婚約破棄、感謝いたします! 毒舌鑑定令嬢は一歩も動かず国を豊かにして二度寝したい 〜氷の皇帝を『研磨』したら、愛が重すぎて眠れません〜

小林 れい

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第三巻:美食と内政編

第三十話:【完結】誘拐犯、寝起きの鑑定令嬢に「解体」される。……二度寝、邪魔したわね?

 その夜、帝都はかつてないほどの静寂に包まれていた。リセットが研磨した「無菌寝具」と、エドワルドが敷いた「消音の結界」。すべては彼女の安眠のために整えられた、完璧な聖域(サンクチュアリ)だったはずだった。

 しかし。  「……鑑定結果:最悪。……私の意識の表層を撫でる、この下品な魔力の波形……。どこの不純物かしら、私のレム睡眠を土足で踏み荒らそうとしているのは」

 寝室の闇の中、リセットの瞳がカッと黄金色に燃え上がった。  窓から忍び込んだのは、王国と周辺諸国が秘密裏に結成した「対帝国特殊誘拐部隊」。リセットの鑑定眼という、大陸の勢力図を書き換える「戦略兵器」を盗み出そうとする、死を恐れぬ精鋭たちだ。

「……いたぞ。この小娘が、帝国を再生させた魔女か。眠っている間に魔封じの錠を――」

「鑑定開始。……あなたのその錠、成分の九割が『安物の鉄』と『歪んだ呪い』ね。……不純すぎて、触れるだけで私の肌が荒れそうだわ」

 リセットはベッドから起き上がりもせず、指先一つで虚空を弾いた。  キィィィィン!! という鋭い音が響き、誘拐犯たちが手にしていた魔導具が一瞬で砂へと帰した。

「な……!? 何をした!?」

「研磨(カット):構造崩壊。……いい? 今の私は、人生で最も深い眠りへと旅立つ直前だったの。それを邪魔された私の機嫌を鑑定するとね……今のあなたたちは、『即座にスクラップとして処理されるべき産業廃棄物』と出ているわ」

 リセットがゆっくりと立ち上がる。その纏う空気は、かつての追放令嬢のものではなく、一国を支配する「総大将」としての、暴力的なまでの威圧感に満ちていた。

【鑑定対象:誘拐部隊、およびその背後の黒幕(遠隔通信)】 【状態:王国の残党と、美食を羨む周辺諸国の共謀。】 【真実:私を連れ去れば、自分たちが豊かになれると錯覚しているわ。】 【評価:救いようのないゴミ。……私の寝室を汚した罪、その『国家の屋台骨』を研磨することで購わせるわ。】

「……陛下、起きなさい。……隠れて見ていないで、さっさとこの不純物(ネズミ)たちを掃除して。……私は今から、この糸を引いている『王国』の城門ごと、物理的にリセットしてくるから」

 影から現れたエドワルドは、怒りと愛しさが混ざり合った、凄絶な笑みを浮かべていた。 「……やはり起きたか。リセット、君の眠りを邪魔した罪は重い。……だが、『城門ごと研磨する』というのは、名案だな」

「――研磨(カット):因果反転・広域解体(ワールド・リセット)!!」

 リセットが、窓の外にある王国の方向を指差した。  彼女の鑑定眼が、数百キロ先にある「王国の防衛結界」の脆弱な一点を補足し、そこに帝国の地下を流れる膨大な魔力を、直線(ハイウェイ)を通じて一気に送り込んだ。

 ――次の瞬間。  王国の王城にあるすべての門、窓、そしてジークフリート王子が隠れていた秘密の扉までが、まるで「研磨されすぎたガラス」のように、粉々に砕け散った。    武器は壊れ、鎧は砂になり、不純な野望だけが丸裸にされる。  王国の軍事力は、リセットの「寝起きの八つ当たり」一回で、完全に無力化(デリート)されたのだ。

 翌朝。  帝都の寝室には、何事もなかったかのような静寂が戻っていた。  リセットは、エドワルドの腕の中で、今度こそ泥のような深い眠りに落ちていた。

「……リセット。君はついに、寝言一つで一国を更地にしてしまったな。……だが、おかげでこれで本当の平和が訪れる。……君を狙う者も、君を揺り起こす者も、もうこの大陸には存在しない」

 エドワルドは、リセットの白銀の髪を愛おしそうに撫で、彼女の耳元で囁いた。

「……だが、私だけは例外だ。……リセット。この国がどれほど豊かになろうと、私の君への『飢え』だけは、君の鑑定眼でも満たせないほど深いのだからな。……生涯をかけて、君を研磨し、愛で尽くすと誓おう」

 リセットは、眠りの中でわずかに眉を寄せ、「……陛下、……。……鑑定、修正。……愛が、……重すぎる不純物……」と小さく呟き、彼に抱きついた。

(((……鑑定結果:完。……美食も内政も完璧に整えたけれど、結局この皇帝の『腕の中』が一番、逃げ場のない不自由で……最高に寝心地の良い場所だったわ……!)))

 こうして、帝国の冬は終わり、美食と清潔に満ちた黄金時代が幕を開けた。  「鑑定令嬢」リセット・クォーツの伝説は、これより後の歴史において、世界を救った聖女としてではなく、「最高に寝起きの悪い、世界一有能な独裁者」として語り継がれていくことになるのである。
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