婚約破棄、感謝いたします! 毒舌鑑定令嬢は一歩も動かず国を豊かにして二度寝したい 〜氷の皇帝を『研磨』したら、愛が重すぎて眠れません〜

小林 れい

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第二巻:泥だらけの騎士団編

第十六話:【戦端】王子襲来。私の眠りを邪魔する軍勢は、まとめて「スクラップ」よ。

 帝国の国境沿い。かつては永遠に凍土が続く静寂の地だったその場所に、今、王国の軍勢が地鳴りのような進軍の音を響かせていた。  先頭に立つのは、黄金の鎧に身を包み、自分を太陽か何かと勘違いしている男――リセットの元婚約者、ジークフリート王子である。

「愚かな帝国め。我が聖女を侮辱し、王国に送り返した罪、その血で購うがいい! リセットも、今更泣いて許しを乞うても遅いぞ!」

 ジークフリートが抜いた剣を天に掲げる。その後ろには、数千の歩兵と、王国自慢の「重装魔導騎士団」が、自慢の厚い鉄板に身を固めて並んでいた。

 一方、帝国の防衛線。  そこには、たった百名の騎士団と、一台の「最高級カシミア仕様の寝椅子(デイベッド)」に横たわる一人の少女がいた。

「……ふわぁぁ……。陛下、あのアホ王子の声、鑑定するまでもなく『安眠妨害の極み』ですわ。あんな騒音公害を放置して、私の耳の健康状態が悪化したらどう責任をとってくださるの?」

 リセットは、アイマスクをずらしながら、隣に立つエドワルドを睨み上げた。  エドワルドは、リセットが開発した白銀の超軽量鎧『アムルタート』を纏い、もはや人知を超えた美しさを放ちながら、愛おしそうに彼女の髪を撫でる。

「すまない、リセット。すぐに終わらせよう。……カイル、準備はいいか」 「はっ。国母様の『掃除(鑑定)』に合わせ、一気に畳み掛けます」

 騎士団長カイルを筆頭に、帝国騎士たちは全員、リセットによって「洗車」され、筋肉の一本まで最適化された肉体を持っていた。彼らが纏うのは、羽のように軽く、しかしダイヤモンドをも弾く魔導合金の鎧だ。

「……いいわ。さっさと終わらせて、私は二度寝の続きをしたいんだから。……鑑定開始」

 リセットの瞳が、眩い黄金色に染まる。  彼女の視界は、数キロ先に展開する王国軍を、原子レベルの解像度で捉えていた。

【鑑定対象:王国・重装魔導騎士団】 【状態:時代遅れの『鉄の棺桶』。魔導回路の継ぎ目が、あまりの重量で歪んでいるわ。】 【急所:前列三列目の、右から五番目。そこの魔力供給源に微細な『ヒビ』があるわね。そこを突けば、ドミノ倒しみたいに全員の機能が停止(スクラップ)するわ。】

「……カイル。あそこの、金ピカの飾りが付いたお馬鹿さんの、ちょうど三歩後ろ。そこに矢を一発、叩き込みなさい。加減は鑑定の結果『無用』よ。思いっきり、私の睡眠を邪魔された怒りを込めていいわ」

「御意!」

 カイルが、リセットが研磨した「魔導長弓」を引き絞る。  放たれた一本の矢は、音を置き去りにする速度で空中を走り、正確にリセットが指摘した「一点」を貫いた。

 ――次の瞬間、戦場に異様な音が響いた。  パキィィィィン!! という、硬い結晶が砕けるような音。  それを皮切りに、王国の騎士たちが纏っていた重厚な鎧の魔導回路が次々とショートし、過負荷を起こした鎧がその場で「凍結」し始めた。

「な、なんだ!? 身体が動かん! 鎧が、鎧が重すぎる!」 「熱い! いや、冷たい! 魔力が逆流しているぞ!」

 自慢の厚い装甲が、皮肉にも彼らを閉じ込める「牢獄」へと変わる。数千の軍勢が、たった一本の矢で、一歩も動けない鉄くずの山と化したのだ。

「……鑑定終了。……陛下、あそこに転がっている『ゴミの山』、資源として回収すれば、私の新しいベッドのスプリングの材料くらいにはなるんじゃないかしら?」

 リセットは、寝椅子から立ち上がりもせず、冷たく言い放った。  ジークフリートは、動かなくなった自軍の真ん中で、腰を抜かして震えていた。

「ば、馬鹿な……。リセット、貴様、一体どんな呪いを……!」

「呪い? 心外ね。私はただ、あなたたちが気づかなかった『欠陥』を教えてあげただけよ。……ジークフリート様。鑑定結果を教えてあげる。……あなたの価値は、その汚い黄金の鎧を含めても、私の部屋の掃除用ブラシ一本分にも満たないわ。……さっさとそのスクラップと一緒に、王国へ転がってお帰りなさい」

 リセットの言葉に、帝国騎士団から地響きのような哄笑が上がる。  エドワルドは、満足げにリセットを横抱きにすると、そのまま戦場を背にして歩き出した。

「……見事だ、リセット。君の一言で、戦争が『大掃除』に変わってしまったな」

「……当たり前でしょう。不純物は早めに片付けるのが、鑑定士の鉄則よ。……それより陛下。抱きかかえる角度を、あと三度ほど微調整してくださる? さっきから背中のスプリングが当たって、二度寝の導入に支障が出ているの」

「……はは、承知した。……今夜は、戦勝祝いだ。……だが、君を祝うのは私一人だけでいい。……私の胸の中で、朝までじっくりとその『宝石の輝き』を鑑定させてもらうよ」

(((……鑑定結果:結局こうなるの。……戦争が終わっても、この皇帝の独占欲という名の『過積載』は、一向に軽くなる気配がないわ……!)))

 王国軍を「一歩も動かずに」壊滅させたリセット。  彼女の伝説は、もはや「有能」という言葉では足りない、帝国の絶対的な「女神」として大陸中に広まっていく。  そして、執着を極めた皇帝との、甘くも激しい「夜の公務」は、さらに密度を増していくのであった。
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