婚約破棄、感謝いたします! 毒舌鑑定令嬢は一歩も動かず国を豊かにして二度寝したい 〜氷の皇帝を『研磨』したら、愛が重すぎて眠れません〜

小林 れい

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第三巻:美食と内政編

第二十八話:【物流】ガタガタ道は安眠の敵。山も谷も「平ら」に研磨よ。

「――陛下。私の鑑定眼が、今この瞬間にも『脳のシェイク』という名の拷問を検知しているわ。この馬車の振動、鑑定するまでもなく、私の三半規管に対する宣戦布告と受け取ってよろしいかしら?」

 霊樹の森からの帰り道。最高級の魔導馬車に乗っているはずのリセットだったが、その表情は険悪そのものだった。  道中の旧街道は、帝国の厳しい冬の影響で地面が凍上し、無数のひび割れと凹凸ができていた。リセットの「究極の枕」をもってしても、この突き上げるような振動は防ぎきれなかったのだ。

「すまない、リセット。帝国の北部は地盤が硬く、整備が追いついていないんだ。……だが、これでも大陸で最も整った街道の一つなのだがな」

 エドワルドが、揺れる馬車の中でリセットの身体が浮かないよう、その細い腰をしっかりと抱き寄せ、自身の魔力をクッション代わりにしていた。だが、リセットの不機嫌は加速する一方だった。

「『一つ』? 笑わせないで。鑑定開始。……この街道、勾配の付け方が不純物だらけ。不必要なカーブ、計算ミスによる段差、そしてこの無駄な迂回ルート……。私の安眠を阻害するすべての要因が、この地面に刻まれているわ。……陛下、もう我慢できない。今からこの帝国の土壌、丸ごと『研磨(フラット)』してあげるわ」

 リセットが馬車のドアを蹴り開け(実際には重いのでエドワルドに開けさせ)、走行中の馬車の屋根の上に飛び乗った。  風に靡く白銀の髪、そして黄金色に燃え上がる瞳。

【鑑定対象:帝国北部街道、および周辺地形】 【状態:非効率な蛇行。山脈のせいで魔力と物流が滞っている。】 【真実:山を避けるから揺れるのよ。……山を『抜く』か『削る』かすれば、そこには最短の直線(安眠の道)が生まれるわ。】 【評価:世界一長い、揺れない『ベッド専用レール』の建設が必要。】

「……陛下! 騎士団の魔力を私に繋ぎなさい! 古代の巨兵から引き出した熱源、その余剰出力を全部、私の指先の『カット』に集中させて!」

「リセット、まさか……地形そのものを研磨するつもりか!? 正気か!」

「正気よ。寝不足の女が一番恐ろしいってことを、この大地に刻み込んであげる! 研磨(カット):大地平坦化・重力回廊(グランド・スライサー)!!」

 リセットが空に向かって指先を振り下ろした。  次の瞬間、帝都へと続く険しい山脈が、まるで熱したナイフでバターを切るかのように、音もなく「一文字」に切り裂かれた。

 ズズズ、ズズォォォォォ……!  リセットの放った魔力波が、山を削り、谷を埋め、地表の不純物を一瞬で分子レベルで平らにならしていく。その後に残されたのは、土でも石でもない、リセットが研磨した「摩擦ゼロ」の平滑な魔導舗装路だった。

「……はぁ、……はぁ。……お掃除完了。……陛下、今すぐこの道に『浮遊式魔導列車』を通しなさい。……車輪なんていう不純な振動源は不要よ。魔力で浮いて、直線で走る。……これなら、私が寝返りを打つ暇もなく帝都に着くはずだわ」

 リセットは、眩暈(めまい)に耐えながらエドワルドの腕の中に崩れ落ちた。  彼女がたった一振りで作り出したのは、後に「リセット・ハイウェイ」と呼ばれる、大陸の物流を百倍に加速させる伝説の超特急ルートだった。

「……信じられん。君は、自分の快眠のために、一晩で帝国の防衛境界(山脈)を貫通させ、大陸の地図を書き換えたのか……」

「……防衛なんて、鑑定の結果『私がよく寝て、機嫌が良いこと』に勝るメリットはないわ。……それより陛下。道が平らになったんだから……さっさと馬車を走らせて。……私は、この振動のない世界で、三日三晩……泥のように……寝るんだから……」

 リセットは、エドワルドの胸板を枕に、そのまま深い眠りに落ちた。   「……ああ、分かった。君が作ったこの真っ直ぐな道のように、私の愛も、君の心に向かって一切の迷いなく最短距離で突き進ませてもらおう。……寝顔まで鑑定し尽くす時間は、たっぷりあるからな」

(((……鑑定結果:最悪。……道は平らになったのに、馬車を抱きかかえる陛下の腕が情熱で震えていて、結局バイブレーション機能付きのベッドで寝ているような気分だわ……!)))

 リセットの「安眠への怒り」が生んだ、史上空前のインフラ整備。  それは帝国の経済を爆発的に発展させ、他国の軍隊が「真っ直ぐすぎて攻めにくい」と戦慄する、鉄壁の魔法都市国家へと進化させるきっかけとなった。
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