婚約破棄、感謝いたします! 毒舌鑑定令嬢は一歩も動かず国を豊かにして二度寝したい 〜氷の皇帝を『研磨』したら、愛が重すぎて眠れません〜

小林 れい

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第一巻:追放と再始動編

第九話:皇帝エドワルドの独占欲。初めての「身体検査」。

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「――リセット、これを受け取ってくれ」

 その日の夕暮れ。公務を終えたエドワルドが私の部屋を訪れ、仰々しい黒塗りの箱を差し出した。  私は、ちょうどお風呂上がりの「一番眠気が心地よい時間帯」を邪魔され、眉間に深いシワを寄せて箱を眺めた。

「……何かしら、陛下。宝石の献上品なら、そこの『とりあえず鑑定待ちボックス』に入れておいてくださる? 今、私の脳は休息モードで、価値を計算するリソースが残ってないの」

「これは贈り物だ。……私の魔力を最も安定した形で結晶化させた、世界に一つだけの指輪(リング)だ」

 箱の中には、エドワルドの瞳と同じ、深い深い深海のような青色をした魔石の指輪が鎮座していた。  あまりの美しさに、一瞬だけ見惚れそうになった――が、私の鑑定眼は、その輝きの奥に潜む「不純な意図」を見逃さなかった。

 私は瞳を黄金色に輝かせ、指輪をスキャンする。

【鑑定対象:エドワルド特製・青晶の指輪】 【成分:皇帝の純粋な魔力、執着、および……】 【機能:二十四時間の位置特定、バイタルチェック、および装着者が一定距離以上離れた際の『強制帰還魔法』】 【評価:至高の輝きを放つ、世界で最も豪華な『GPS付きの首輪』】

「……陛下。一つ伺ってもよろしくて?」

「なんだ、愛しいリセット」

「この指輪をはめたら、私がトイレに行く時も、寝返りを打つ回数も、すべてあなたの手元の水晶玉に記録される仕組みになっているのは……私の鑑定眼のバグかしら?」

 エドワルドは一瞬だけ視線を泳がせたが、すぐに堂々とした態度で私を見つめ返した。

「……バグではない。それは君の身の安全を守るための、慈悲深い『身体検査機能』だ。昨日のように暗殺者に襲われても、私がすぐに駆けつけられるようにするためのな」

「嘘をおっしゃい。……『鑑定:100%の独占欲』。これ、私が帝国から逃げ出さないようにするための『鎖』でしょう?」

「……。……逃げるつもりなのか?」

 エドワルドの声が、急激に温度を下げた。  部屋の空気がピリリと凍りつき、窓ガラスに薄い氷の華が咲く。    私は溜息をつきながら、箱から指輪を取り出した。そして、迷いなくその魔石の「接続点」に、自分の爪先を立てた。

「逃げるも何も、こんな重たい指輪をつけてたら、重力で安眠の妨げになるわ。……研磨(カット)修正よ」

「待て、それは私の魔力の結晶だぞ! 壊せば反動が――」

「壊さないわよ。……『無駄な機能』だけを削ぎ落とすだけ」

 パキィィィィン!  指輪から青い火花が散る。私は鑑定眼で導き出した「監視回路」だけをピンポイントで粉砕し、純粋な魔力供給源としての機能だけを残した。

「はい、完了。……監視機能と強制送還は削除。代わりに、私が寝ている間にベッドが冷えないよう、常に適温を保つ『全自動温度調節機能』に書き換えておいたわ。……これなら、はめてあげてもいいわよ?」

 私が指輪を自分の薬指(一番邪魔にならない指だと思っただけだが)にはめると、エドワルドは呆然とした後、深いため息をついて笑い出した。

「……私の愛を『湯たんぽ』扱いに変えるとは。……君には、一生勝てる気がしないな」

「あら。私は勝負なんてしてませんわよ。……陛下、鑑定結果を教えてあげる。今のあなたの顔、監視に失敗した悔しさよりも、私が指輪を受け取った喜びの方が勝ってるわ。……単純すぎて、鑑定するまでもないけれど」

 エドワルドは私の手を強引に引き寄せ、指輪の嵌まった指に熱いキスを落とした。

「……ああ、そうだ。監視などなくても、私は君を離さない。……次は、指輪ではなく、君の心そのものを私の色に『研磨』してやろう」

(((……鑑定結果:この皇帝、一筋縄じゃいかないわ。私のニート生活、前途多難ね……)))

 指輪による束縛は回避したリセット。  しかし、その指輪を通じて、彼女と皇帝の「魔力」が深く繋がり始めてしまったことに、彼女はまだ気づいていなかった。
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