婚約破棄、感謝いたします! 毒舌鑑定令嬢は一歩も動かず国を豊かにして二度寝したい 〜氷の皇帝を『研磨』したら、愛が重すぎて眠れません〜

小林 れい

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第二巻:泥だらけの騎士団編

第二十話:【完結】鑑定令嬢、騎士団の主になる。……え、私の安眠は?

 北の鉱山に春の風が吹き抜け、氷河が溶け出した数日後。帝都シュタルクの中央広場には、見渡す限りの群衆と、磨き抜かれた白銀の鎧を纏う新生「第一騎士団」が集結していた。

 リセットは、あくびを噛み殺しながら、式典台の特設ソファ(最高級ベルベット仕様)に沈み込んでいた。

「……陛下、いい加減にしてくださる? 鑑定の結果、今日の私のコンディションは『屋外活動不適合』なの。このままだと、民衆の歓声という名の騒音で、私の貴重な午後のうたた寝時間が不純物(ストレス)に変換されてしまうわ」

 リセットは、黄金の縁取りがなされた豪奢な礼装に身を包んだエドワルドを睨みつけた。しかし、エドワルドは余裕の笑みを浮かべ、彼女の指先をそっと絡め取る。

「安心しろ、リセット。君の眠りを守ることこそ、今の私の、そしてこの騎士団の最優先事項だ。……さあ、皆が待っている。君が作り上げた、この国の『新しい姿』を」

 エドワルドが前へ踏み出すと、広場は水を打ったような静寂に包まれた。

「帝国臣民よ! 見よ、この大地を! 呪われた氷は溶け、古代の巨兵は今や我らを暖める太陽となった! そして、我が騎士団が纏うのは、世界を統べるに相応しい最強の翼だ!」

 地鳴りのような歓声が上がる。かつて泥にまみれ、絶望に沈んでいた騎士たちは、今やリセットの鑑定と研磨によって、一人が一軍に匹敵する「超人」へと変貌していた。

「この奇跡を成し遂げたのは、私の隣にいる一人の女性――リセット・クォーツである! 彼女の瞳は真実を見抜き、彼女の指先はあらゆる不純物を宝へと変えた!」

 リセットは「……勝手に盛り上がらないでほしいわ。私はただ、暖かい部屋で寝たかっただけよ」と毒を吐こうとしたが、エドワルドの次の言葉が、彼女の思考を完全にフリーズさせた。

「ゆえに、私はここに宣言する! リセット・クォーツを、帝国全軍を統べる『総大将(グランドマスター)』、そして……我が正妃として迎えることを!」

「……はぁ!?!? 陛下、ちょっと待ちなさい! 鑑定、鑑定再試行!!」

 リセットは思わず立ち上がり、黄金の瞳でエドワルドをスキャンした。

【鑑定対象:エドワルド・フォン・シュタルクの宣言】 【成分:真実 100%、独占欲 500%、法的拘束力 1000%】 【判定:……嘘じゃない。この皇帝、私を公式に『私有財産(きさき)』にして、一生こき使う気だわ……!】

「リセット、もう逃げられないぞ。君がこの騎士団を『私の私兵』に変えたのだから、君がその主となるのは必然だろう? 君がいなければ、彼らの鎧も剣も、ただの飾りに戻ってしまうのだからな」

 エドワルドは跪き、リセットの手の甲に誓いのキスを落とした。  騎士たちが一斉に剣を抜き、天に掲げる。

「「「総大将リセット様! 帝国に、そして国母様に永遠の忠誠を!!」」」

 一万を超える騎士たちの叫びが、帝都を震わせる。  リセットは真っ青な顔で、目の前の光景を絶望的に見つめた。

「……最悪だわ。鑑定結果:私の『ニート生活』完全消滅のお知らせ、ね。……総大将なんて役職、昼寝の時間があるわけないじゃない! 陛下、今すぐその発言を『不純物』として削除して!」

「断る。……君が寝たいと言うなら、私の腕の中で、この国の政務をすべて見守りながら寝ればいい。……リセット、君はもう、この国の心臓なのだから」

 エドワルドはリセットを力強く抱き寄せ、民衆に向かって誇らしげに彼女を掲げた。  降り注ぐ祝福の花吹雪。湧き上がる喝采。  そのど真ん中で、リセットは「……ああ、この皇帝、絶対に研磨しきれない不純物(しゅうちゃく)の塊だわ……」と、幸せと諦めが混ざった溜息をつくのだった。

 こうして、泥だらけだった騎士団は世界最強の軍勢となり、その頂点には「一歩も動きたくない毒舌令嬢」が君臨することとなった。  王国のジークフリート王子が、リセットを失った損失を「国家予算三百年分」と鑑定され、絶望に暮れるのはまた別の話である。

 リセットの戦いは(あるいは二度寝への執着は)、まだ始まったばかりだ。
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