エロゲで俺だけ選ばれない世界

ポテト男爵

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【第3章】誰もが俺を通過点にする件

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朝、世界はまた始まっていた。
……もちろん、ポテトにとっての“世界”とは、布団の中での寝汗の湿りと、干からびたカップ麺の匂いと、ポテスピのヤニで変色した壁紙のことだ。

「……結局、また戻ってきたわけ?」

ぼそりと独り言をこぼしながら、ポテトは布団から這い出した。昨日、白い光の中で交わされたあの言葉が、まだ脳の奥にこびりついていた。

『君が選ばれない限り、この世界は終わらない。終わらない物語は、すべての登場人物を壊す』

ポテトは笑う。

「壊すとか言って、俺が壊れるのが一番早そうなんだが?」

そう言いながら、制服のブレザーを羽織る。
高校時代から洗っていない。肩の綿はよれて潰れ、袖にはラーメンの汁染み。だが、ポテトにとっては**これが“戦闘服”**だった。

「今日こそ、何か起きる気がしてるんだよね……あーね、ガチで。」

ポテスピをくわえ、ライターの火をつける。
少し湿っていたのか、パチパチと火花が跳ねた。煙は異様に臭い。けれど、それが“いつもの朝”の味だった。

外に出て、通学路に出る。

通学中の学生たちがちらちらとポテトを見る。中には「まだいたの? あの人」なんて呟く者もいる。

「見ろよ、俺、注目されてる。これってさ、フラグ立ってるってことじゃん?」

誤解。完全に誤解。それでもポテトは確信していた。

学園裏門のほうへ歩く途中、ポテトは見つけてしまった。

ファイが、見知らぬ男と話しているのを。

制服が新しい。姿勢が正しい。顔も悪くない。
ポテトが“こういう奴に負けてきた”というテンプレ通りの存在。

ファイは、昨日の警告者としての無機質な顔とは違い、わずかに微笑んでいた。

「……またかよ」

ポテトは立ち止まる。

「お前、昨日あんだけ言って、今日これか? なに? 主人公差し替えられたの?」

喋っているのはポテトだけだ。
ファイもその男も、ポテトの存在には気づかないかのように、ゆっくりと校舎のほうへ歩いていく。

ポテトは静かに、だが確実に怒りの中で何かが煮えるのを感じた。

「俺がバグ? 世界を壊す存在? ふざけんなよ……選ばれねぇくせに、世界には干渉してんのかよ……」

だが、その怒りはどこにもぶつけられない。
ポテトは学園の敷地内に入ることすら許されない存在だった。

門の外。柵の向こう。誰にも呼ばれない領域で、彼は**“ただのノイズ”として立ち尽くしていた。**

けれど、それでも――

「通過点で終わるなら、逆に全員“迷子”にしてやるよ」

ポテスピを咥え直し、彼は煙を吐いた。

その煙が、物語の流れを少しだけ乱していくことに、彼だけが気づいていなかった。



ポテトは門の外からファイの背中を見ていた。

いや、“見張っていた”に近い。
彼の視線は、明らかに執着と不信の色で濁っていた。

「てか、俺の話、あいつらにしてない? 俺が世界壊すとか、バラしてない?」

近くにいた小学生が、汚れたブレザー姿のポテトを見て「やば……」と呟いて通り過ぎていった。
だがポテトは、そういう反応には慣れている。

むしろ、それすら「俺が異端って証拠」と都合よく変換するのが、ポテトだった。

「選ばれない俺を利用して、世界を進めてる? いや、都合よく使われてるってことだろ?」

ポテトは思い出す。

いつもそうだった。
女子に優しくすれば「お兄ちゃんみたい」と言われ、悩みを聞けば「頼れる」と言われる。
だが、最後には決まって「別の誰か」を好きになる。

踏み台。通過点。前菜。前座。トリガー。

そういう“役割”だけが与えられてきた。

「しらね……けど俺、エンドないなら始まりも終わらせねぇからな?」

ポテトは、学園のフェンス沿いをうろうろしながら、スマホを取り出した。

画面には「ポテトルート:開発中」のメモファイル。

彼はそこに、新しい一文を加えた。

「通過点には、通行止めって看板を立てるべきだ」

書いて自分で笑った。
だけど、それを否定する誰もいない。

そして、その足で駅前のパン屋へ向かう。

途中、また誰かのヒロインとすれ違う。
彼女の名前はカスミ。かつて、ポテトのギャンブル論を面白がって聞いてくれた子だった。今は大学生の彼氏と手をつないでいる。

「……やっぱ、俺の話って心には残るよな」

そう言って、彼女の視線が一瞬こっちを向いたような“気がして”、勝手に解釈する。

「な、俺を通った奴らはみんな幸せになってんだよ。ガチで。俺がそうさせてんの」

誤解、錯覚、妄想。

でもそれを“確信”に変えていくのが、ポテトの生き様だった。

世界からはみ出しながらも、自分が“中心”だと信じている。

だからこそ、彼は今日も門の外から誰かの物語を見張っている。

誰にも求められていないという現実だけが、煙のように立ち上っていた。


では、「第3章:誰もが俺を通過点にする件」のセクションMをお届けします。

午後、ポテトは学園の裏門近くにある空き地にいた。
誰も使っていないサッカーゴールと、壊れたバス停のベンチがぽつんとあるだけの場所。
学生たちはそこを「幽霊が出る」と噂して避けているが、ポテトにとっては“自分だけの特等席”だった。

「なぁ……俺がいない方が、世界回るって、マジ?」

ポテスピをくわえながら、風に吹かれて呟く。

近くのフェンスの向こうから、体育の授業らしき声が聞こえる。
笑い声。笛の音。運動靴の擦れる音。
すべてが、ポテトの世界とは**壁一枚を隔てた“異世界”**だった。

