仲の良い幼馴染の兄弟が姉妹だった話

山外大河

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一章 男だと思っていた親友が女の子だった話

14 外野から見た私達について

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 明人とマコっちゃんがお手洗いに行っている間、渚は橋本と二人になった。

(……考えてみれば橋本さんの場合、明人達とは逆パターンか)

 明人やマコっちゃんからすれば、同性だと思っていた相手が異性だったという話な訳だが、橋本からすれば異性だと思っていた相手が同性だったという事になる。
 その辺りで受け取り方は違うのだろうか?
 そんな事を考えていると、橋本が言う。

「しかし、変な事を言うようですが……どこからどう見ても女の子ですね」

「正真正銘女だからね私。まだ男に見えてたらちょっと困るよ」

「どうであれ、ずっと立派に女の子だった訳です」

 そして橋本は一拍空けてから、どこか懐かしむように言う。

「つまり私の初恋の相手は女の子だったって事なんですよね」

「ん……えぇッ!?」

 思わず変な声が出てしまう。

「いや、あの、橋本さん、それってどういう……」

「言葉の通りですよ。もっとも勝手に初めて勝手に終わった程度の物でしたが……とにかく驚く様な話じゃありません。そんな子はきっと他にも沢山います。何せ渚ちゃん……というより秋瀬君は女の子からすればアイドルみたいな存在でしたからね。現実でそんな事あるんだって、今振り返ってもびっくりです」

 それに、と橋本さんはどこか鋭い口調で言う。

「秋瀬君は驚いちゃいけない。きっと狙ってやった結果でしょう?」

「え、あ……うん…………まあ、多少は」

 段々と橋本が何を言いたいのかが理解できてきて、罪悪感に背を押されるように呟いた。

「……女子の注目を、少しでも私に集めたかったんだ」

「女の子の注目が楠君に向かないように?」

 核心を突かれる。
 それをした事で何かが変わったのかどうかは分からないけど、とにかくそれしかできる事が無かったからやっていた、そんな事を。 
 楓にしか気付かれなかった、そんな事を。
 自分が親友の事をどう見ているのかまで一緒に纏めて。

「……そこまで分かるんだ。凄いね、橋本さん」

「分かったから、私の初恋は終わったんです」

「分かったからって……昨日までの時点じゃ男と男じゃん」

「そういうのを頭ごなしに否定するような時代ではないでしょう? 私も理解ある方だと思ってます」

「……」

「もっとも蓋を開けてみれば私は普通に男女の色恋に負けた事になるんですけどね。性別を偽ってたり、学校中にファンがいるみたいな漫画みたいな事になってたりと、非現実的な事ばかり目立ちますが、そんな所はとても現実的だったようで」

「ごめんね、なんか色々と……じゃないや。えっと…………ごめんなさい」

 橋本に指摘されたように、自分はこれから同性として振る舞う相手から向けられていた好意に驚いてはいけない。
 そういう人が出る事を分かっていてやった事なのだから。
 そしてそれが分かるなら、ちゃんと謝っておかなければならない。
 目的が捻じ曲がってしまってはいるが、あえて人の気持ちを弄ぶような真似をしていたのは間違いないのだから。
 そして橋本は言う。

「いえいえ私は良いんです。勝手に初めて勝手に終わって。そして今は康太が居ます。だから……渚ちゃんに引きずって貰うような事じゃありません。そもそもの境遇自体も考慮すると尚更です」
 ただ、と橋本は言う。

「そうは思えない人も居るかもしれません。多分そう遠くない内に中学校で一緒だった皆さんも渚ちゃんの今の事を知るでしょうから。そういう人が渚ちゃんの前に現れるかもしれません」

「うん、そだね。あるかもしれない」

「その時はちゃんと逃げずに向き合って……必要なら謝ってください。これは秋瀬君を見ていた一人からのお願いで……渚ちゃんと改めて関わっていこうと考えているクラスメイトからのアドバイスです」

