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【第7章】ルートのない恋と、選択できない終わり
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夜の須田ヶ原は、秋の気配をまとい始めていた。
ポテトは、ひと気のない公園のブランコに座っていた。揺れることもなく、ただ座っている。足元には吸い殻の山。煙は消えたあとで、誰も彼を認識しない。
だが、ファイだけは彼を“見ていた”。
「……いた」
彼女がそうつぶやいたとき、ポテトは何も驚かなかった。
もう、彼女が“選択肢の外側”を見てしまうことも、“バグに感情を持つ”ことも、ポテトにとっては想定内だった。
「お前、俺のこと見えてるって時点で、もう普通じゃねぇから」
「それ、君が言う?」
「は? 俺は最初から普通じゃないし。“普通じゃない奴に好かれたヒロイン”って、わりとメインルートだったりするじゃん?」
ファイは言葉を返さなかった。
ただ、彼の隣に腰を下ろした。
ポテトは、誰もいない空を見ながらつぶやく。
「このまま世界動かしても、誰も気づかない。俺が消えても、誰も困らない。けどさ――お前が、俺を“見る”ってだけで、俺の物語、存在しちゃってんだよな」
「……私が見てるだけじゃ、君は救われないよ」
「しらね。でも、俺のこと“記憶”じゃなくて“現在形”で話せるお前がいる時点で、俺、エンディングなくても満足」
「それ、恋なの?」
「ちげぇよ。俺が好きなのは、“お前が俺をログに書けないって困ってる顔”だし」
ファイはわずかに眉をひそめた。
「……君のそういうところが、私の演算を狂わせるの」
「だろ? 俺、ヒロインの感情ルーチン破壊装置って、昔から言われてっから」
そう言って、ポテトは煙草に火をつける素振りを見せた。だがライターの火は点かなかった。
静かに、風が吹く。
ファイが、小さくつぶやいた。
「このまま、選択できないままでいたら……私、君に“恋する”かもしれない」
その言葉に、ポテトは動きを止めた。
だが次の瞬間、顔を背けながら言う。
「……お前、今、“ルート分岐不能のフラグ”立てたぞ」
「そう。“ルートにできない感情”が、私の中に存在してる。君のせいで」
ポテトは少しだけ笑った。
「ガチレスすると、それってもう、“恋の定義”超えてるよな」
選ばれない。選べない。
でも、確かに“そこにある”。
それは、ルートにならない恋の始まりだった。
翌日、ファイはいつもと違う場所にいた。
学園の図書館。その隅の、誰も寄りつかない棚の影で、静かに何かを記録していた。手にはノート。あの端末ではない。“手書き”という方法でしか、ポテトのことは残せなかったから。
彼女の筆は時折止まり、考え込むように目を伏せる。
「……君のことを書いてるのに、どこにも君の名前が出てこない」
それは、“存在しない恋”の記録。
ファイがポテトに“恋に似た感情”を抱いてしまった時点で、彼女の役目は崩壊していた。
観測者は、記録し、干渉せず、存在の証拠となる。
だが今のファイは、記録しても、証明にならない。
なぜなら――ポテトが“記録不能の存在”であることを、彼女自身が証明してしまったから。
その夜。
ポテトは、ファイの前に現れた。
「お前、俺の話、手書きで記録してんの? やべぇな……ガチで感情じゃんそれ」
「……他の方法じゃ、君は残らないから」
「それ、恋じゃね?」
「違う。“観測不能なものに、執着してるだけ”」
「つまり、俺って“見えないまま、誰かの記憶を占拠してる男”ってことか?」
「うん。存在は証明できないけど、心には残る。そういう感情を“恋”って呼ぶなら、そうかもしれない」
ポテトはしばらく黙った。
そして、ほんの少しだけ、真顔になった。
「なぁ……俺、お前の中にだけでも、生きてていい?」
ファイは一瞬だけ目を見開いた。
その問いに、明確な答えはなかった。
