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七章 白と黒の追跡者
32 森の中の秘密兵器 上
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一体この先に何があるのか。
その見当が付かないままレベッカに着いていく。
向かっているのは再び森の奥。だけど精霊達が集まっているポイントとは少し違った方角で、少なくともハスカ達には何かがそこにあるという事は教えられていない。
という事は何か、レベッカだけが知っている様な何かがそこにあるのだろうか?
そう考えながら森の中を進んでいた時だった。
この場所で、聞こえる筈のない音が聞こえた。
「この音……」
「お、ちょうどいいタイミングだったみたいね」
「丁度いいって、お前これ……」
「あ、反応見る感じだと何か分かったみたいね。流石は向こうの世界の人間出身って所かな」
そうだ、向こうの世界。地球で生活していた人間ならこの音が一体どういう音なのかは大体理解できる。
逆にこの世界の人間には高確率で分からない音なのではないかと思う様な、そんな音。
バイクを吹かしている様な……否、様なではなくそれその物の音。
そしてその音の発生地地点。木々の無い開けた場所へ足を踏み入れるとそこにあったのは異様な光景だった。
「……マジかよ」
その場所に、この世界に存在しない筈のバイクを乗り回す精霊が居た。
そしてその精霊。
あの馬車を荒く運転する、物を解析する精霊術を使う無口無表情の精霊、エリスはこちらの前にドリフトを掛けながら急停止する。
そしてその光景にそれ以上何も言えなくなっていた俺にバイクを停車させたエリスは言う。
「……怪我、もう大丈夫?」
「あ、ああ……」
流石にこの状況についていけなくて、返答がそんなものになってしまう。
そして俺がそんな様子なのを見て、レベッカが俺に聞いてくる。
「どうしてこの世界にこんな物が、って思った?」
「あ、ああ。そうだな。少なくとも俺が知る限りではこの世界にはバイクなんて存在してねえ筈だし……っていうかこれ、完全に日本のメーカーの奴だ」
俺自身免許を持っていないからあまり詳しい方ではないのだが、誠一が普段バイク乗り回して会話の中でも出てくるだけあって少しばかりの知識はある。パラパラとだが雑誌だって一応読んだ。
……まそのバイクがどういう代物なのかなんて話は別にいい。
問題なのは、どうして日本産のバイクがこんな所にあるのかという話だ。
「……まさか俺以外に地球の人間が異世界に来ているのか?」
だけどその可能性は限りなく薄い。
俺がこの世界にこれたのは、レベッカがシオンから枷を受け取っていて、そのレベッカがなんとか俺を殺そうとする精霊術を取り止め異世界へと飛ばすという、奇跡の様な低確率を越えたからだ。
そして対策局の人達の話を聞く限り、ああいった精霊の存在を知る組織の人達でも異世界への渡り方を知らないどころか、精霊がどこから来るのかも分かっていなかった。
故に対精霊組織の人間がこの世界に組織的に渡ったとは考えにくい。
そしてそれが考えにくいのは、イルミナティの連中も同じだろう。
異世界の存在を知っていて、精霊の出現するポイントを割り出す事もできて。
そしてそこで異世界へ渡る為の精霊術を使えば異世界へと渡れる事は知っていても、やはり飛ぶには精霊術が必要な風に思えた。
というかおそらくイルミナティという全精力を集めれば対策局に匹敵する様な組織が、もし異世界へと渡る術を持ち合わせていればこちらの世界で活動している人間もいるだろう。俺とエルを異世界に渡らせるに至ってそういう話を出してこなかった時点で、多分そういう事だと俺は思う。
つまりこの世界に俺以外の地球人がいるとすれば、俺と同じような奇跡を潜り抜けなければ。それもバイクを手にした状況という、俺以上に難しい条件を熟さなければ成しえない。
そしてそれだけの奇跡はそう簡単には起こらない。
「いや、多分いないと思う。それこそいたら奇跡ってレベルね」
レベッカはそう言って俺と同じ意見を言った後、答えを告げる。
「この乗り物はウチが持ってきたの」
「……持ってきた?」
「正確にはこっちの世界に来る時に巻き込んだって感じかな」
「巻き込んだ……」
それは一体どういう事なのだろうか?
異世界へと渡る精霊術は自分と触れている物しか飛ばせない。
だから巻き込むという現象がよく理解できなかった。
そんな俺にレベッカは言う。
「ああ、ほら。ウチはあの時普通の状態じゃ無かったから」
「……それでか」
それを聞いてなんとなく察しが付いた。
暴走している精霊の使う精霊術は他の精霊とは違う。
だからあの時レベッカの使った精霊術が俺の使った物と同じ効果をもたらすとは限らない。
それこそ触れた相手だけでなく周囲の物を無差別に巻き込むような事があってもおかしくなくて、俺があの惨状や起きている状況に気を取られ、瓦礫や大破した車に紛れてまだ動かせるバイクがそこにあれば。そのバイクが偶然その精霊術の転移対象として認識されれば。
ここにバイクがあることは十分にあり得る話だ。
そしてレベッカは言う。
「で、どう? これなら走るよりもずっと良いでしょ?」
その見当が付かないままレベッカに着いていく。
向かっているのは再び森の奥。だけど精霊達が集まっているポイントとは少し違った方角で、少なくともハスカ達には何かがそこにあるという事は教えられていない。
という事は何か、レベッカだけが知っている様な何かがそこにあるのだろうか?
