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二章 ごく当たり前の日常を掴む為に
31 とても不毛で醜い攻防
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「ごめん! マジで失敗だった! 悪気は無かったんだ信じてくれ!」
とにかく無理があるが全力の謝罪だけはしておく事にした。
「悪気は無いって……でも悪意以外になんかあったんじゃないっすか? やらしい気とか……ほら、自分で言うのもなんすけど、……私、結構かわいいと思うっすから」
「いやほんとそういうのでもなくマジで何もねえんだ! 正確に言えばクローゼットに何もなかった! 悪意も無ければ服も無かった! それでなんかこう……それサイズデカイからなんか行けるんじゃないかって! 結局余計アレな感じになったけど、別にそういう変な気があったわけじゃねえんだ!」
「この流れで完全否定されたらそれはそれでっすよ!」
「というかなんでそんな恰好で普通に出てきちゃったんですか!」
「んーまあ、ノリと勢いっすかね?」
「いや、勢いはあんまりなかった気がするんですけど!」
「うるせえぞ隣ィ!」
突然ドンという音と共にお隣さんが壁越しに介入してくる。
「「「す、すみません!」」」
と、最後に三人揃ってそう言った所で、一旦部屋の中が静まり返った。
そしてそんな状況で真っ先に再び動きだしたのはアリサだった。
「……と、とにかくクルージさんは見ちゃ駄目です」
「うわ、ちょ、アリサ!」
アリサが俺の背後に回ったかと思うと、突然目元が何かに包まれて視界が奪われる。
これ、タオルか?
「……よし、とりあえずこれで一安心ですかね」
「ナイスっすアリサちゃん」
……うん、まあナイスなんじゃないかな。
とりあえず俺の視界を潰せば、一応落ち着く状況な気がするし。
……気がするだけかもしれないけれど。
「えーっと、クルージさん。別に信用してない訳じゃないですけど、一応クローゼットの中拝見しますね」
「お、おう」
「えーっと……ほんとだ、それらしい物ないですね」
「ガチのマジで何も入ってないっすね」
「……まあそんな感じ。雨で洗濯物取り込んでなかったりとか色々あってな。気付くのが遅かったんだ」
「……まあ確かにそうみたいっすね。でもちょっと待つっすよ。先輩はしれっと着替えてるんすよね」
「いや、これ履いた辺りで気付いてさ」
「……なるほど。でもあれっすよね。男の人がパン一になってもさほど問題はないっすよね」
……なんだかとても嫌な予感がした。
「先輩、それ貸してください」
ほら来やがった!
俺がとりあえず慌てて両手でジャージを掴んだその瞬間、目隠ししてるから良く分からねえけど多分リーナに押し倒された。
そしてなんかジャージが引っ張られる感覚! これ完全に追剥ぎ!
「おい馬鹿止めろ! つーかヤバイって! 絵面がヤベエって!」
目隠しされてる男の服を半裸? な女の子が剥いでるってこれもう無茶苦茶アレな雰囲気しかしねえぞ!
「そのヤバイ絵面を少しでもマシにする為の常套手段じゃないっすか」
「クソ……ッ! おいアリサ! 助けてくれ!」
「えーっと……どっちをですか?」
「俺をだよ!」
「へいアリサちゃん。手ぇ貸してほしいっすよ」
「あ、え、これ、どうすれば……」
どうやらアリサは困惑しているようだ。
……マズイぞ。アリサに介入されたら戦況が一気に傾く。
それは回避しなければならない。というかこの醜い争いを止めなければならない!
そう思って俺は半ばヤケクソ気味に言う。
「いいかお前ら! よく聞けよ! 大変な事になるぞ! それ下ろしたら取り返しの付かない大変な事になるぞ!」
「またまたそんな事言ってぇ」
駄目だこの馬鹿聞く耳持たねえ!
「だからうるせえっつってんだろ隣ィ!」
「「「すみません!」」」
結果的に止まった。
お隣さんが止めてくれた。お隣さんすげえ。
……さて、そうしたお隣さんの介入でヒートアップしていた俺達は一旦冷静になる。
冷静になった所で、ようやく冷静な会話が紡がれる。
「……大変な事ってなんすか?」
「……色々あってこの下何も履いてねえ」
「……なんかすんません」
「……いや、全ての元凶俺だし。ほんとごめん」
もうその頃にはズボンを引っ張る力はなくなっていた。
……なにはともあれ無事危機は去ったようだった。
状況は何も変わっていないけれど。俺の視界を取り戻すのはまだ先だ。
とりあえず軽く息を付きながら体を起こす。
うん、前見えねえ。どっちテーブルだっけ?
大丈夫? 置いてある飲みかけのコーヒー零したりしない?