 そして橋本は笑みを浮かべて言う。

「勿論相談はいくらでも受けますから」

「……ありがとう、橋本さん」

 それを聞いて、改めて思う。
 多分自分は恵まれている。
 明人もマコっちゃんも今の自分の事を受け入れてくれていて、橋本も二人とは前提条件が違うのにこういう事を言ってくれている。
 自分で言うのも酷い話だがこの滅茶苦茶な境遇の自分を、変にトラブルが起きる事無く受け入れてくれる人が回りに居たというのは本当に恵まれている。
 感謝だ、本当に。
 そう考えていると橋本が聞いて来る。

「で、それはそれとして楠君とは今どんな感じなのですか?」

 話題も心を切り替えたように、凄く目をキラキラさせて。

「今どんな感じって……私が女だっていう事を明人に伝えてから一時間も経ってないんだけど」

「それでも私達が本当の意味でこれまで通りとなっていないように、何か変化は有ったんじゃ無いですか? 例えば……向けられる視線の一つや二つ位は変わったんじゃないですか?」

「え……うん、まあそうだね」

 自分も鈍感であるつもりは無いから。
 少なくとも明人に対しては鈍感でいるつもりは無いから、分かってる。

「ちゃんと女の子として見て貰えている事は分かったし……まあ、そういう視線を向けられてもいるなってのも分かった」

 そういう視線。
 例えば好きでもない人に向けられたのであれば、あまり気分の良い物では無いのかもしれないけれど、明人になら別にいい。
 そういう視線。

「なら脈ありじゃないですか。良かったですね。こういうのって漫画とかだと今までずっと親友的な意味で距離感近かったから、いざ女ってカミングアウトしても関係性が変わらないってパターンも有りますし」

「脈あり……か。どうだろうね」

「……?」

 実を言うと正直その辺に自信は無い。

「私ずっと男に混ざって色々雑談とかしてきた訳じゃん。だったら分かる訳だよ。思春期の男子ってこう……頭の中がこう……煩悩というか、エッチな事しか詰まって無いんだよ」

「それはちょっと言い過ぎな気もしますが……」

「そんな事ないよ。明人だってそうだし。ほら、マコっちゃんだって……」

「康太はそんな全身エッチ人間みたいな人じゃないです」

 ……鋭い目線と声音でそう言われた。
 あと流石にマコっちゃんがそんなとんでもない事になっている想定はこっちもしていない。

「ご、ごめん。エッチな事しか詰まってないは言い過ぎた……ていうか明人もそんなんじゃないし……」

 少なくとも全身エッチ人間ではない。
 なんだ全身エッチ人間って。

「まあどうであれ適度にって感じでしょう。それがどうかしました?」

「いや、例えば男子がエッチな本とか見てうおおおおおおおおってなってたとしても、それは別にそれに対して興奮してるってだけで、別にその人の事を好きって訳じゃ無いじゃん」

「まあ……そうですね。多分」

「それと同じだよ」

 そう、同じ。

「私の事をそういう見てくれても、それが私だからかどうかは分からない」

 自分の事を恋人にしたいだとか、そういう意味で脈があるのかどうかは分からない。

「……お二人の距離感を見た感じ、全然行けると思うんですけどね」

「ま、私達は親友だから。それは変わって無いし……端から見ても、私から見ても男女の距離感ってのが図りにくくなってるんだよ」

「……」

「……明人からは、なんとも思われていないかもしれない」

 だからこそ。

「だからこそ慎重にならないと。勢い余って攻め過ぎたら……なんか今の関係も壊れちゃうかもしれないし」

 少なくとも、今朝いきなりやった事みたいなのは絶対に駄目だ。
 下手すると痴女だと思われる。
 これから、無い脈をゆっくり繋いでいくようなつもりでいかないと……。

(……あれ? 現在進行形で痴女だって思われて無いよね……んん!?)

「……元から距離が近すぎるってのも問題ですね。前途多難です」

 隣で橋本が面倒くさそうに小さく溜息を吐いた時だった。
 二人が戻ってきたのは。
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