「でもよ……俺が見てるから、みんな成長してんじゃね?」

ポテトの思考は、いつも都合がいい。
自分が関与していないのに、あたかも“監督”か“指導者”のような視点で世界を見下ろす。

その時だった。

空き地の隅、雑草の生い茂ったあたりから、ファイが姿を現した。

「……またお前かよ。ストーカーか?」

「それ、君の台詞?」

ファイは相変わらず無表情だったが、声のトーンにほんのわずかだけ“人間らしさ”があった。

「君にアクセス不能状態を一時的に解除した。試す価値があると判断して」

「アクセスって……俺、ログインID扱いかよ」

「そんなようなもの」

ポテトは深く煙を吸い、鼻で笑った。

「で? 試すってなにを?」

ファイは黙って、壊れたベンチの隣に座る。

そして、ひと言。

「“選ばれなかった側”から、物語を作ること」

ポテトは顔をしかめた。

「は? もういいよそういうの。俺、主人公じゃねぇって話、何回すればいい?」

「違う。“物語を作る”って、主人公になるってことじゃない。“誰かの話”を、君が“止める”だけでいい」

「……止める?」

ファイは端末を取り出し、ポテトに画面を見せた。そこには複数のルートとキャラクターの動線が可視化された図が映っている。

「君が“通過点”として存在することで、みんな幸せになっているように見える。でも、それは本当?」

「何が言いたい?」

「“通過点”が拒否すれば、物語は進まない。つまり――」

「俺が通さなければ、ヒロインたちがエンディングにたどり着けない?」

ファイはうなずいた。

「君には、“全員を未エンドにする権利”がある」

ポテトの目が静かに細められる。

それは、復讐でもなく、正義でもない。
ただ――居場所を奪われた男の、最後の手段だった。

「なるほど。じゃあ俺、“通過点”じゃなくて“検問所”ってことか」

「君が開かない限り、誰も進めない。君はバグではない。“関所”だよ」

ポテトは笑った。

「正直言っていい? それ、めちゃくちゃ気分いいわ」

そして立ち上がり、ポテスピの灰を地面に落とした。

「じゃあ今日から俺、“全ルート閉鎖”でいくから」

その言葉に、風が一層強く吹いた。

何かが、確かに狂い始めていた。



翌朝、ポテトは珍しく“待っていた”。

学園裏門から少し離れた場所。通学路の途中、細い路地の角に腰を下ろしてポテスピをくわえていた。

視線の先には、いつもヒロインたちが“通っていく”ルート。
その中でも、今日通るはずの一人――カナミ。

かつて、ポテトが駅前のパチンコ屋で財布を落とした時、それを届けてくれた女子。あの時は笑っていた。ポテトはそれを“好意”と信じ、勝手に脳内でルート構築していた。

でも彼女は今、生徒会長の桐谷と付き合っている。

「あーね、今日で終わらせる」

ポテトはそう呟いた。

やがて、カナミが現れた。制服のスカートが風に揺れる。朝日の中で、まるでイベントCGのような登場。

だがその進行を、ポテトが遮った。

「おい、ちょっと待てって」

カナミは一瞬だけ驚いた顔をし、すぐに表情を曇らせる。

「あ……ポテトくん……また、ここに?」

「また、ってなんだよ。俺ここ住んでるんだけど?」

「いや、あの、別に……」

彼女の目線は明らかに困っていた。警戒もしていた。
かつて、ほんの少し優しくしてくれたその子が、今や完全にポテトを“警戒対象”として見ている。

「お前さ、俺に財布届けた時、何て言ったか覚えてる?」

「え……?」

「“こんな優しい人、初めて見た”って、言っただろ」

「え? ……あれ、そんなこと……言ったかな……」

