婚約破棄、感謝いたします! 毒舌鑑定令嬢は一歩も動かず国を豊かにして二度寝したい 〜氷の皇帝を『研磨』したら、愛が重すぎて眠れません〜

小林 れい

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第三巻:美食と内政編

第二十三話:【増殖】魔導小麦の品種改良。……これ、パンじゃなくて「巨大な森」ね。

「――陛下。鑑定結果を先に述べておくわ。私の我慢は、今この瞬間、不純物が一ミクロンも混じっていない『純度百パーセントの限界』に達したわよ」

 帝都シュタルクの中央広場。リセットは、腰まで埋まった「黄金色の海」の中で、怒りに震えながら立ち尽くしていた。  海、といっても水ではない。それは、わずか数時間前までは「実験用の植木鉢」に収まっていたはずの、異常な成長を遂げた『魔導小麦』の群生だった。

 始まりは今朝のことだ。宝石苺に合う「究極のフレンチトースト」を食べたいと願ったリセットが、古代の地層から見つけた小麦の種子に、鑑定眼で導き出した「成長促進のカット」を施したのが運の尽きだった。

「リセット、落ち着いてくれ。……いや、落ち着ける状況ではないのは分かっている。だが、まさか君が品種改良した小麦が、一晩で城壁を乗り越え、帝都のメインストリートを『黄金の森』に変えてしまうとは、私の鑑定眼……いや、予測の範疇を完全に超えていた」

 隣で同じく小麦の穂に埋もれているエドワルドが、苦笑いしながら剣で道を切り開こうとしている。しかし、切っても切っても、小麦はリセットが与えた「生命力の研磨」によって、瞬時に再生し、さらに青々と生い茂るのだ。

「……私のせいだって言いたいの? 私はただ、最高にモチモチした食感と、噛むほどに甘みが溢れ出す『究極の穀物』を鑑定しただけよ。……鑑定開始。……あら、この子たち、私の魔力を吸いすぎて、自分が『パンの材料』だってことを忘れて、ただの『侵略的外来種』に進化しちゃってるわね」

 リセットの瞳が、黄金色に激しく明滅する。

【鑑定対象:リセット式・魔導小麦(暴走状態)】 【状態:成長速度が通常の三千倍。帝都の地下水路の魔力を吸い尽くそうとしている。】 【真実:このままでは帝都が『パンの森』に沈む。……ただし、一点。】 【弱点:穂の先端に集まった『過剰な糖分』。これを一気に結晶化(フリーズ)させれば、成長は止まり、最高級の小麦粉が収穫できる。】

「……はぁ。お掃除の時間ね。……陛下、遊んでないで手伝いなさい。あなたの『氷の魔力』を、私の指先に集中させて。……不純な殺意じゃなくて、優しく包み込むような『急速冷凍』のイメージよ」

「……分かった。君の指先に、私のすべてを預けよう」

 エドワルドが背後からリセットを抱きしめるようにして、その両手に自身の膨大な魔力を流し込む。  リセットは、その熱すぎるほどの魔力を鑑定眼で一本の繊細な「針」のように細く、そして鋭く研ぎ澄ませた。

「――研磨(カット):瞬間糖化・成長凍結(フリーズ・シュガー)!!」

 リセットが地面に触れた瞬間、黄金色の海を白銀の波動が駆け抜けた。  ざわわ、と揺れていた巨大な小麦たちが、一瞬にしてその場で動きを止め、穂の先がキラキラとした琥珀色の結晶へと変わっていく。    数秒前まで帝都を飲み込もうとしていた脅威が、今や、見る者の目を奪う「黄金と白銀の芸術品」へと変貌を遂げたのだ。

「……ふぅ。……鑑定終了。……これでよし。陛下、騎士団を動員して、この『凍結した小麦』を全部回収させなさい。……今の衝撃で、小麦粉の粒子が極限まで細かくなっているわ。……これで焼いたパンを食べれば、あまりの軽さに、陛下も私も雲の上で寝ているような気分になれるはずよ」

 リセットは、疲れ果ててエドワルドの胸に体重を預けた。   「……ああ。君のせいで、帝都は救われ、そして世界最高の食糧庫になった。……リセット、君はやはり、この国の女神だな」

「女神なんて、鑑定の結果『燃費が悪い役職』よ。……そんなことより陛下、さっきから腰を抱く力が強すぎるわ。……不純物(下心)が漏れ出しているわよ?」

「……隠しきれなかったか。……君がこれほど素晴らしい『パンの種』を作ってくれたのだ。……今夜は、そのお返しに、私が君の心の中に『愛の種』をじっくりと……」

「……黙れ不純物。……おじいちゃん! 陛下をこの小麦の山の中に埋めておいて! 私は、焼きたてのパンの香りに包まれて、三日三晩、誰にも邪魔されずに眠るんだから!」

(((……鑑定結果:最悪。……お腹はいっぱいになりそうだけど、この皇帝の『食欲』という名の執着心だけは、どんなに研磨しても減る気配がないわ……!)))

 リセットの無茶苦茶な品種改良は、帝国の慢性的な食糧不足を一挙に解決し、後に「黄金の奇跡」と語り継がれることになる。  しかし、当のリセットは、膨大な小麦粉の在庫管理という新しい「仕事」が増えたことに気づき、さらに不機嫌を募らせるのであった。
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