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三章 人間という生き物の本質
ex 歪な原動力
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夜、グレン宅客間にて。
「リーナさん、それは?」
「読みかけの魔術の教本っす。とりあえず昨日の夜は読めなかったっすから、今日はちゃんとやっておこうと思って」
そう言ったリーナは客間のソファーに座りながら、テーブルに置かれた小さな照明をつける。
「とりあえず明かりはこれで確保できるっすから、アリサちゃんはお構いなく明かり消して寝てていいっすよ」
「まあボクは明日に備えてそろそろ寝ようかなって思ってましたけど……リーナさんも寝たらいいんじゃないですか? 多分リーナさんも結構疲れてると思いますし」
「疲れてるっていっても、ああいう人達絡みの気疲れくらいっすよ。アリサちゃんや先輩。それにグレンさんはその気疲れに加えて私の何十倍も戦いの疲れがあるわけで。そう考えたら私は今からしばらく頑張る位が丁度いいと思うんすよ」
それに、とリーナは言う。
「私も身体能力を向上させる魔術で多少は貢献できたかもしんないっすけど、まだまだ足手まといっす。少しでも皆の役に立つ為にも、明日までに何か役に立つ魔術の一つや二つ位覚えないと」
「リーナさん……」
「まあそんな訳なんで、アリサちゃんは気にしないで寝ちゃってください」
そう言って教本を開くリーナ。
そんなリーナをしばらく眺めていたアリサは、自身の持ち物の中から一冊本を取り出して、リーナの正面に陣取る。
「アリサちゃん、それは?」
「リーナさんと同じ……っていうにはまだレベルが低い奴ですけど、魔術の教本です。リーナさんが今から頑張るんだったらボクも頑張ろうかなって思って」
疲れて結構眠かったけれど、友達が頑張ってる横でスヤスヤ爆睡するのはちょっと違うと思ったから。
だからアリサも教本を開く。
(……でも駄目だ。頭入って来ない)
理由は簡単で単純に眠いから。
と、アリサが眠そうなのは端から見ても分かったのかもしれない。
「よし、止めっすよ今日は。眠いんで寝るっす!」
そう言ってリーナは教本を閉じていう。
「だからアリサちゃんも」
「リーナさん……はい」
別にこの結果を狙った行動では無かったのだけれど、もしかすると結果オーライで良い方向に事が進んだ気がする。
リーナは足手まといなんかではなくて。一人だけ無理をしなければならない理由なんてないから。結果的に自分に気を使ってでも寝ようと思ってくれたのなら、それはきっと良い事の筈だ。
そしてこの日はこのままリーナと共に眠る事にした。
リーナも実はかなり眠かったのだろう。リーナは隣で横になって一分程度で速攻で爆睡し始めている。
そんなリーナにどこか安心しながら、アリサの意識も微睡みの中に消えていく。
そして、アリサが眠りに付いたのを確認してからリーナはむくりと布団から体を起こした。
「……さて」
アリサにはぐっすり眠ってもらわなければならないけれど。ゆっくりと休んでほしいのだけれど。自分に関してはそうするまでにやるべき事がある。やらなければならない事がある。
「……頑張らないと」
眠い目を擦りながら再び椅子に座り照明をつけたリーナは、当初の予定通り魔術教本の読み込みを再開する。
……立ち止まってなんていられないから。そんな悠長にしていられる余裕なんてないから。
……価値のある人間である為に。必死にならないといけないから。
「……とりあえず最低でも一つ……まともに使えるようになっとかないと」
半ば強迫観念に囚われるようにそう呟く。
元々生きている価値の無いような自分でも誰かにパーティーに誘ってもらえるようにと、必死になって魔術を覚えようとしていた。そしてまだなんの価値も無い自分をクルージとアリサは受け入れてくれた。
だけどそれでも、自分が生きている価値の無いような人間である現実は変わらないから。
母に強く何度も言われたように、きっと自分はそういう無価値な人間だから。
だから優しい友人達に愛想を尽かされないように。
見捨てられないように。
もう二度と経験したくない、そんな拒絶したい未来から逃げ出す為に、今より少しでも価値のある人間にならなければならない。
……その為に。
「……頑張らないと」
リーナは今日も魔術師としての一歩を大きく踏み出す。
必要とされたい人達に必要とされる為に。
