5 / 13
第一巻:追放と再始動編
第五話:【改善】「石ころを食えというの?」貧相な食事を宝石のような美食へ変える。
しおりを挟む
「――陛下。私は一言、こう申し上げましたわよね? 『私の一生を保障しなさい』と」
帝都に朝日が昇り、私がようやく「一度目の目覚め」を迎えた頃。運ばれてきた朝食のトレイを前に、私の鑑定眼は、視界に入るものすべてに「不合格」の赤文字を叩きつけていた。
目の前にあるのは、灰色に濁ったスープと、石のように硬そうな黒パン。そして、酸味を通り越して腐敗の香りがするワイン。
「……何かな、リセット。口に合わなかったか?」 私の向かいで、優雅に(しかし明らかに無理をして)同じものを口に運んでいたエドワルドが、不思議そうに首を傾げた。
「口に合う合わない以前の問題よ。陛下、あなたの味覚は鑑定するまでもなく『死滅』しているのかしら? このスープに含まれる魔力成分、ただの『泥水の残滓』ですわ。パンにいたっては、小麦よりも石灰の含有量が多い。……私を石像にでもして、庭に飾りたいのかしら?」
私はスプーンを銀の皿に投げ出した。カラン、と高い音が響く。
「……すまない。この国は長年、私の放つ冷気に曝されてきた。農作物は育たず、家畜も痩せ細り、食料の多くを王国からの高価な輸入に頼っている。だが王国側は、わざと質の悪い『廃棄品』を送りつけてきているのだ」
「王国……あのゴミ溜め国家ね」 元婚約者のジークフリートの、ニヤついた顔が脳裏をよぎる。おそらく彼は、私を追い出した腹いせに、帝国の食糧事情をさらに締め上げているのだろう。
「……いいわ。二度寝の後の空腹を、こんな不純物の塊で汚されるなんて耐えられない。陛下、厨房へ案内して。私が直々に『磨き』をかけてあげるわ」
帝国の厨房は、まるで戦場のような寒々しさだった。 料理長たちは、「どうせ何を作っても凍るのだから」と投げやりな様子で、萎びた野菜を刻んでいる。
「どきなさい、不純物予備軍たち。……鑑定開始」
私は瞳の奥を黄金色に輝かせた。
【鑑定対象:倉庫の食材一式】 【判定:壊滅的。……ただし、北側に置かれた『氷漬けの硬い肉』。これ、氷竜(アイスドラゴン)の頬肉じゃない。】 【判定:隅にある『萎びた雑草』。これ、魔力を与えれば極上のスパイスになる『凍土のハーブ』よ。】
「料理長、その『氷の塊』をこっちへ。……陛下、あなたの出番よ。その肉の表面だけを、私の指定する温度まで『熱変換』してくださる?」
「……私に料理を手伝えというのか? 皇帝に火を熾させる女など、君くらいだな」 エドワルドは苦笑しながらも、私の指示に従って繊細な魔力を指先から放つ。
私は鑑定眼で肉の細胞一つひとつの「結合」を見極め、ナイフを入れた。 氷の魔力を逆利用し、細胞内の水分を瞬時に凍結・膨張させて、硬い肉の繊維をズタズタに断ち切る――。
「――【研磨(カット):細胞破壊・旨味凝縮】!」
パキパキッ、と心地よい音が響く。 そこに、魔力を注いで「覚醒」させた凍土のハーブを散らす。すると、今まで泥のような臭いを発していた野菜のクズが、一瞬にして森の息吹を思わせる芳醇な香りに変わった。
「……な、なんだこの香りは……!」 料理長たちが腰を抜かす。
わずか十五分。 銀の皿の上に完成したのは、水晶のように透き通ったスープに浮かぶ、宝石のように輝く肉のラグーだった。
「さあ、召し上がれ。……陛下、あなたが私を『ヒーター』として温め続けた結果、ようやく生まれた『奇跡の副産物』よ」
エドワルドが一口、スープを口に運んだ。 その瞬間、彼の端正な顔立ちが驚愕に染まった。
「……熱い。……いや、内側から溶けるようだ。……リセット、君は……石ころだけでなく、死んだ食材にさえ『命の輝き』を与えるのか」
「勘違いしないで。私はただ、美味しいものを食べて、幸せな気分で眠りたいだけ。……不味い食事は、安眠を妨げる『最大の毒』だもの」
私は自分の分をさっさと食べ終えると、満足げに口を拭いた。 エドワルドは、食べ終わった後の私を熱っぽい目で見つめている。
「……美味かった。……リセット、私の胃袋まで君に『鑑定』され、支配されてしまったようだ」
「……陛下。あなたの胃袋なんて興味ないわ。それより、食後のデザートは……」
「私の愛か?」
「……鑑定結果:不純物100%。……寝言は寝てからおっしゃい。私は今から二度目の二度寝(メインイベント)に入るんだから」
リセットの「鑑定眼」による厨房改革は、帝国の料理人たちを心酔させ、さらには皇帝の独占欲を決定的なものにしてしまった。 美味しい食事、温かい部屋。 整いすぎた環境に、リセットは幸せな溜息をつくが――。 彼女の知らないところで、帝国を裏で支配しようとする「影」が、その有能すぎる宝石鑑定令嬢の噂を聞きつけようとしていた。
帝都に朝日が昇り、私がようやく「一度目の目覚め」を迎えた頃。運ばれてきた朝食のトレイを前に、私の鑑定眼は、視界に入るものすべてに「不合格」の赤文字を叩きつけていた。
目の前にあるのは、灰色に濁ったスープと、石のように硬そうな黒パン。そして、酸味を通り越して腐敗の香りがするワイン。