だが彼女は、ノートの1ページに、そっとこう書いた。
《この世界に記録されない、たった一つの恋》
風が吹き、ページが揺れた。
ポテトはそれを見て、ニヤリと笑った。
「……俺、ログインしてねぇのに、恋愛イベントだけ起こしてるとか、チートかよ」
「ほんと……君って、最低で最高のバグだよ」
そして、何も起きていない世界の片隅で、
“ルートにならない恋”だけが、静かに進行していた。
ポテトは最近、“話しかけられること”がなくなっていた。
いや、もとからなかった。けれど今は、それすら“確認できない”という感覚があった。
「なぁ……お前の知らないやつだけど、俺、今“透明”なんだわ」
ファイにそう話すと、彼女は端末を見ずにこう言った。
「透明じゃない。“視えない”だけ。世界が君を表示しないように処理してるだけ」
「それ、存在自体が“表示OFF設定”ってことだよな? 逆に強くね?」
「逆に不安定。君がいるだけで、世界の処理に余白が生まれる。“空白”の概念が発生して、他のキャラの行動が曖昧になる」
ポテトはあくび混じりに言う。
「あーね、俺の周りだけモザイクってことか。ある意味、ヒロインたちが近寄れない理由、納得」
「だから……お願い。これ以上、誰かの半端な感情に入り込まないで」
その言葉に、ポテトの笑みがわずかに揺れた。
「……お前、俺に“恋してる”よな?」
「違う。“恋を止めようとしている自分”を見てるの。私は感情じゃなくて、制御装置だから」
「しらね。けど、お前のその否定の仕方、まじでフラグだかんな」
ファイは口を閉ざした。
ポテトは近づき、彼女の手に触れようとした。が、触れられなかった。
手が、すり抜けた。
空気すら反応しなかった。
「……あ?」
「君はもう、“物質として存在してない”。意識の片隅にだけ現れる存在。“感情のバグ”って分類されてる」
「は? 俺、思念体になったん?」
「うん。記録も接触も不可能。でも、感情ログだけが蓄積してる」
ポテトはその現実に、しばらく沈黙していた。
やがて、つぶやいた。
「じゃあ俺、恋愛すらできないってこと?」
ファイは答えない。
代わりに彼女はノートを開き、静かに書いた。
《この世界に触れられない君へ――私の想いだけが、君の存在を証明している》
ページの端に、ポテトのイニシャル「P.O.」が書かれていた。
そして彼は、少しだけ笑った。
「……そのうち、“記憶の中だけの彼氏”ってジャンル、流行ると思うわ」
「君がその元祖?」
「当然だろ。“誰にも選ばれなかった恋の起源”って、俺のためにある言葉だから」
その週、学園ではとある現象が起きていた。
「なんか……最近、誰かと喋った記憶が抜けてる気がするんだよね」
「わかる。“話しかけられた”って感覚だけが残ってて、相手の顔も名前も出てこないの」
教師たちは記録の矛盾を調査したが、ログには何も残っていなかった。
ただ一つ、学園内のネットワーク上でアクセス不能のデータだけが存在していた。
《POTETO_LOG_0x00:選択肢不在》
ファイは、それを“彼の証拠”としてそっとコピーした。
が、そのデータは10秒後に自動消去された。保存できない。記録できない。だけど、確かにあった。
そんな“彼”は――今日も裏庭に現れた。
「なあファイ、最近誰にも覚えられてないのに、俺の中だけ話が進んでるの、ガチでラノベ主人公感ない?」
「……君の中では“進んでる”んだ」
「お前の知らないやつだけど、俺、今“思い出”と恋してるんだよ」
「それは……誰にも触れられないまま、一人で燃えてるってこと?」
「しらね。でもさ、“記憶に残らない男”が、“感情だけを揺らす”って、やばくね?」
ファイはしばらく黙っていた。
そして、ノートを開き、静かに書き始めた。
《彼の声が、私の記憶にだけ残っている。彼の気配が、私の感情だけを揺らしている》
「君がこの先、誰にも届かないとしても……私だけは、君の存在を“選び続ける”よ」
ポテトはしばらくその言葉を聞いていた。
