劣化の最強魔術師 ~学園最弱の魔術師がゴミスキル『劣化コピー』で人知を超えた魔術をコピーした結果~

山外大河

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二章 誇れる自分である為に

9 承認欲求の塊

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 結局、部屋に帰ってからはここ最近の授業の復習をしていた。

 予習はしない。
 これまで辿ってきた範囲に大量の取りこぼしがある中で、先の事にまで目を向けられる程の余裕は俺には無いからな。

 今までやって来た事を少しでもまともな形にする。
 不完全の域をでなくても、それでも。

 そういう事をやっていると、自然と言葉が零れ出す。

「こんな事を繰り替えし続けた結果が……劣化コピーの力か」

 アイリスの凄さを証明してやる事ができて。
 アイリスの術式をコピーして持っていれば、俺が将来やりたい事だってできる気がして。
 結構な活躍だってできる気がして。

 だからこの固有魔術は十二分に俺の人生に彩りを与えてくれている。

 今だって。
 これからも、立ち塞がった障害を破壊してくれる。

 それでもそこには一切、魔術師としての自分が関わってこない。

 全部全部、他力本願な力だ。
 そこから出力される強くて強大な力に自分がいない。

 もし……もしもだ。
 俺がもう少し違う生き方をしていたら、俺にはどんな力が刻まれていたのだろうか。

 自分に自信が持てるような何かが、刻まれていたのだろうか?

 駄目だ考えるな。今までやって来た事まで否定し始めたらいよいよ立ち直れなくなる。

「……自信、か」

 図らずしも脳裏にチラついた言葉を復唱する。
 自分に自信が持てるような何か。
 今後うまく物事を進めていけそうな今宿っている力じゃなくて。きっと……もっと純粋に、魔術師として誇れる力。

 魔術師として凄いと言って貰えるような力。

「……参ったな」

 薄々どころか勘づいてはいたけれど、結構面倒くさい自分が居る。

『すげえ魔術師になろうと思うな。魔術師としての評価なんて平々凡々でも良いんだよお前の場合』

 そんな言葉に納得して、それを事実としても受け止められて。
 そんな物は最低限あればいいなんて事を否定せず受け入れられて。

 だけどそれはそれとして。
 それはそれとして、魔術師として真っ当に評価されたい。

 これまでの人生の中で魔術に触れ始めてからずっと否定されてきた魔術師としての自分を認めて欲しい。
 せめて……自分だけでもそういう自分を凄いって思えるようになりたい。

 そんな承認欲求が……思ってたより、ずっと強いみたいだ。

 なまじ前に進む為に力だけを手にしてしまったから……今まで自分でも見えにくかった置き去りにされた部分が、剥き出しになって視線を外せない。

「……先、帰ってきてよかったな」

 アイリスはほんと優しい奴だから、多分こんな姿を見せたら心配してくれると思うから。

 極力外にこんな感情が漏れないように、ゆっくり。
 ゆっくり深呼吸して落ち着いて、自分の中にそういうのを押し込める為の時間が、結構長めに必要になるから。

 まあでもほんと、俺の隣に居たのが。
 俺の隣で頑張ってたのがアイリスで良かったよ。

 多分アイリスじゃなきゃ普通に嫉妬してた。
 アイリスじゃなきゃ素直に応援できなかったかもしれない。

 だから……アイリスで良かった。
 これだけは流石にブレない。

 そりゃ自分との差を見せつけられてしんどいけどさ。
 相対的に自分の無能さが浮き彫りになって、最初は自分から提案してやり始めた事なのにしんどくなるけどさ。

 それでもアイリスの事は素直に応援できる。
 もっともっと高みへと昇って行って欲しい。

 いくらでも協力するよ、アイツの為なら。
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