婚約破棄、感謝いたします! 毒舌鑑定令嬢は一歩も動かず国を豊かにして二度寝したい 〜氷の皇帝を『研磨』したら、愛が重すぎて眠れません〜

小林 れい

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第二巻:泥だらけの騎士団編

第十二話:【研磨】錆びた剣を鑑定。これは伝説の聖剣の「成れの果て」ね。

「――リセット、本当にこれを使うつもりか?」

 エドワルドが眉をひそめ、私の手元にある「それ」を眺めている。  場所は騎士団の武器庫の奥深く。日の当たらない隅っこで、埃と蜘蛛の巣にまみれたガラクタの山から私が引っ張り出したのは、およそ武器とは呼べないほどボロボロの、一本の「鉄の棒」だった。

 鞘は腐り落ち、刀身は赤錆に覆われ、あちこちが刃こぼれしている。普通の目で見れば、鍛冶屋が打ち捨てた失敗作か、廃品回収に出すのを忘れたゴミにしか見えないだろう。

「陛下。……あなたは、道端に転がっている石ころを見て、『これは泥だ』と言って蹴り飛ばすタイプかしら? ……鑑定眼(これ)を使いなさいと言ったのはあなたなのに、その節穴な目つき、鑑定する価値さえ感じられないわ」

「……厳しいな。だが、私にはそれがただの錆びた鈍器にしか見えないんだ」

「ええ。凡人にはそう見えるでしょうね。……でも、私の目には、この錆の層の下で『泣いている魂』が見えるのよ。……鑑定開始」

 私は瞳の奥を黄金色に輝かせ、その鉄の棒を深くスキャンした。

【鑑定対象:正体不明の錆びた長剣】 【真実:古代帝国時代に鍛えられた幻の聖銀剣『エストレア』。】 【状態:表面に『時間の煤(スス)』と『嫉妬の呪い』が重なり、真の魔力を封じられている。】 【評価:現在の市場価値は銅貨一枚分。ただし、一皮剥けば王国を三つ買い取れるほどの国宝。】

「……これ、三百年前に失われたと言われていた『エストレア』の成れの果てだわ。誰がこんな扱いをしたのかしら。鑑定結果:管理責任者の脳みそは、この錆よりも使い物にならない、ね」

 私は、騎士たちが遠巻きに見守る中、カバンから一本の細い小瓶を取り出した。中には、私が昨夜の二度寝の合間に、自分の魔力を結晶化させて作った「超高濃度・魔力分解液」が入っている。

「ちょっと、そこの泥だらけの騎士団長様。この剣をしっかり押さえていてくださる? 私、自分の腕を汚したくないの」

「あ、ああ……承知しました、リセット様」  騎士団長のカイルが、戸惑いながらも跪き、錆びた剣を両手で固定した。

「いい? 瞬き厳禁よ。私の仕事は早いんだから。……研磨(カット)、開始」

 私は小瓶の液体を一滴、剣の根元に落とした。  シュァァァ……! と、不気味な紫色の煙が立ち上る。  私はそのまま、素手で(といっても魔力の膜で完全に保護しているが)、その錆びた刀身をなぞるように滑らせた。

 すると、どうだろう。  指が通った場所から、ボロボロと赤錆が剥がれ落ちていく。その下から現れたのは、磨き上げられた鏡のような銀色の輝き。いや、それは銀ではない。星の光をそのまま物質化したような、透き通るような白銀の刃だった。

「……なっ!? なんだ、この輝きは……!」 「剣そのものが、歌っているのか……?」

 騎士たちがどよめく。  私が最後の一撫でを終えると、武器庫全体が、昼間のような眩しい光に包まれた。  錆びた鉄の棒だったものは、今や、見る者の魂を射抜くような気高さを湛えた、究極の一振りへと変貌していた。

「はい、お掃除完了。……『エストレア』。眠りから覚めなさい。あなたの新しい主は、この泥まみれの騎士団長様よ」

 私が剣の柄をカイルに向けた瞬間、剣は意志を持っているかのように、彼の魔力と共鳴して柔らかな光を放った。

「……リセット。君は、歴史さえも鑑定して、引きずり戻してしまうのか」  エドワルドが、私の背後からそっと腰を引き寄せた。その腕の力は、昨日よりも強くなっている。

「歴史なんてどうでもいいわ。私はただ、このボロボロの剣を見ていたら、自分の寝不足の顔を鏡で見ているような気分になってイライラしただけ。……綺麗になったでしょう? これで私の心(視界)もスッキリしたわ」

「……はは、相変わらずだな。だが、これだけ見事な『磨き』を見せつけられて、私が黙っていられると思うか?」

 エドワルドの唇が、私の耳元に触れる。   「……騎士たちの剣を磨くのはいい。だが、今夜は、私という原石をじっくりと磨いて(愛して)もらう時間を作ってもらうぞ。拒否は許さない。……私の独占欲が、鑑定不能なほどに高まっているからな」

(((……ああ、もう。鑑定結果:この皇帝、隙あらば私をベッドへ連行しようとする不純物。……私の安眠が、また一振りの剣と共に切り裂かれていく……!)))

 リセットの「鑑定眼」は、帝国の武力を劇的に引き上げた。  しかし、その代償として、彼女は皇帝からのさらに「重い」夜の公務を課せられることになるのであった。
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