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二章 誇れる自分である為に
5 浴びる注目
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呼び出された会場へ到着すると、入り口で待っていたのは今朝と同じようにブルーノ先生だった。
「よし、ちゃんと来たな」
「なんでこんな所で突っ立って待ってんすか?」
「そういう係を任されちゃったとか」
「ああ、なるほど。言っちまえば新参者みたいな感じだし、面倒な事押し付けられちゃった訳だ。なんかすみません」
「憶測で答えだして勝手に謝んなよ。自主的にやってんの自主的に。いやまあ全然関係無い所で早速雑用とか押し付けられてんだけど……」
……押し付けられてんだ。
そして軽く咳払いしてブルーノ先生は言う。
「本来こういう段取りとかって担任が組んでやらねえと駄目だと思うんだけど、まああのハゲはあの調子な訳で。だからこうしてお前らの前に出張って来てんの。今の所お前らは此処に来いとしか言われてねえだろ?」
「まあ事前に大体何するか先生から聞いてますけどね」
「そんな風に、手伝える事は手伝おうって感じだ。今回だけじゃねえ。なんか困った事が有ったら俺に言え。どうせあのハゲは何もしてくれねえだろうから」
それは心強い……心強いけど。
「先生はなんでそんなに俺達の味方してくれるんですか?」
この人は最初から一貫して会ったばかりの俺達の味方をしてくれているけど、それはなんというか……教師だとか大人の良識だとか、そういう範疇を超えている位に思える。
あの時だって、結構リスクの大きい事をやっていた訳で。
まあそう思えるのは、その基準となる教師があのハゲだからなのかもしれないけれど。
実際の所どうなのだろうか?
そしてその問いにブルーノ先生は答える。
「……明らかに不当な境遇押し付けられてる奴をちょっと贔屓してやろうって思うのは、そんなおかしい事か?」
「マジでそんだけなんですか?」
「マジでそんだけだよ。なんだ? もっとそれらしい理由が欲しいか?」
「……いや」
「ま、これを気にもっと大人というか……教師の事を信頼してくれればって思う」
そしてブルーノ先生は一拍空けてから言う。
「魔術学園っていう環境が結構歪なだけで、普通教師ってのは利害問わず生徒の為に頑張るもんなんだぜ? その一環だよこれも」
そう言ってブルーノ先生は此処で話は終わりという風に柏手を打つ。
「俺の事はもう良いだろ。今後好きなように利用してくれりゃ良い……そんな事よりさっさと行こうぜ。もう結構大勢の先生方が集まってる訳だからな」
「大勢って、そんなに見に来てるんですか?」
アイリスは少し驚いたようにそう言うが……そりゃ来るだろうってのは俺でも分かる。
結構な数の先生が来てもおかしくないだろ。
「此処の教師は皆教育者でありながらも、同時に魔術の研究者みてえなもんだ。例え専門外だとしても興味が湧かない奴なんていない。まだ少し時間はあるが、此処の教員のほぼ全員が集まると言っても過言じゃないと思う。なんなら噂聞いて駆け付けてる生徒も結構いるみてえだぞ」
いや……俺が思った以上に大勢だな。
でもそれだけ皆、アイリスに注目してくれているんだ。
それは本当に……本当に良かったって思うよ。
でも思ったよりは驚かない。
それだけ注目を浴びて当然だって思うんだ。
それだけアイリスは。
俺の友達は凄いんだから。
……しかしこれはミスれないな。
無茶苦茶責任重大じゃねえか……まあ、ミスる程難しい事はしないんだけど。
術式のコピーも、それを出力する事も、特別難しい事は無い。
この力は、俺程度の実力でもその辺を簡単に行える力だから。
……いや、駄目だな。
俺程度とか考えるな。
俺も凄いって、そう思うって決めただろ。
あんまり自分を卑下するような事を考えてたら、どこかでそれが表に出そうで。
それがアイリスの前ってのは避けたいし、とにかくそれは駄目だ。
「……」
まあアイリスが色々言ってくれる前よりは大分前向きにはなれたとは思うよ。
それでもまあ、場の雰囲気とか勢いってのは結構大きい訳で。
あの時は結構本気で自分の事を凄いって、前向きに考える事ができたんだけれども、それでもゆっくりと麻酔が切れていく様に。勝利の余韻が冷めていく様に。
気が付けば自己暗示の様に、現実逃避するように、半ば無理矢理自分の事を肯定しようとしている自分が居る。
折角凄いって言葉を掛けてくれたのに、耳を塞ぎたいようなあの連中やハゲから向けられた罵倒に同調しそうになる自分はまだ消えていない。
「ん? どうしたんだいユーリ君」
「あ、いや、何でもねえよ」
なんでもない。
そんな言葉をもうちょっと心から言えるように。
自分に自信が持てるように。
ちゃんとアイリスにとって自慢できる友達でいる為に。