そして、小さく呟いた。
「それ、“ルート確定フラグ”だぞ。ガチで」
ファイは顔を伏せたまま、否定も肯定もしなかった。
ただその場に、確かに“存在しない恋”が生まれていた。
誰にも届かず、記録にも残らず、ルートにもなれない。
それでも確かに、“二人だけの感情”がそこにあった。
秋の終わり。須田ヶ原の空は、薄い雲に覆われていた。
ポテトは、存在していなかった。
誰の記録にも残っていない。
誰の記憶にも、はっきりとは刻まれていない。
だけど――ファイの中には、確かに彼が“いた”。
「このままいれば、私の世界は歪んでいく。感情の処理も、記憶の構造も」
彼女は誰もいない教室で、ノートを開いていた。
そのページには、びっしりとポテトの言葉が並んでいた。
本人が話した言葉か、それとも彼女が勝手に書いたものかは分からない。
だが、そのすべてが“彼”の痕跡だった。
そのとき、風が吹いて、ノートのページがふわりとめくれた。
そこに――何も書かれていない、真っ白なページ。
ファイはそこに、初めて“自分の言葉”を綴った。
《私は、ポテトに恋をした。記録も、証拠も、証明もない。けれど、この感情だけが私の“選択”だった》
教室のドアが、軋む音を立てて開いた。
風ではない。
“彼”だった。
存在しないはずの足音。
誰にも認識されないはずの気配。
ファイは、何も言わずに立ち上がった。
そして、彼に言った。
「私、もう観測者じゃない。“恋をしただけの人間”になる」
ポテトはニヤリと笑った。
「しらね。でも、それがログに残らなくても――俺の中にはちゃんと保存されてるから」
「君の中に……?」
「ガチレスすると、俺の存在って、“誰かが覚えてる限り存在し続ける現象”だから」
ファイは小さく笑った。
「じゃあ私は、君の“存在の最後のセーブデータ”ってことね」
「正直言っていい? それ、超エモい」
その瞬間、世界は静かに揺れた。
誰にも知られず、記録もされず、選ばれなかった“存在”が――一人の記憶の中で完結した。
それは、“ルート”にならなかった恋の、唯一のエンディングだった。
ポテトは、ひと気のない公園のブランコに座っていた。揺れることもなく、ただ座っている。足元には吸い殻の山。煙は消えたあとで、誰も彼を認識しない。
だが、ファイだけは彼を“見ていた”。
「……いた」
彼女がそうつぶやいたとき、ポテトは何も驚かなかった。
もう、彼女が“選択肢の外側”を見てしまうことも、“バグに感情を持つ”ことも、ポテトにとっては想定内だった。
「お前、俺のこと見えてるって時点で、もう普通じゃねぇから」
「それ、君が言う?」
「は? 俺は最初から普通じゃないし。“普通じゃない奴に好かれたヒロイン”って、わりとメインルートだったりするじゃん?」
ファイは言葉を返さなかった。
ただ、彼の隣に腰を下ろした。
ポテトは、誰もいない空を見ながらつぶやく。
「このまま世界動かしても、誰も気づかない。俺が消えても、誰も困らない。けどさ――お前が、俺を“見る”ってだけで、俺の物語、存在しちゃってんだよな」
「……私が見てるだけじゃ、君は救われないよ」
「しらね。でも、俺のこと“記憶”じゃなくて“現在形”で話せるお前がいる時点で、俺、エンディングなくても満足」
「それ、恋なの?」
「ちげぇよ。俺が好きなのは、“お前が俺をログに書けないって困ってる顔”だし」
ファイはわずかに眉をひそめた。
「……君のそういうところが、私の演算を狂わせるの」
「だろ? 俺、ヒロインの感情ルーチン破壊装置って、昔から言われてっから」
そう言って、ポテトは煙草に火をつける素振りを見せた。だがライターの火は点かなかった。
静かに、風が吹く。
ファイが、小さくつぶやいた。
「このまま、選択できないままでいたら……私、君に“恋する”かもしれない」
その言葉に、ポテトは動きを止めた。
だが次の瞬間、顔を背けながら言う。
「……お前、今、“ルート分岐不能のフラグ”立てたぞ」