「言ったんだよ。俺、録音してっからな。脳内で」

カナミは明らかに引いた。

「えっと、私、急いでるから……ごめんね!」

そう言って逃げようとしたその腕を――ポテトは、つかまなかった。

ただ、煙を吐いて言った。

「行けよ。別に止めねぇし。けどさ、俺が今ここにいたってこと……そっちのストーリー、ちゃんと乱れてるからな?」

その言葉に、カナミは何も言えず、数秒固まったあと、静かにその場を去っていった。

ポテトは立ち上がり、路地の壁にタバコの灰を擦りつけた。

「通過点? 上等。じゃあ俺、“検問所”に昇格したってことで」

その足で、次に“通りかかる予定のヒロイン”のルートへ向かう。

今日、全員止めてやる。

誰もが通るはずのルートを、ポテトはひとつずつ封鎖していくつもりだった。

“選ばれなかった男”の、歪んだ物語がいま、始まる。

日が沈む頃、ポテトは須田ヶ原駅のロータリーにいた。

駅前のバス停には、塾帰りの学生や、仕事帰りのOL、そして見覚えのあるヒロインたちがちらほらと立っている。

彼女たちの視線の先には、今日も“待ち合わせ相手”がいた。
誰かの恋人、誰かの兄、誰かのヒーロー。

そして――その輪の外に、煙をくゆらせるポテトが立っていた。

「お前ら、今日一日、俺を避けて正解だったと思ってんだろ?」

独り言を吐きながら、足元に落ちたポテスピの吸い殻を踏みつける。

「でもさ、正直言っていい? それって、俺の存在が気になってる証拠だよな?」

都合の良すぎる解釈。だが、それがポテトの生きる術だった。

彼は今日、ヒロインたちの“ルートの分岐点”にすべて顔を出した。

・カナミには「話しかけるな」という無言の圧を
・ナツキには「好きだった」と“過去形”の爆弾を
・マユミには「お前、今の男、仮じゃね?」という遠回しの呪いを

すべて、“彼女たちの選択”をぐらつかせることだけを目的とした行動。

選ばれないなら、誰の選択肢にも“影”を落とせばいい。

「選ばれねぇ男の唯一の武器は、“記憶”だよな……一度通った景色は、忘れねぇし、忘れさせねぇ」

その時、後ろから足音が近づいた。ファイだった。

彼女は何も言わず、隣に立った。

「何? 今日は観察しに来たの? それとも評価?」

「……観察。君の“存在の効力”がどこまで影響を与えるか、試してるだけ」

「は? じゃあ俺、モルモット?」

「違う。君は、“物語の止め方”を知らないから、延々とページをめくり続けてる読者」

ポテトはしばらく沈黙した。

ロータリーの向こうで、ひとりのヒロインが恋人と手を繋ぎながら笑っていた。
その姿に、ほんの少しだけ目を細めた。

「……俺がいたって、物語は進むじゃん。誰も壊れてねぇじゃん」

「いいや、壊れてるよ。“選ばれなかった者が、誰かを壊そうとし始めた”時点で、すでにバグは拡大してる」

「しらね。俺、選んでねぇし。止めただけ。俺を踏み台にしようとした奴らを、ちょっと転ばせただけ」

ファイは静かに呟いた。

「君の行動は、“存在を証明する唯一の方法”なんだね」

「ガチでそうだろ。俺がいたってこと、どっかに残らなきゃ意味ないじゃん」

駅の時計が20時を指す。

ポテトは、今日誰よりも“物語に干渉”した。
けれど、彼の名前を呼ぶ者は、一人もいなかった。

それでも彼は、笑った。

「ま、今日は全員通行止め。俺が鍵だから」

煙が夜風に消える。

選ばれない男は、今夜も誰かの物語の入り口で立ち続ける。

――次の選択肢が、誰かの“幸せ”を妨げるものであっても。
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