もうちょっと、頑張って前を向いて行かねえと。
そう事を考えながら、俺はアイリスとブルーノ先生と共に試験会場へと足を踏み入れた。
「よし、ちゃんと来たな」
「なんでこんな所で突っ立って待ってんすか?」
「そういう係を任されちゃったとか」
「ああ、なるほど。言っちまえば新参者みたいな感じだし、面倒な事押し付けられちゃった訳だ。なんかすみません」
「憶測で答えだして勝手に謝んなよ。自主的にやってんの自主的に。いやまあ全然関係無い所で早速雑用とか押し付けられてんだけど……」
……押し付けられてんだ。
そして軽く咳払いしてブルーノ先生は言う。
「本来こういう段取りとかって担任が組んでやらねえと駄目だと思うんだけど、まああのハゲはあの調子な訳で。だからこうしてお前らの前に出張って来てんの。今の所お前らは此処に来いとしか言われてねえだろ?」
「まあ事前に大体何するか先生から聞いてますけどね」
「そんな風に、手伝える事は手伝おうって感じだ。今回だけじゃねえ。なんか困った事が有ったら俺に言え。どうせあのハゲは何もしてくれねえだろうから」
それは心強い……心強いけど。
「先生はなんでそんなに俺達の味方してくれるんですか?」
この人は最初から一貫して会ったばかりの俺達の味方をしてくれているけど、それはなんというか……教師だとか大人の良識だとか、そういう範疇を超えている位に思える。
あの時だって、結構リスクの大きい事をやっていた訳で。
まあそう思えるのは、その基準となる教師があのハゲだからなのかもしれないけれど。
実際の所どうなのだろうか?
そしてその問いにブルーノ先生は答える。
「……明らかに不当な境遇押し付けられてる奴をちょっと贔屓してやろうって思うのは、そんなおかしい事か?」
「マジでそんだけなんですか?」
「マジでそんだけだよ。なんだ? もっとそれらしい理由が欲しいか?」
「……いや」
「ま、これを気にもっと大人というか……教師の事を信頼してくれればって思う」
そしてブルーノ先生は一拍空けてから言う。
「魔術学園っていう環境が結構歪なだけで、普通教師ってのは利害問わず生徒の為に頑張るもんなんだぜ? その一環だよこれも」
そう言ってブルーノ先生は此処で話は終わりという風に柏手を打つ。
「俺の事はもう良いだろ。今後好きなように利用してくれりゃ良い……そんな事よりさっさと行こうぜ。もう結構大勢の先生方が集まってる訳だからな」
「大勢って、そんなに見に来てるんですか?」
アイリスは少し驚いたようにそう言うが……そりゃ来るだろうってのは俺でも分かる。
結構な数の先生が来てもおかしくないだろ。
「此処の教師は皆教育者でありながらも、同時に魔術の研究者みてえなもんだ。例え専門外だとしても興味が湧かない奴なんていない。まだ少し時間はあるが、此処の教員のほぼ全員が集まると言っても過言じゃないと思う。なんなら噂聞いて駆け付けてる生徒も結構いるみてえだぞ」
いや……俺が思った以上に大勢だな。
でもそれだけ皆、アイリスに注目してくれているんだ。
それは本当に……本当に良かったって思うよ。
でも思ったよりは驚かない。
それだけ注目を浴びて当然だって思うんだ。
それだけアイリスは。
俺の友達は凄いんだから。
……しかしこれはミスれないな。
無茶苦茶責任重大じゃねえか……まあ、ミスる程難しい事はしないんだけど。
術式のコピーも、それを出力する事も、特別難しい事は無い。
この力は、俺程度の実力でもその辺を簡単に行える力だから。
……いや、駄目だな。
俺程度とか考えるな。
俺も凄いって、そう思うって決めただろ。
あんまり自分を卑下するような事を考えてたら、どこかでそれが表に出そうで。
それがアイリスの前ってのは避けたいし、とにかくそれは駄目だ。
「……」
まあアイリスが色々言ってくれる前よりは大分前向きにはなれたとは思うよ。
それでもまあ、場の雰囲気とか勢いってのは結構大きい訳で。
あの時は結構本気で自分の事を凄いって、前向きに考える事ができたんだけれども、それでもゆっくりと麻酔が切れていく様に。勝利の余韻が冷めていく様に。
気が付けば自己暗示の様に、現実逃避するように、半ば無理矢理自分の事を肯定しようとしている自分が居る。
折角凄いって言葉を掛けてくれたのに、耳を塞ぎたいようなあの連中やハゲから向けられた罵倒に同調しそうになる自分はまだ消えていない。
「ん? どうしたんだいユーリ君」
「あ、いや、何でもねえよ」
なんでもない。
そんな言葉をもうちょっと心から言えるように。
自分に自信が持てるように。
ちゃんとアイリスにとって自慢できる友達でいる為に。
もうちょっと、頑張って前を向いて行かねえと。
そう事を考えながら、俺はアイリスとブルーノ先生と共に試験会場へと足を踏み入れた。
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