婚約破棄、感謝いたします! 毒舌鑑定令嬢は一歩も動かず国を豊かにして二度寝したい 〜氷の皇帝を『研磨』したら、愛が重すぎて眠れません〜

小林 れい

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第四巻:怒涛の海洋・通商編

第三十六話:【観光】古代神殿を発見。……ここ、最高の「温泉施設」ね。

「――陛下。鑑定結果を述べるわ。あそこに浮上した巨大な白い大理石の構造物……あれは、古代人が神を祀るために建てた『祈りの場』なんかじゃないわ。私の頑固な肩こりと冷え性を根こそぎ研磨するために用意された、世界最高の『温熱スパ施設』よ」

 浄化されたオリハルコンの金印が引き金となり、海底から轟音と共に浮上したのは、伝説の「蒼海の神殿」だった。周囲に立ち込める魔力の霧は、見る者が跪くほどの神々しさを放っている。しかし、リセットはその神聖な光景を前にしても、日傘を回しながら呆れたような溜息をついた。

「リセット、さすがにそれは不敬が過ぎるぞ。あれは海神の怒りを鎮めるための、千年に一度しか姿を現さないと言われる聖域だ。歴史学者が聞けば卒倒するような大発見なのだが……」

 エドワルドが驚愕と苦笑の入り混じった表情で神殿を見上げる。だが、リセットの黄金の瞳は、すでに神殿の「装飾」ではなく、その「構造」と「熱源」を冷徹に解析していた。

「歴史学者の寿命なんて鑑定する価値もないわ。……いい、陛下。あの神殿の地下を見て。……鑑定開始。……地下数千メートルから湧き上がる『高純度魔力温泉(マナ・スプリング)』が、地脈の熱で完璧な四十一度に保たれているわ。さらに、この壁に使われている大理石……これ、微弱な振動で筋肉をほぐす『遠赤外線効果』があるじゃない。……神を祀る? 笑わせないで。こんな贅沢な設備、ただの『究極の癒やしスポット』以外の何物でもないわ」

【鑑定対象:蒼海の神殿(浮上状態)】 【内部設備:天然の魔力循環による自浄システム。および岩盤浴に最適な鉱石の床。】 【真実:神殿ではなく、古代貴族が安眠のために建造した『プライベート・サウナ』。】 【評価:私の冷え性と不眠を研磨するための、最高級の砥石(スパ)。】

「……おじいちゃん、騎士団に命じて、あの神殿の正面入り口に『本日貸切』の看板を立てなさい。……今からあそこの不純な魔力の淀みを掃除して、私が二度寝するための『極楽の湯』に仕上げてあげるわ」

 リセットは、腰を抜かしている神官たちを「邪魔よ、不純物」の一言で押しのけ、神殿の最深部にある『聖なる泉』へとたどり着いた。  そこには、かつての海神に捧げられたと言われる、透き通った青い水が満ちている。だが、リセットの目には、数千年の放置によって溜まった「残留魔力の煤」が見えていた。

「汚いわね……。神聖な水が、古臭い祈りの言葉でドロドロになっているわ。……こんなお湯に浸かったら、私の肌のキメが不純物でバグってしまうわよ」

 リセットは、懐から「浄化の魔石粉」を取り出すと、惜しげもなく泉へと振り撒いた。

「――研磨(カット):不純残留思念・一括洗浄(スパ・リセット)!!」

 リセットが指をパチンと鳴らす。瞬間、泉から眩い光が溢れ出し、重苦しかった神殿の空気が一変した。  どろりとしていた水は、水晶のように澄み渡り、心地よい温かさと共に、嗅ぐだけで自律神経が整うような芳醇な香気が立ち上る。

「……ふぅ。……お掃除完了。……陛下、何を見ているの? 私は今から、ここで一週間の『安眠休暇』を取るわ。……あなたも入りたいなら、不純な邪念を全部捨てて、外で百回くらい水浴びしてきてからにしてくれる?」

「……ククッ、神殿を銭湯代わりに使うのは、世界広しといえど君だけだろうな。……だが、よかろう。君がその湯で真っ白な肌をさらに磨き上げるというのなら、私も『海神』としての務めを果たさねばなるまい」

 エドワルドは、リセットが止める間もなく上着を脱ぎ捨て、湯気に煙る泉へと足を踏み入れた。

「ちょ、陛下! 私の安眠を邪魔しないでって言ったはずよ!」

「邪魔はしない。君の冷え性を、私の体温で『二重に研磨』してあげようと言っているんだ。……リセット。この神殿は今や、我ら二人だけの密室だ。……外の騎士たちには、明日の朝まで一歩も近づくなと命じてある。……今夜は、この聖なる湯の中で、君という至宝を隅々まで鑑定させてもらうよ」

 エドワルドが、湯船の中でリセットを背後から力強く引き寄せた。

(((……鑑定結果:最悪。……お湯の温度は完璧なのに、背中から伝わる陛下の『独占欲という名の熱量』が百度を超えているわ。……私の極楽サウナ、結局陛下に茹であげられる『熱帯夜』になっちゃったじゃない……!)))

 古代の神殿を「最高の温泉施設」へと変えたリセット。  彼女のこの暴挙は、後に「神を湯気に変えた令嬢」として後世に語り継がれ、帝国には世界中から富裕層が押し寄せる「海洋リゾート革命」をもたらすことになる。  しかし、リセット本人は、湯船の中でまで熱烈な愛を囁く皇帝をどう「研磨」すべきか、のぼせた頭で絶望的な鑑定を続けるのであった。
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