「……何かな、リセット。口に合わなかったか?」 私の向かいで、優雅に(しかし明らかに無理をして)同じものを口に運んでいたエドワルドが、不思議そうに首を傾げた。
「口に合う合わない以前の問題よ。陛下、あなたの味覚は鑑定するまでもなく『死滅』しているのかしら? このスープに含まれる魔力成分、ただの『泥水の残滓』ですわ。パンにいたっては、小麦よりも石灰の含有量が多い。……私を石像にでもして、庭に飾りたいのかしら?」
私はスプーンを銀の皿に投げ出した。カラン、と高い音が響く。
「……すまない。この国は長年、私の放つ冷気に曝されてきた。農作物は育たず、家畜も痩せ細り、食料の多くを王国からの高価な輸入に頼っている。だが王国側は、わざと質の悪い『廃棄品』を送りつけてきているのだ」
「王国……あのゴミ溜め国家ね」 元婚約者のジークフリートの、ニヤついた顔が脳裏をよぎる。おそらく彼は、私を追い出した腹いせに、帝国の食糧事情をさらに締め上げているのだろう。
「……いいわ。二度寝の後の空腹を、こんな不純物の塊で汚されるなんて耐えられない。陛下、厨房へ案内して。私が直々に『磨き』をかけてあげるわ」
帝国の厨房は、まるで戦場のような寒々しさだった。 料理長たちは、「どうせ何を作っても凍るのだから」と投げやりな様子で、萎びた野菜を刻んでいる。
「どきなさい、不純物予備軍たち。……鑑定開始」
私は瞳の奥を黄金色に輝かせた。
【鑑定対象:倉庫の食材一式】 【判定:壊滅的。……ただし、北側に置かれた『氷漬けの硬い肉』。これ、氷竜(アイスドラゴン)の頬肉じゃない。】 【判定:隅にある『萎びた雑草』。これ、魔力を与えれば極上のスパイスになる『凍土のハーブ』よ。】
「料理長、その『氷の塊』をこっちへ。……陛下、あなたの出番よ。その肉の表面だけを、私の指定する温度まで『熱変換』してくださる?」
「……私に料理を手伝えというのか? 皇帝に火を熾させる女など、君くらいだな」 エドワルドは苦笑しながらも、私の指示に従って繊細な魔力を指先から放つ。
私は鑑定眼で肉の細胞一つひとつの「結合」を見極め、ナイフを入れた。 氷の魔力を逆利用し、細胞内の水分を瞬時に凍結・膨張させて、硬い肉の繊維をズタズタに断ち切る――。
「――【研磨(カット):細胞破壊・旨味凝縮】!」
パキパキッ、と心地よい音が響く。 そこに、魔力を注いで「覚醒」させた凍土のハーブを散らす。すると、今まで泥のような臭いを発していた野菜のクズが、一瞬にして森の息吹を思わせる芳醇な香りに変わった。
「……な、なんだこの香りは……!」 料理長たちが腰を抜かす。
わずか十五分。 銀の皿の上に完成したのは、水晶のように透き通ったスープに浮かぶ、宝石のように輝く肉のラグーだった。
「さあ、召し上がれ。……陛下、あなたが私を『ヒーター』として温め続けた結果、ようやく生まれた『奇跡の副産物』よ」
エドワルドが一口、スープを口に運んだ。 その瞬間、彼の端正な顔立ちが驚愕に染まった。
「……熱い。……いや、内側から溶けるようだ。……リセット、君は……石ころだけでなく、死んだ食材にさえ『命の輝き』を与えるのか」
「勘違いしないで。私はただ、美味しいものを食べて、幸せな気分で眠りたいだけ。……不味い食事は、安眠を妨げる『最大の毒』だもの」
私は自分の分をさっさと食べ終えると、満足げに口を拭いた。 エドワルドは、食べ終わった後の私を熱っぽい目で見つめている。
「……美味かった。……リセット、私の胃袋まで君に『鑑定』され、支配されてしまったようだ」
「……陛下。あなたの胃袋なんて興味ないわ。それより、食後のデザートは……」
「私の愛か?」
「……鑑定結果:不純物100%。……寝言は寝てからおっしゃい。私は今から二度目の二度寝(メインイベント)に入るんだから」
リセットの「鑑定眼」による厨房改革は、帝国の料理人たちを心酔させ、さらには皇帝の独占欲を決定的なものにしてしまった。 美味しい食事、温かい部屋。 整いすぎた環境に、リセットは幸せな溜息をつくが――。 彼女の知らないところで、帝国を裏で支配しようとする「影」が、その有能すぎる宝石鑑定令嬢の噂を聞きつけようとしていた。
0
あなたにおすすめの小説
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
婚約破棄して廃嫡された馬鹿王子、冒険者になって自由に生きようとするも、何故か元婚約者に追いかけて来られて修羅場です。
平井敦史
ファンタジー
公爵令嬢ヘンリエッタとの婚約破棄を宣言した王太子マルグリスは、父王から廃嫡されてしまう。
マルグリスは王族の身分も捨て去り、相棒のレニーと共に冒険者として生きていこうと決意するが、そんな彼をヘンリエッタが追いかけて来て……!?
素直になれない三人の、ドタバタ冒険ファンタジー。
※「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる