないと思ったのは、敵の攻勢が止まってRP組の皆が遠征に出かけた時だった。
VPには人がいたけど、そもそも仮想空間での虚像の戦いだ。
はたして、その人達は本当にそこに居たのだろうか?
そう思うと僕たちが遠征から帰って来た後のステーションは、おかしかった。
もしや元からいたSFOプレイヤーがそこにはいなかったのではないか?
何らかの選抜によって集められた者たちだけが、そこに残留していて、そのままアノイ要塞に連れて来られたのではないのか。
こんなことが出来るのは、洗脳によって誘導されたからじゃないだろうか。
消えた5500人は、もしかしたらビギニ星系で今でも普通にSFOをプレイして配信しているのではないのか?
プリンスに裏切られたと判った今では、そう疑わざるを得ない。
アノイ要塞に連れて来られた2500人というのが、丁度契約切れにより1年間でSFOを去るはずだった人数とほぼ同じだというのも何かを暗示している気がする。
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