婚約破棄、感謝いたします! 毒舌鑑定令嬢は一歩も動かず国を豊かにして二度寝したい 〜氷の皇帝を『研磨』したら、愛が重すぎて眠れません〜

小林 れい

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第一巻:追放と再始動編

第八話:刺客襲来。リセット、ガラス片で暗殺者の急所を突く。

 昨夜の「入浴剤事件」のせいで、結局まともに眠りにつけたのは明け方だった。  エドワルドの執着心が「研磨」されるどころか「増幅」している事実に、私は布団の中で深い溜息をついた。

「……ふわぁ。肌のコンディションは鑑定の結果『最高ランク』だけど、意識の覚醒度は『ゴミレベル』だわ……」

 高級シルクのパジャマに身を包み、私は寝室のバルコニーへと出た。  冷たい空気が、熱を帯びた体に心地よい。……そう思った瞬間だった。

 背後の空気が、わずかに「濁った」。

【鑑定対象:周囲の空間】 【不純物:光学迷彩魔法、および猛毒が塗布された『影の魔刃』】 【判定:暗殺者。王国の『影』。鑑定精度……二流以下。】

「……朝から本当に、センスのない訪問者ね。私の安眠スケジュールを乱した罪、銀貨一枚分でも贖えると思っているのかしら?」

 私は振り返ることもなく、手元にあった飲み干したばかりのワイングラス――エドワルドが「君の瞳に似ているから」と贈ってきた、最高級のクリスタル製――を、床に向かって無造作に落とした。

 パリンッ、と高い音が響き、美しい破片が床に散らばる。

「死ね、王国を裏切った毒婦め!」

 虚空から、黒装束を纏った男が姿を現した。  彼の短剣が、私の背中に突き立てられようとしたその瞬間、私は鑑定眼で導き出した「最適解」へと、ほんの数センチだけ体を横にずらした。

 男の足が、私がわざと落として割った「クリスタル片」を踏み抜く。  普通の靴なら防げたはずだ。だが、このクリスタルは私が昨夜のうちに、自分の魔力で「鋼鉄をも貫く鋭利さ」に研磨(調整)しておいたものだ。

「ぎゃああああああっ!?」

 足の裏を貫かれ、体勢を崩した暗殺者。  私は彼が倒れ込む軌道を鑑定し、その手元に落ちた「別のガラス片」を、優雅に、しかし無慈悲につま先で蹴り上げた。

 ピュン、と空気を裂く音。  ガラス片は、男の魔法発動の起点である手首の「経絡」に正確に突き刺さった。

「ぐ、が……っ。な、なぜ動けない……!?」

「鑑定終了。……あなたの魔力回路、そこを塞げば一分間は全身不随になるわ。あと、その短剣の毒……『紫の蛇毒』ね。成分比率が甘いわ。もっと純度を高めないと、私のような不純物にうるさい女は殺せないわよ?」

 私が冷たく言い放つと、背後の扉が豪快に跳ね上がった。

「リセット!!」

 剣を抜き、殺気立ったエドワルドが飛び込んできた。  彼は床に転がる男を見るなり、その瞳に絶対零度の殺意を宿した。

「……影か。……私のリセットに、その薄汚い手を伸ばそうとしたのか」

「陛下。……遅いわよ。お掃除(鑑定)はもう終わったわ。……ああ、危ないからその男に近づかないで。今から彼を『凍土の肥やし』にするなら、私がさっき言った『毒の調合ミス』を修正してからにしてくださる?」

「リセット。……君という女性は、本当に……」

 エドワルドは呆れたように肩を落としたが、すぐに私に歩み寄り、折れそうなほど強く抱きしめた。  鎧の冷たさが心地よいが、彼の心臓の鼓動はやけに速い。

「怖くなかったのか?」

「……怖い? 何を鑑定したらそんな答えが出るのかしら。私はただ、返り血でパジャマを汚されるのが、何よりも恐ろしかったわ。……さあ、陛下。この不純物をさっさと片付けて。私は今から、中断された『三度寝』に入らなきゃいけないんだから」

 皇帝の腕の中で、私は大きな欠伸をした。  暗殺者の襲来さえ、リセットにとっては「二度寝の重要性」を再確認するイベントに過ぎない。

「……分かった。お前の眠りは、私が命に代えても守ろう。……だが、その前に」

 エドワルドが私の首筋に顔を埋める。   「……君のその、冷徹で美しい『毒』に、私はもっと侵されたいのだ」

(((……鑑定結果:この皇帝、暗殺者よりもタチが悪い不純物だわ……!)))

 一歩も動きたくないリセットの周囲は、彼女の望む平穏とは真逆に、ますます熱く、騒がしくなっていくのであった。
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