「そう。“ルートにできない感情”が、私の中に存在してる。君のせいで」
ポテトは少しだけ笑った。
「ガチレスすると、それってもう、“恋の定義”超えてるよな」
選ばれない。選べない。
でも、確かに“そこにある”。
それは、ルートにならない恋の始まりだった。
翌日、ファイはいつもと違う場所にいた。
学園の図書館。その隅の、誰も寄りつかない棚の影で、静かに何かを記録していた。手にはノート。あの端末ではない。“手書き”という方法でしか、ポテトのことは残せなかったから。
彼女の筆は時折止まり、考え込むように目を伏せる。
「……君のことを書いてるのに、どこにも君の名前が出てこない」
それは、“存在しない恋”の記録。
ファイがポテトに“恋に似た感情”を抱いてしまった時点で、彼女の役目は崩壊していた。
観測者は、記録し、干渉せず、存在の証拠となる。
だが今のファイは、記録しても、証明にならない。
なぜなら――ポテトが“記録不能の存在”であることを、彼女自身が証明してしまったから。
その夜。
ポテトは、ファイの前に現れた。
「お前、俺の話、手書きで記録してんの? やべぇな……ガチで感情じゃんそれ」
「……他の方法じゃ、君は残らないから」
「それ、恋じゃね?」
「違う。“観測不能なものに、執着してるだけ”」
「つまり、俺って“見えないまま、誰かの記憶を占拠してる男”ってことか?」
「うん。存在は証明できないけど、心には残る。そういう感情を“恋”って呼ぶなら、そうかもしれない」
ポテトはしばらく黙った。
そして、ほんの少しだけ、真顔になった。
「なぁ……俺、お前の中にだけでも、生きてていい?」
ファイは一瞬だけ目を見開いた。
その問いに、明確な答えはなかった。
だが彼女は、ノートの1ページに、そっとこう書いた。
《この世界に記録されない、たった一つの恋》
風が吹き、ページが揺れた。
ポテトはそれを見て、ニヤリと笑った。
「……俺、ログインしてねぇのに、恋愛イベントだけ起こしてるとか、チートかよ」
「ほんと……君って、最低で最高のバグだよ」
そして、何も起きていない世界の片隅で、
“ルートにならない恋”だけが、静かに進行していた。
ポテトは最近、“話しかけられること”がなくなっていた。
いや、もとからなかった。けれど今は、それすら“確認できない”という感覚があった。
「なぁ……お前の知らないやつだけど、俺、今“透明”なんだわ」
ファイにそう話すと、彼女は端末を見ずにこう言った。
「透明じゃない。“視えない”だけ。世界が君を表示しないように処理してるだけ」
「それ、存在自体が“表示OFF設定”ってことだよな? 逆に強くね?」
「逆に不安定。君がいるだけで、世界の処理に余白が生まれる。“空白”の概念が発生して、他のキャラの行動が曖昧になる」
ポテトはあくび混じりに言う。
「あーね、俺の周りだけモザイクってことか。ある意味、ヒロインたちが近寄れない理由、納得」
「だから……お願い。これ以上、誰かの半端な感情に入り込まないで」
その言葉に、ポテトの笑みがわずかに揺れた。
「……お前、俺に“恋してる”よな?」
「違う。“恋を止めようとしている自分”を見てるの。私は感情じゃなくて、制御装置だから」
「しらね。けど、お前のその否定の仕方、まじでフラグだかんな」
ファイは口を閉ざした。
ポテトは近づき、彼女の手に触れようとした。が、触れられなかった。
手が、すり抜けた。
空気すら反応しなかった。
「……あ?」
「君はもう、“物質として存在してない”。意識の片隅にだけ現れる存在。“感情のバグ”って分類されてる」
「は? 俺、思念体になったん?」
「うん。記録も接触も不可能。でも、感情ログだけが蓄積してる」
ポテトはその現実に、しばらく沈黙していた。
やがて、つぶやいた。
「じゃあ俺、恋愛すらできないってこと?」
ファイは答えない。
代わりに彼女はノートを開き、静かに書いた。
《この世界に触れられない君へ――私の想いだけが、君の存在を証明している》
