劣化の最強魔術師 ~学園最弱の魔術師がゴミスキル『劣化コピー』で人知を超えた魔術をコピーした結果~

山外大河

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二章 誇れる自分である為に

8 その溝は底なし沼のように

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 全部が終わった後、アイリスが簡単に解放されたかと言われればそうじゃない。

 改めて山の様な質問攻めが待っている。

 大勢の優秀な教師達がアイリスに注目してなだれ込んでいるような、そんな状態だ。

 ……すげえよ。
 友人としてそういう扱いを受けているのを見るのは誇らしい。

 ……で、俺はというと完全フリーだ。
 というのも、燃費度外視でやれる事を言われるがままにやり続けた結果、魔力が枯渇してしまった感じ。
 もうスッカラカンだ。

 そうなったら、まあ俺に用がある奴なんていないだろ。

 ……そんな訳で、俺は一人で帰路に付く事にした。

 一応アイリスに終わるまで待ってるかと聞いたものの、いつまで掛かるか分からないからというのと、何故か先に帰って少し休んだ方が良いって強く言われたのもあって……今回はお言葉に甘えてそうさせてもらう事にした。
 魔力無くなる程魔術使い続けて死ぬ程疲れてるしな。

 ……疲れてるのはそういう理由だろう。
 知らんけど。

 正直アイリスが心配ではあるんだけど、アイリスは今良い意味で注目されているんだ。

 別に変な事にはならないだろうし、それにあそこにはブルーノ先生も居る。

 あの人は一歩引いた所から物事を見ているようで冷静だ。
 変な事があってもこの前の追試の時みたいに何とかしてくれるだろう。その辺は信頼している。

 だから俺は帰る。
 なんか、ほんとしんどいしな。

 ……でも帰ってどうしようか。
 休むつもりでアイリスと別れたけど……このまま休むってのはなんか違うか。
 ……座学だけでも良い。復習をしていこう。

 少しでも凄い魔術師になる為に。
 認められるような……。

「……」

 軽く、片手で頭を抱える……そんな狭い範囲の評価はどうでも良い筈だろ。

 あの話聞いて納得した筈だろ。
 あれから然程時間も経ってねえのに何考えてんだよ俺は。

「……やっぱ疲れてんのか」

 駄目だこれは良くない奴だ。

 帰って、しばらく眠ろう。

 それでいい。


 それがいい……いいのかそれで?


 ただでさえ劣っている無能な自分がそんな勿体ない時間の使い方をしても。

「……ッ」

 そんな風に、どこか思考がぐちゃぐちゃになっていた所で。

「ユーリ」

「……兄貴」

 待っていたとばかりに兄貴がそこに立っていた。

 なんだ……見に来てたのか。

 ……まあ一度追試の時にアイリスの術式を見てただろうけど、あれで全部ではない訳で。

 そりゃ気になるよな、兄貴なら……まあそれは分かるよ。

 でも、じゃあなんでコイツは俺の前に立ってんだ?

 なんだ? まさかまた人を罵倒するネタでも見付けて来たか?

 ああそうか、ついさっきご提供されてるよな。

 めんどくせえ……最悪な奴と最悪なタイミングで会っちまった。

「また……飽きずに罵倒でもしに来たのかよ」 

「…………いや」

 兄貴は何故か言葉を詰まらせた後、静かにそう言う。

「じゃあ何の用だよ」

「……」

 俺の問いに兄貴は中々答えようとしない。難しい顔して、ただただ黙り込んでいるだけ。

 ……そんな兄貴に痺れを切らしかけたタイミングで、ようやく兄貴が口を開く。

「良かったら……メシでもどうだ」

「いや先約あるから」

 即答で断った。今日はアイリスがカレー作ってるみたいだし、普通にそれが楽しみだからパス。それに、例えそうじゃなくてもだ。

「じゃあ後日でも──」

「何で兄貴と飯食わねえといけねえんだよ……どうせ碌でもねえ事考えてんだろ。いつだって嫌だよ俺は」

 コイツと飯食うとか、そういう事を進んでやる訳ねえだろ。

 今こうして視界に入れてるだけでも不快なんだよこっちは。

 そして歩き出す。
 寝るか復習するか、どちらをやるにしても兄貴と喋ってるより有意義な時間だ。
 これ程無駄な時間は無い。

 そして歩き出して、なんか立ち尽くしてる兄貴に言う。

「邪魔」

「……」

 俺がそう言うと、ようやく道を譲ってくる。
 そんな兄貴を横切ると、すぐに背後から声が掛けられる。

「ユーリ」

「なんだよ」

 振り返って俺がそう言うと、兄貴はまた暫く黙り込んでから言う。

「……いや、なんでもねえ」

「じゃあ話し掛けんな」

 それだけ告げて再び歩き出す。

 結局兄貴が何をしたかったのかは知らない。
 なんか今日は普段よりも大人しくて、それが余計に気味悪くて。
 一体なに考えてんだかが本当に分からない。

 ……まあどうでもいいんだけど。とにかくこれ以上俺に関わらないで欲しい。

 ほんと……頼むから。
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