婚約破棄、感謝いたします! 毒舌鑑定令嬢は一歩も動かず国を豊かにして二度寝したい 〜氷の皇帝を『研磨』したら、愛が重すぎて眠れません〜

小林 れい

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第三巻:美食と内政編

第二十七話:【素材】伝説の霊樹を鑑定。……これ、最高の「枕」になるわね。

「――陛下。鑑定結果を先に述べるわ。私の首の角度は、今この瞬間、既存の枕では決して埋められない『絶望の隙間』を感じているの。このままでは、明朝の私の機嫌は不純物で溢れかえり、帝都の半分が私の毒舌で凍りつくわよ」

 帝国の隣国、静寂に包まれた「聖なる森」の入り口。リセットは、移動式寝椅子に深く沈み込みながら、目の前の広大な森を冷徹に睨みつけていた。  この森の最奥には、千年生きると言われる伝説の霊樹『ユグドラ・シード』が鎮座している。その樹木は精霊の加護を受け、傷つけることさえ不遜とされる神域の象徴だ。

「リセット、落ち着け。君が『首が痛くて眠れない』と涙ぐむ(ように見えた)から、こうして軍を動かしてまで神域に来たんだ。……だが、本当にあの霊樹を伐(き)るつもりか? 伝説では、あれを傷つけた者は七代先まで呪われるというが」

 エドワルドが、リセットの首の付け根を優しく揉みほぐしながら苦笑する。彼の指先は、彼女の凝り固まった筋肉を、まるで宝石の原石を慈しむように丁寧に扱っていた。

「呪い? 鑑定開始。……陛下、そんな古い不純物に怯えているなんて、あなたの脳みそも研磨が必要かしら? ……あの樹、中身をスキャンしてみなさいな。あれはただの木じゃない、最高級の『形状記憶魔導繊維』の塊よ」

 リセットの瞳が、神域の霧を貫き、黄金色の閃光を放つ。

【鑑定対象:伝説の霊樹『ユグドラ・シード』】 【真実:千年かけて凝縮された魔力により、細胞一つ一つが『衝撃吸収』と『温度一定保持』の機能を備えている。】 【評価:世界最強の盾を作る材料……ではなく、私の頭の形に一ミリの狂いもなくフィットする『究極の枕の芯材』。】

「行くわよ。精霊なんて、鑑定の結果『私の安眠を妨げるだけの騒音不純物』だわ。……さっさと黙らせて、最高の寝心地を手に入れるの」

 森の最奥、黄金の葉を茂らせた巨樹の前にたどり着いた時、森の守護者である精霊たちが実体化し、リセットたちの行く手を阻んだ。

『愚かな人間よ。神聖なる母なる樹に触れることは許されぬ。去れ、さもなくば永遠の眠りを与えん……!』

「永遠の眠り? 鑑定結果:却下。……あなたの言う眠りは、ただの『死』という不純物でしょう? 私が求めているのは、最高に快適な『二度寝』なの。……どきなさい、自意識過剰な光の塊ども」

 リセットは、エドワルドが制止する間もなく、懐から特製の「研磨液(エッセンス)」を取り出した。それは、対象の魔力結合を一時的に緩め、対象を「無機質な素材」へとダウングレードさせる、リセット独自の魔導薬だ。

「――研磨(カット):神域剥離・素材化(マテリアライズ)!!」

 リセットが霊樹の根元に薬を振りまき、指先で大気の周波数を弾いた。  次の瞬間、森全体を覆っていた威圧的な神気が、霧散するように消え去った。黄金に輝いていた霊樹は、リセットの鑑定によって「ただの非常に質の良い木材」へと再定義(リセット)されたのだ。

「……えっ? 森の守護が……一瞬で無力化された……?」  呆然とする精霊たちを尻目に、リセットは霊樹の枝の「最も柔らかい部分」を指差した。

「陛下、あそこの枝を三メートル分、正確にカットして。……切り口は、私の肌を傷つけないように、あなたの魔力で鏡面仕上げにするのを忘れないで。……おじいちゃん! 職人たちを呼びなさい。今夜中に、私の頭蓋骨の曲線を三次元鑑定して、世界一の枕を仕立て上げるわよ!」

「……はは、君には神も精霊も、ただの『便利な日用品』に見えるのだな」  エドワルドは呆れながらも、リセットの願いを叶えるべく、一振りで霊樹を切り出した。

 その夜、帝国のキャンプ地。  リセットは、完成したばかりの『霊樹の枕』に頭を預けていた。

「……。……あ……。鑑定、修正。……これ、……最高だわ。私の後頭部が、宇宙の真理と一体化したような……不純物ゼロの……無音の世界……」

 リセットは言葉の途中で、今までにないほど深く、幸せそうな寝息を立て始めた。

「……おやすみ、私の愛しい総大将。君が最高の眠りを得たのなら、この遠征も報われるというものだ」  エドワルドは、月明かりの下、リセットの寝顔をじっと見つめていた。しかし、彼の瞳には別の「鑑定結果」が浮かんでいた。

「……だが、リセット。君がそんなに深く眠ってしまうと、私の『夜の公務』の相手がいなくなってしまうな。……この枕、君が寝返りを打った瞬間に、私の腕の中へ誘導するように『微調整(研磨)』させてもらうぞ」

(((……鑑定結果:最悪。……枕の素材は完璧なのに、それを支える『陛下の腕』が不純な熱を帯びていて、結局朝まで安眠できなかったわ……!)))

 伝説の霊樹を枕に変えたリセット。  彼女の「安眠」への渇望は、世界中の神秘を「便利な道具」へと変え、帝国をあらゆる意味で史上最強の国家へと導いていく。
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