そう考えながら森の中を進んでいた時だった。
この場所で、聞こえる筈のない音が聞こえた。
「この音……」
「お、ちょうどいいタイミングだったみたいね」
「丁度いいって、お前これ……」
「あ、反応見る感じだと何か分かったみたいね。流石は向こうの世界の人間出身って所かな」
そうだ、向こうの世界。地球で生活していた人間ならこの音が一体どういう音なのかは大体理解できる。
逆にこの世界の人間には高確率で分からない音なのではないかと思う様な、そんな音。
バイクを吹かしている様な……否、様なではなくそれその物の音。
そしてその音の発生地地点。木々の無い開けた場所へ足を踏み入れるとそこにあったのは異様な光景だった。
「……マジかよ」
その場所に、この世界に存在しない筈のバイクを乗り回す精霊が居た。
そしてその精霊。
あの馬車を荒く運転する、物を解析する精霊術を使う無口無表情の精霊、エリスはこちらの前にドリフトを掛けながら急停止する。
そしてその光景にそれ以上何も言えなくなっていた俺にバイクを停車させたエリスは言う。
「……怪我、もう大丈夫?」
「あ、ああ……」
流石にこの状況についていけなくて、返答がそんなものになってしまう。
そして俺がそんな様子なのを見て、レベッカが俺に聞いてくる。
「どうしてこの世界にこんな物が、って思った?」
「あ、ああ。そうだな。少なくとも俺が知る限りではこの世界にはバイクなんて存在してねえ筈だし……っていうかこれ、完全に日本のメーカーの奴だ」
俺自身免許を持っていないからあまり詳しい方ではないのだが、誠一が普段バイク乗り回して会話の中でも出てくるだけあって少しばかりの知識はある。パラパラとだが雑誌だって一応読んだ。
……まそのバイクがどういう代物なのかなんて話は別にいい。
問題なのは、どうして日本産のバイクがこんな所にあるのかという話だ。
「……まさか俺以外に地球の人間が異世界に来ているのか?」
だけどその可能性は限りなく薄い。
俺がこの世界にこれたのは、レベッカがシオンから枷を受け取っていて、そのレベッカがなんとか俺を殺そうとする精霊術を取り止め異世界へと飛ばすという、奇跡の様な低確率を越えたからだ。
そして対策局の人達の話を聞く限り、ああいった精霊の存在を知る組織の人達でも異世界への渡り方を知らないどころか、精霊がどこから来るのかも分かっていなかった。
故に対精霊組織の人間がこの世界に組織的に渡ったとは考えにくい。
そしてそれが考えにくいのは、イルミナティの連中も同じだろう。
異世界の存在を知っていて、精霊の出現するポイントを割り出す事もできて。
そしてそこで異世界へ渡る為の精霊術を使えば異世界へと渡れる事は知っていても、やはり飛ぶには精霊術が必要な風に思えた。
というかおそらくイルミナティという全精力を集めれば対策局に匹敵する様な組織が、もし異世界へと渡る術を持ち合わせていればこちらの世界で活動している人間もいるだろう。俺とエルを異世界に渡らせるに至ってそういう話を出してこなかった時点で、多分そういう事だと俺は思う。
つまりこの世界に俺以外の地球人がいるとすれば、俺と同じような奇跡を潜り抜けなければ。それもバイクを手にした状況という、俺以上に難しい条件を熟さなければ成しえない。
そしてそれだけの奇跡はそう簡単には起こらない。
「いや、多分いないと思う。それこそいたら奇跡ってレベルね」
レベッカはそう言って俺と同じ意見を言った後、答えを告げる。
「この乗り物はウチが持ってきたの」
「……持ってきた?」
「正確にはこっちの世界に来る時に巻き込んだって感じかな」
「巻き込んだ……」
それは一体どういう事なのだろうか?
異世界へと渡る精霊術は自分と触れている物しか飛ばせない。
だから巻き込むという現象がよく理解できなかった。
そんな俺にレベッカは言う。
「ああ、ほら。ウチはあの時普通の状態じゃ無かったから」
「……それでか」
それを聞いてなんとなく察しが付いた。
暴走している精霊の使う精霊術は他の精霊とは違う。
だからあの時レベッカの使った精霊術が俺の使った物と同じ効果をもたらすとは限らない。
それこそ触れた相手だけでなく周囲の物を無差別に巻き込むような事があってもおかしくなくて、俺があの惨状や起きている状況に気を取られ、瓦礫や大破した車に紛れてまだ動かせるバイクがそこにあれば。そのバイクが偶然その精霊術の転移対象として認識されれば。
ここにバイクがあることは十分にあり得る話だ。
そしてレベッカは言う。
「で、どう? これなら走るよりもずっと良いでしょ?」
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