仲の良い幼馴染の兄弟が姉妹だった話

山外大河

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一章 男だと思っていた親友が女の子だった話

7 知っている事、知らない事 上

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 一本逃すと致命傷を負う地方の電車な訳だけど、それ即ち利用客が少ないという事で、偶にニュースで見る都会の満員電車のようなこの世の終わりみたいな光景に遭遇する事は基本無い。
 だから普通に席は確保できたし、周囲に人も少ない。
 ……話の続きをする為に必要な環境無事確保だ。マジで助かる。

「あ、ところで明人」

 隣に座った渚が口を開く。

「電車乗ったら続きって話してたけど、先に少し話脱線させて良いかな。ちょっと忘れない内にというかこれからバタバタして話せないかもしれないから今の内にしておきたい話があって」

「ん? まあいいけど。どしたよ急に」

 別に俺達の時間は今しかない訳じゃなくて、学校に着いてからも放課後も、お互いに作る意思さえあればいくらでも作れる訳で。
 何か大事な話があるのなら全然そちらを優先して貰っても良いと思う。
 こっちが一つ聞いた後だから、次は渚の番って意味でも。
 そして渚は言う。

「確かウチの高校って学食有ったよね」

「脱線の勢いが凄いや。大事故じゃん」

 全然大事な話じゃ無さそうなんだけど。
 いやまあ良いんだけどね。
 それどころか高校入学初日の通学中なのだから、これから三年間通う高校の話をする方があまりにも自然な流れな気がする。
 少なくともこれまでの話が自然か不自然かといえば、根本的に不自然だからな。

「で、学食? あるな。聞いた話だと安い割に旨いらしいじゃん」

 大変助かる話だ。マジで助かる話だ。

「基本的に購買でパンとか買うか学食かって感じで昼を済ませて行く予定だったし、その選択肢の一つがうまいってのはマジでありがたいよな」

「そんな明人に第三の選択肢を与えてあげようか?」

「第三?」

「私は基本自分でお弁当を作っていく予定だけど……一人分作るのも二人分作るのもそんなに手間変わらないんだよね。どうよ、そんな第三の選択肢」

「マジで……!?」

「マジマジ。さっき小匙一杯だの隠し味だの言ってた時に、そういえばこの話しようって考えてたの思い出して。まあ材料費は貰うけど、それでも学食とかよりも安く済むし……味の方にも自信があります」

 腕を組み自身有り気にそう言う渚だが、味に自信云々は事実だろう。
 というか断言できるけど事実だ。
 何せ渚の趣味は料理である。実際何度か食べた事が有るが滅茶苦茶うまい。
 少なくとも昨日まではその事について、男なのに料理が趣味とか珍しいなと思ってたり、でも最近はそういうので男が女がと言わない方がいいって考えたり、あとどこかで料理ができる男はモテるみたいな事を聞いた上で渚が実際モテてたのでチャレンジを画策していたりとしていた訳だが……今となっては腑に落ちる。
 いやまあそれこそ男が女がって括る話でも無いんだろうけどさ、それでもやっぱり女の子らしい趣味だなって腑に落ちる訳だ。

「で、どうかな?」

「是非ともお願いします」

 とりあえずその事に関しては断る理由が無かったのでお願いした。
 金銭的にも美味しい物を食べられるって意味でも……後は作って貰えるという優越感的な意味でも、本当に拒む理由が無い。
 滅茶苦茶嬉しい。
 やったぜ。

「よし、じゃあ明日からしよう。そうしよう」

 そう言って気合を入れるように胸元で拳を握る渚。

「任せてよ。マジで美味しいの作るから」

 そんな、笑顔の渚を見て思う。
 ……女らしさ、か。
 当然の事ながら、そうやって腑に落ちた部分以外、俺は渚の女の子らしい部分をしらない。
 それどころか、逆にこれまでの九年間で男として見せてきた姿の一体どの程度を、秋瀬渚らしい言動だったと思って良いのかが分からない。
 どこまでが姿と口調を男っぽくしていただけの本物だったのか、合わせていただけの偽物だったのか。

 ……見当が付かない。

 そういう意味では、良く分かっているつもりの渚の事を、やはり現時点で何も分かっていないのだと思う。
 家の前での諸々の出来事がドッキリではないと判断できたように確信を持って判断できるような事もあるけれど、それでもきっと俺の認識が大きくズレているような事もある筈で。
 おそらく理解しているつもりでしかない部分が山のようにある。
 そんな調子だからこそ、分からない訳だ。

 そしてこんな事は、これから先に色々と聞いていける事とは違って軽々しく確認できない。
 だから今の所は自問自答で、答えを導き出すしかないだろう。

 果たして。

 秋瀬渚という親友は。
 秋瀬渚という女の子は。
 俺の事をどういう風に見ているのだろうか?
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