婚約破棄、感謝いたします! 毒舌鑑定令嬢は一歩も動かず国を豊かにして二度寝したい 〜氷の皇帝を『研磨』したら、愛が重すぎて眠れません〜

小林 れい

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第一巻:追放と再始動編

第六話:皇帝の右腕、冷徹宰相の「心のヒビ」を見抜いて懐柔。

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「――リセット様。失礼ながら、これ以上陛下を甘やかすのはお止めください」

 食後の至福の二度寝を、またしても阻まれた。  枕元に立っていたのは、先日私が杖の呪いを解いてやった帝国宰相、バルタザールだった。以前のような険しさは消えたが、今は今で、実直すぎるがゆえの「説教臭さ」が部屋に充満している。

「……おじいちゃん。鑑定するまでもなく、あなたの声は私の安眠を妨げる『騒音不純物』よ。あと五分……いえ、五時間黙っててくださる?」

「そうはいきません。現在、帝国には王国からの外交使節団が到着しております。陛下を廃嫡し、帝国を属国にしようと目論むジークフリート王子からの親書を持った使者です。陛下は『リセットの昼寝を邪魔する奴は氷漬けにする』と仰って、謁見を拒否されています。このままでは戦争になります!」

 私は、渋々ベッドから上体を起こした。  ……あのアホ王子。追放した私を追いかけてくる暇があるなら、自分の国の「ガラス玉」でも磨いていればいいものを。

「……面倒くさい。陛下も陛下よ、私のせいにしないでさっさと追い返せばいいのに」

「陛下は、あなたが王国の使者に顔を見られることで、無理やり連れ戻されるのを懸念されているのです。……ですが、今の帝国の国力では、正面から戦うのは得策ではありません。そこで、リセット様。あなたに『帝国の宝石師』として謁見の場に同席していただきたい」

 私はバルタザールを凝視した。  視界が『鑑定モード』に切り替わり、彼の胸の奥にある「感情の波」が数値化される。

【鑑定対象:宰相バルタザール】 【状態:過労死寸前。真面目すぎるがゆえの精神的ヒビ割れ。】 【本音:『本当は私も休みたい。けれど、この女が有能すぎて癪に障る。同時に、期待もしている。』】

「……おじいちゃん。あなた、さっきから陛下のために働いているふりをして、実は『私に仕事を押し付けて、自分は一息つきたい』って思ってるでしょう?」

「なっ……! 何を根拠にそのような……!」

「あなたの心のヒビ、かなり深いわよ。……『鑑定:責任感の無駄遣い』。そんな風にガチガチに固まった心じゃ、美味しいお茶も不味くなるわ。……いいわ、使者の相手くらいしてあげる。その代わり、おじいちゃん。……あなたが隠し持っている『伝説の極上茶葉』、私に差し出しなさい。それで釣ったお茶を飲みながらなら、使者の相手くらいしてあげるわ」

「な……なぜそれを!? 私が自腹でオークションで落とした、一生に一度の贅沢品を……!」

「鑑定眼を舐めないで。あなたのポケットから、最高ランクの『カメリア・クリスタル』の香りが漂ってるのよ。……不純な動機で隠し持つより、私に提供して、一緒に優雅に休憩しましょう?」

 バルタザールは、完敗したというように肩を落とした。  この瞬間、彼は悟ったのだ。この「毒舌鑑定令嬢」には、隠し事も、虚飾も、一切通用しないのだと。

「……分かりました。茶葉は差し上げます。ですから、どうか……王国の使者を、その毒舌で粉砕してください。あ奴らは、帝国の資源を『無価値な石』だと決めつけ、安値で叩こうとしています」

「あら。価値のない石なんて、この世に存在しないわ。……あるのは、価値を見抜けない『節穴の目』だけよ」

 私は重い腰を上げ、バルタザールから差し出された最高級のドレス(これも鑑定の結果、糸一本まで最高級の魔導糸で編まれていた)に身を包んだ。

 謁見の間。  そこには、王国の紋章を背負った高圧的な使者たちが並んでいた。  玉座には、不機嫌を隠そうともしないエドワルドが座っている。彼は私が入室した瞬間に、その鋭い瞳を和らげ、熱烈な視線を送ってきた。

「……リセット。よく来てくれた。無理を言ったな」

「ええ、陛下。安眠時間は、後でバルタザールおじいちゃんの特等茶葉で補填していただきますわ。……さて」

 私は王国の使者の前に立った。  使者は私を見て、鼻で笑った。

「これはこれは、クォーツ家の落ちこぼれ令嬢ではありませんか。帝国の『宝石師』などという大層な肩書きを名乗って、一体何を――」

「黙りなさい。不純物が喋ると、空気が汚れるわ」

 私は使者が「献上品」として持ってきた、煌びやかな魔石の箱を指差した。

「鑑定終了。……それ、外側だけ『魔力増幅石』でコーティングした、ただの『爆発物の塊』ね。……陛下、この使者たち、あなたを殺して、この国の宝石資源を強奪しに来たみたいですわよ?」

「なっ……! 何をデタラメを!」

「あら、嘘だと思うなら、今すぐその箱、私が『研磨』して中身を暴いてあげましょうか? ……その瞬間、あなたたちの罪も一緒に『鑑定完了』になるけれど」

 リセットの瞳が、鑑定の光で冷酷に輝いた。  王国の使者たちは、その圧倒的な「正解」を突きつける眼差しに、蛇に睨まれた蛙のように硬直した。
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