ページの端に、ポテトのイニシャル「P.O.」が書かれていた。
そして彼は、少しだけ笑った。
「……そのうち、“記憶の中だけの彼氏”ってジャンル、流行ると思うわ」
「君がその元祖?」
「当然だろ。“誰にも選ばれなかった恋の起源”って、俺のためにある言葉だから」
その週、学園ではとある現象が起きていた。
「なんか……最近、誰かと喋った記憶が抜けてる気がするんだよね」
「わかる。“話しかけられた”って感覚だけが残ってて、相手の顔も名前も出てこないの」
教師たちは記録の矛盾を調査したが、ログには何も残っていなかった。
ただ一つ、学園内のネットワーク上でアクセス不能のデータだけが存在していた。
《POTETO_LOG_0x00:選択肢不在》
ファイは、それを“彼の証拠”としてそっとコピーした。
が、そのデータは10秒後に自動消去された。保存できない。記録できない。だけど、確かにあった。
そんな“彼”は――今日も裏庭に現れた。
「なあファイ、最近誰にも覚えられてないのに、俺の中だけ話が進んでるの、ガチでラノベ主人公感ない?」
「……君の中では“進んでる”んだ」
「お前の知らないやつだけど、俺、今“思い出”と恋してるんだよ」
「それは……誰にも触れられないまま、一人で燃えてるってこと?」
「しらね。でもさ、“記憶に残らない男”が、“感情だけを揺らす”って、やばくね?」
ファイはしばらく黙っていた。
そして、ノートを開き、静かに書き始めた。
《彼の声が、私の記憶にだけ残っている。彼の気配が、私の感情だけを揺らしている》
「君がこの先、誰にも届かないとしても……私だけは、君の存在を“選び続ける”よ」
ポテトはしばらくその言葉を聞いていた。
そして、小さく呟いた。
「それ、“ルート確定フラグ”だぞ。ガチで」
ファイは顔を伏せたまま、否定も肯定もしなかった。
ただその場に、確かに“存在しない恋”が生まれていた。
誰にも届かず、記録にも残らず、ルートにもなれない。
それでも確かに、“二人だけの感情”がそこにあった。
秋の終わり。須田ヶ原の空は、薄い雲に覆われていた。
ポテトは、存在していなかった。
誰の記録にも残っていない。
誰の記憶にも、はっきりとは刻まれていない。
だけど――ファイの中には、確かに彼が“いた”。
「このままいれば、私の世界は歪んでいく。感情の処理も、記憶の構造も」
彼女は誰もいない教室で、ノートを開いていた。
そのページには、びっしりとポテトの言葉が並んでいた。
本人が話した言葉か、それとも彼女が勝手に書いたものかは分からない。
だが、そのすべてが“彼”の痕跡だった。
そのとき、風が吹いて、ノートのページがふわりとめくれた。
そこに――何も書かれていない、真っ白なページ。
ファイはそこに、初めて“自分の言葉”を綴った。
《私は、ポテトに恋をした。記録も、証拠も、証明もない。けれど、この感情だけが私の“選択”だった》
教室のドアが、軋む音を立てて開いた。
風ではない。
“彼”だった。
存在しないはずの足音。
誰にも認識されないはずの気配。
ファイは、何も言わずに立ち上がった。
そして、彼に言った。
「私、もう観測者じゃない。“恋をしただけの人間”になる」
ポテトはニヤリと笑った。
「しらね。でも、それがログに残らなくても――俺の中にはちゃんと保存されてるから」
「君の中に……?」
「ガチレスすると、俺の存在って、“誰かが覚えてる限り存在し続ける現象”だから」
ファイは小さく笑った。
「じゃあ私は、君の“存在の最後のセーブデータ”ってことね」
「正直言っていい? それ、超エモい」
その瞬間、世界は静かに揺れた。
誰にも知られず、記録もされず、選ばれなかった“存在”が――一人の記憶の中で完結した。
それは、“ルート”にならなかった恋の、唯一のエンディングだった。
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