歪な原動力で。
これまで色々な事を覚えてきたように、とにかく必死に。
「リーナさん、それは?」
「読みかけの魔術の教本っす。とりあえず昨日の夜は読めなかったっすから、今日はちゃんとやっておこうと思って」
そう言ったリーナは客間のソファーに座りながら、テーブルに置かれた小さな照明をつける。
「とりあえず明かりはこれで確保できるっすから、アリサちゃんはお構いなく明かり消して寝てていいっすよ」
「まあボクは明日に備えてそろそろ寝ようかなって思ってましたけど……リーナさんも寝たらいいんじゃないですか? 多分リーナさんも結構疲れてると思いますし」
「疲れてるっていっても、ああいう人達絡みの気疲れくらいっすよ。アリサちゃんや先輩。それにグレンさんはその気疲れに加えて私の何十倍も戦いの疲れがあるわけで。そう考えたら私は今からしばらく頑張る位が丁度いいと思うんすよ」
それに、とリーナは言う。
「私も身体能力を向上させる魔術で多少は貢献できたかもしんないっすけど、まだまだ足手まといっす。少しでも皆の役に立つ為にも、明日までに何か役に立つ魔術の一つや二つ位覚えないと」
「リーナさん……」
「まあそんな訳なんで、アリサちゃんは気にしないで寝ちゃってください」
そう言って教本を開くリーナ。
そんなリーナをしばらく眺めていたアリサは、自身の持ち物の中から一冊本を取り出して、リーナの正面に陣取る。
「アリサちゃん、それは?」
「リーナさんと同じ……っていうにはまだレベルが低い奴ですけど、魔術の教本です。リーナさんが今から頑張るんだったらボクも頑張ろうかなって思って」
疲れて結構眠かったけれど、友達が頑張ってる横でスヤスヤ爆睡するのはちょっと違うと思ったから。
だからアリサも教本を開く。
(……でも駄目だ。頭入って来ない)
理由は簡単で単純に眠いから。
と、アリサが眠そうなのは端から見ても分かったのかもしれない。
「よし、止めっすよ今日は。眠いんで寝るっす!」
そう言ってリーナは教本を閉じていう。
「だからアリサちゃんも」
「リーナさん……はい」
別にこの結果を狙った行動では無かったのだけれど、もしかすると結果オーライで良い方向に事が進んだ気がする。
リーナは足手まといなんかではなくて。一人だけ無理をしなければならない理由なんてないから。結果的に自分に気を使ってでも寝ようと思ってくれたのなら、それはきっと良い事の筈だ。
そしてこの日はこのままリーナと共に眠る事にした。
リーナも実はかなり眠かったのだろう。リーナは隣で横になって一分程度で速攻で爆睡し始めている。
そんなリーナにどこか安心しながら、アリサの意識も微睡みの中に消えていく。
そして、アリサが眠りに付いたのを確認してからリーナはむくりと布団から体を起こした。
「……さて」
アリサにはぐっすり眠ってもらわなければならないけれど。ゆっくりと休んでほしいのだけれど。自分に関してはそうするまでにやるべき事がある。やらなければならない事がある。
「……頑張らないと」
眠い目を擦りながら再び椅子に座り照明をつけたリーナは、当初の予定通り魔術教本の読み込みを再開する。
……立ち止まってなんていられないから。そんな悠長にしていられる余裕なんてないから。
……価値のある人間である為に。必死にならないといけないから。
「……とりあえず最低でも一つ……まともに使えるようになっとかないと」
半ば強迫観念に囚われるようにそう呟く。
元々生きている価値の無いような自分でも誰かにパーティーに誘ってもらえるようにと、必死になって魔術を覚えようとしていた。そしてまだなんの価値も無い自分をクルージとアリサは受け入れてくれた。
だけどそれでも、自分が生きている価値の無いような人間である現実は変わらないから。
母に強く何度も言われたように、きっと自分はそういう無価値な人間だから。
だから優しい友人達に愛想を尽かされないように。
見捨てられないように。
もう二度と経験したくない、そんな拒絶したい未来から逃げ出す為に、今より少しでも価値のある人間にならなければならない。
……その為に。
「……頑張らないと」
リーナは今日も魔術師としての一歩を大きく踏み出す。
必要とされたい人達に必要とされる為に。
歪な原動力で。
これまで色々な事を覚えてきたように、とにかく必死に。
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