婚約破棄、感謝いたします! 毒舌鑑定令嬢は一歩も動かず国を豊かにして二度寝したい 〜氷の皇帝を『研磨』したら、愛が重すぎて眠れません〜

小林 れい

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第一巻:追放と再始動編

第五話:【改善】「石ころを食えというの?」貧相な食事を宝石のような美食へ変える。

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「――陛下。私は一言、こう申し上げましたわよね? 『私の一生を保障しなさい』と」

 帝都に朝日が昇り、私がようやく「一度目の目覚め」を迎えた頃。運ばれてきた朝食のトレイを前に、私の鑑定眼は、視界に入るものすべてに「不合格」の赤文字を叩きつけていた。

 目の前にあるのは、灰色に濁ったスープと、石のように硬そうな黒パン。そして、酸味を通り越して腐敗の香りがするワイン。

「……何かな、リセット。口に合わなかったか?」  私の向かいで、優雅に(しかし明らかに無理をして)同じものを口に運んでいたエドワルドが、不思議そうに首を傾げた。

「口に合う合わない以前の問題よ。陛下、あなたの味覚は鑑定するまでもなく『死滅』しているのかしら? このスープに含まれる魔力成分、ただの『泥水の残滓』ですわ。パンにいたっては、小麦よりも石灰の含有量が多い。……私を石像にでもして、庭に飾りたいのかしら?」

 私はスプーンを銀の皿に投げ出した。カラン、と高い音が響く。

「……すまない。この国は長年、私の放つ冷気に曝されてきた。農作物は育たず、家畜も痩せ細り、食料の多くを王国からの高価な輸入に頼っている。だが王国側は、わざと質の悪い『廃棄品』を送りつけてきているのだ」

「王国……あのゴミ溜め国家ね」  元婚約者のジークフリートの、ニヤついた顔が脳裏をよぎる。おそらく彼は、私を追い出した腹いせに、帝国の食糧事情をさらに締め上げているのだろう。

「……いいわ。二度寝の後の空腹を、こんな不純物の塊で汚されるなんて耐えられない。陛下、厨房へ案内して。私が直々に『磨き』をかけてあげるわ」

 帝国の厨房は、まるで戦場のような寒々しさだった。  料理長たちは、「どうせ何を作っても凍るのだから」と投げやりな様子で、萎びた野菜を刻んでいる。

「どきなさい、不純物予備軍たち。……鑑定開始」

 私は瞳の奥を黄金色に輝かせた。

【鑑定対象:倉庫の食材一式】 【判定:壊滅的。……ただし、北側に置かれた『氷漬けの硬い肉』。これ、氷竜(アイスドラゴン)の頬肉じゃない。】 【判定:隅にある『萎びた雑草』。これ、魔力を与えれば極上のスパイスになる『凍土のハーブ』よ。】

「料理長、その『氷の塊』をこっちへ。……陛下、あなたの出番よ。その肉の表面だけを、私の指定する温度まで『熱変換』してくださる?」

「……私に料理を手伝えというのか? 皇帝に火を熾させる女など、君くらいだな」  エドワルドは苦笑しながらも、私の指示に従って繊細な魔力を指先から放つ。

 私は鑑定眼で肉の細胞一つひとつの「結合」を見極め、ナイフを入れた。  氷の魔力を逆利用し、細胞内の水分を瞬時に凍結・膨張させて、硬い肉の繊維をズタズタに断ち切る――。

「――【研磨(カット):細胞破壊・旨味凝縮】!」

 パキパキッ、と心地よい音が響く。  そこに、魔力を注いで「覚醒」させた凍土のハーブを散らす。すると、今まで泥のような臭いを発していた野菜のクズが、一瞬にして森の息吹を思わせる芳醇な香りに変わった。

「……な、なんだこの香りは……!」  料理長たちが腰を抜かす。

 わずか十五分。  銀の皿の上に完成したのは、水晶のように透き通ったスープに浮かぶ、宝石のように輝く肉のラグーだった。

「さあ、召し上がれ。……陛下、あなたが私を『ヒーター』として温め続けた結果、ようやく生まれた『奇跡の副産物』よ」

 エドワルドが一口、スープを口に運んだ。  その瞬間、彼の端正な顔立ちが驚愕に染まった。

「……熱い。……いや、内側から溶けるようだ。……リセット、君は……石ころだけでなく、死んだ食材にさえ『命の輝き』を与えるのか」

「勘違いしないで。私はただ、美味しいものを食べて、幸せな気分で眠りたいだけ。……不味い食事は、安眠を妨げる『最大の毒』だもの」

 私は自分の分をさっさと食べ終えると、満足げに口を拭いた。  エドワルドは、食べ終わった後の私を熱っぽい目で見つめている。

「……美味かった。……リセット、私の胃袋まで君に『鑑定』され、支配されてしまったようだ」

「……陛下。あなたの胃袋なんて興味ないわ。それより、食後のデザートは……」

「私の愛か?」

「……鑑定結果:不純物100%。……寝言は寝てからおっしゃい。私は今から二度目の二度寝(メインイベント)に入るんだから」

 リセットの「鑑定眼」による厨房改革は、帝国の料理人たちを心酔させ、さらには皇帝の独占欲を決定的なものにしてしまった。    美味しい食事、温かい部屋。  整いすぎた環境に、リセットは幸せな溜息をつくが――。  彼女の知らないところで、帝国を裏で支配しようとする「影」が、その有能すぎる宝石鑑定令嬢の噂を聞きつけようとしていた。
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