婚約破棄、感謝いたします! 毒舌鑑定令嬢は一歩も動かず国を豊かにして二度寝したい 〜氷の皇帝を『研磨』したら、愛が重すぎて眠れません〜

小林 れい

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第三巻:美食と内政編

第二十五話:【環境】観光客が多すぎる。帝都、丸ごと「洗浄」してあげるわ。

「――陛下。鑑定結果を言うわよ。今の帝都の空気、不純物の密度が『私の許容範囲』を三千倍はオーバーしているわ。このままじゃ、私の肺が煤(すす)で研磨されちゃうわよ」

 リセットは、城のバルコニーから帝都のメインストリートを見下ろし、眉間に深い渓谷を作っていた。  かつては氷に閉ざされた静かな街だったシュタルクは、今や変貌を遂げていた。リセットが生み出した「宝石苺」と「魔導小麦」、そして「春のような温かさ」を求めて、大陸中から商船や観光客の馬車が押し寄せていたのだ。

 活気があるのは良いことだ。だが、リセットにとっては最悪だった。  馬の落とし物、屋台から出る油煙、そして何より――「騒音」だ。

「リセット、そう言うな。我が国の国庫は今、君のおかげで溢れんばかりだ。民も豊かになり、冬に怯えることもなくなった。……ただ、確かにこの『活気』は、君の安眠には少しばかり不向きかもしれないな」

 エドワルドが背後からリセットの腰を引き寄せ、その首筋に顔を埋める。彼はリセットの不機嫌な香りを、極上のアロマであるかのように楽しんでいた。

「少しどころじゃないわ。鑑定開始。……街の石畳に染み付いた油、観光客が捨てたゴミ、それらが混ざり合って『不浄の魔力』を形成している。……このまま放置すれば、私の大好きな『清潔なシーツの香り』が、不純物に汚染されてしまうわ。……陛下、許可しなさい。今からこの街、丸ごと『研磨(クリーニング)』してあげる」

 リセットの瞳が、かつてないほど鮮やかな黄金色に輝く。

【鑑定対象:帝都シュタルク(広域環境)】 【状態:急速な発展に伴う『環境不純物』の蓄積。】 【解決策:古代の巨兵が供給している地下水路の熱源を利用し、街全体を『自動循環式・魔導洗浄都市』に書き換える。】 【評価:壮大な無駄遣い。……でも、私の二度寝環境を守るためには必須。】

「……陛下、あなたの氷の魔力で、地下水路の水を一瞬だけ『超高圧の蒸気』に変えて。……おじいちゃん、騎士団に命じて、マンホールの蓋を全部開けさせなさい! 一滴の汚れも残さないわよ!」

「……はは、街全体を洗濯機にするつもりか。いいだろう、付き合うぞ、わが妻よ」

 数刻後。帝都の地下で、エドワルドの膨大な魔力がリセットの「鑑定回路」を通じて解き放たれた。  リセットが街の設計図を脳内で再構築し、不純物を効率的に排出するための「研磨の筋道」を引く。

「――研磨(カット):広域浄化・大循環(グランド・クリーン)!!」

 シュアァァァァァ!!  帝都中の石畳の隙間、排水溝、果ては建物の外壁から、真っ白な魔導蒸気が一斉に噴き出した。  観光客たちが「なんだ!?」「火事か!?」と慌てふためく中、その蒸気は汚れだけを吸着し、空中で結晶化して、キラキラとした「塵のダイヤモンド」となって空へ消えていく。

 蒸気が晴れたとき、そこには奇跡のような光景が広がっていた。    石畳は新築の神殿のように磨き上げられ、空気は高山の上層部のように澄み渡っている。さらに、リセットが水路に仕込んだ「消音の魔石」の効果で、あれほど騒がしかった街の喧騒が、柔らかなさざ波のような音へと変換されていた。

「……ふぅ。……お掃除完了。……これでよし。陛下、これからは帝都に入る不純物(かんこうきゃく)には、門で『自動洗浄魔法』を浴びることを義務付けなさい。……私の街を汚す権利は、誰にもないんだから」

 リセットは満足げに、新しくなった空気を深く吸い込んだ。

「……見事だ、リセット。君はついに、環境すらも鑑定して支配したか。……だが、街がこれほど静かになったら、今度は私の『声』が、より鮮明に君の寝室に届いてしまうな」

 エドワルドが、リセットの耳元で低く、熱い吐息を漏らす。

「……え、何よ。……鑑定の結果、陛下、あなたの喉からは『今夜は一睡もさせない』っていう不純な振動が検出されているんだけれど」

「……当たりだ。街を綺麗にしたご褒美に、今夜は私という『最大の汚れ(執着)』を、君のその白い肌にたっぷりと刻み込ませてもらおう。……逃がさないぞ、リセット」

(((……鑑定結果:最悪。……街を掃除したら、陛下の『欲望の音』だけがクリアに聞こえるようになっちゃったじゃない。……私の静寂な夜、またしても不純物に占拠されたわ……!)))

 帝都を「魔法洗浄都市」へと変貌させたリセット。  彼女の潔癖さは、期せずして世界で最も美しい首都を創り出し、さらに観光客(と皇帝の愛)を呼び寄せる結果となるのであった。
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