と、そんな風にあたふたしている所で、アリサのクスリという笑い声が聞こえた。
「どうした? なんか笑うとこあった? 俺前見えなくて今の部屋の状態何も分かんねえんだけど」
「その姿であたふたする先輩じゃないっすか。中々面白く仕上がってるっすよ」
「あ、いや、そういう事じゃ無くてですね……」
そしてアリサは一拍空けてから言う。
「なんだか賑やかでいいなぁって」
「……」
その言葉で色々と察したよ。
多分さ、あまりこうワイワイした様な雰囲気をアリサは経験していないのだと思う。
そうする相手が居なかったから。故にそうする機会を得られなかったのだろう。
「……先輩」
「……ああ」
リーナに先程までとは一転落ち着いた声で呼ばれて、なんとなく考えが伝わってきてそう返した。
きっとリーナも同じ事を考えている筈だ。
考えていたとすれば、俺達はそんなアリサを見て。声を聞いて。こう思った。
……次からはもっと綺麗な盛り上がり方をしよう。
なんかこう……色々とあんまりである。
とにかく無理があるが全力の謝罪だけはしておく事にした。
「悪気は無いって……でも悪意以外になんかあったんじゃないっすか? やらしい気とか……ほら、自分で言うのもなんすけど、……私、結構かわいいと思うっすから」
「いやほんとそういうのでもなくマジで何もねえんだ! 正確に言えばクローゼットに何もなかった! 悪意も無ければ服も無かった! それでなんかこう……それサイズデカイからなんか行けるんじゃないかって! 結局余計アレな感じになったけど、別にそういう変な気があったわけじゃねえんだ!」
「この流れで完全否定されたらそれはそれでっすよ!」
「というかなんでそんな恰好で普通に出てきちゃったんですか!」
「んーまあ、ノリと勢いっすかね?」
「いや、勢いはあんまりなかった気がするんですけど!」
「うるせえぞ隣ィ!」
突然ドンという音と共にお隣さんが壁越しに介入してくる。
「「「す、すみません!」」」
と、最後に三人揃ってそう言った所で、一旦部屋の中が静まり返った。
そしてそんな状況で真っ先に再び動きだしたのはアリサだった。
「……と、とにかくクルージさんは見ちゃ駄目です」
「うわ、ちょ、アリサ!」
アリサが俺の背後に回ったかと思うと、突然目元が何かに包まれて視界が奪われる。
これ、タオルか?
「……よし、とりあえずこれで一安心ですかね」
「ナイスっすアリサちゃん」
……うん、まあナイスなんじゃないかな。
とりあえず俺の視界を潰せば、一応落ち着く状況な気がするし。
……気がするだけかもしれないけれど。
「えーっと、クルージさん。別に信用してない訳じゃないですけど、一応クローゼットの中拝見しますね」
「お、おう」
「えーっと……ほんとだ、それらしい物ないですね」
「ガチのマジで何も入ってないっすね」
「……まあそんな感じ。雨で洗濯物取り込んでなかったりとか色々あってな。気付くのが遅かったんだ」
「……まあ確かにそうみたいっすね。でもちょっと待つっすよ。先輩はしれっと着替えてるんすよね」
「いや、これ履いた辺りで気付いてさ」
「……なるほど。でもあれっすよね。男の人がパン一になってもさほど問題はないっすよね」
……なんだかとても嫌な予感がした。
「先輩、それ貸してください」
ほら来やがった!
俺がとりあえず慌てて両手でジャージを掴んだその瞬間、目隠ししてるから良く分からねえけど多分リーナに押し倒された。
そしてなんかジャージが引っ張られる感覚! これ完全に追剥ぎ!
「おい馬鹿止めろ! つーかヤバイって! 絵面がヤベエって!」
目隠しされてる男の服を半裸? な女の子が剥いでるってこれもう無茶苦茶アレな雰囲気しかしねえぞ!
「そのヤバイ絵面を少しでもマシにする為の常套手段じゃないっすか」
「クソ……ッ! おいアリサ! 助けてくれ!」
「えーっと……どっちをですか?」
「俺をだよ!」
「へいアリサちゃん。手ぇ貸してほしいっすよ」
「あ、え、これ、どうすれば……」
どうやらアリサは困惑しているようだ。
……マズイぞ。アリサに介入されたら戦況が一気に傾く。
それは回避しなければならない。というかこの醜い争いを止めなければならない!
そう思って俺は半ばヤケクソ気味に言う。
「いいかお前ら! よく聞けよ! 大変な事になるぞ! それ下ろしたら取り返しの付かない大変な事になるぞ!」
「またまたそんな事言ってぇ」
駄目だこの馬鹿聞く耳持たねえ!
「だからうるせえっつってんだろ隣ィ!」
「「「すみません!」」」
結果的に止まった。
お隣さんが止めてくれた。お隣さんすげえ。
……さて、そうしたお隣さんの介入でヒートアップしていた俺達は一旦冷静になる。
冷静になった所で、ようやく冷静な会話が紡がれる。
「……大変な事ってなんすか?」
「……色々あってこの下何も履いてねえ」
「……なんかすんません」
「……いや、全ての元凶俺だし。ほんとごめん」
もうその頃にはズボンを引っ張る力はなくなっていた。
……なにはともあれ無事危機は去ったようだった。
状況は何も変わっていないけれど。俺の視界を取り戻すのはまだ先だ。
とりあえず軽く息を付きながら体を起こす。
うん、前見えねえ。どっちテーブルだっけ?
大丈夫? 置いてある飲みかけのコーヒー零したりしない?
と、そんな風にあたふたしている所で、アリサのクスリという笑い声が聞こえた。
「どうした? なんか笑うとこあった? 俺前見えなくて今の部屋の状態何も分かんねえんだけど」
「その姿であたふたする先輩じゃないっすか。中々面白く仕上がってるっすよ」
「あ、いや、そういう事じゃ無くてですね……」
そしてアリサは一拍空けてから言う。
「なんだか賑やかでいいなぁって」
「……」
その言葉で色々と察したよ。
多分さ、あまりこうワイワイした様な雰囲気をアリサは経験していないのだと思う。
そうする相手が居なかったから。故にそうする機会を得られなかったのだろう。
「……先輩」
「……ああ」
リーナに先程までとは一転落ち着いた声で呼ばれて、なんとなく考えが伝わってきてそう返した。
きっとリーナも同じ事を考えている筈だ。
考えていたとすれば、俺達はそんなアリサを見て。声を聞いて。こう思った。
……次からはもっと綺麗な盛り上がり方をしよう。
なんかこう……色々とあんまりである。
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