婚約破棄、感謝いたします! 毒舌鑑定令嬢は一歩も動かず国を豊かにして二度寝したい 〜氷の皇帝を『研磨』したら、愛が重すぎて眠れません〜

小林 れい

文字の大きさ
37 / 40
第四巻:怒涛の海洋・通商編

第三十七話:【接客】観光客が殺到。……不純な姫君は、泡にして流してあげるわ。

「――陛下。鑑定結果を述べるわ。あの港に停泊している極彩色の客船群、あれは富を運ぶ使者じゃない。私の静寂なスパ・ライフを汚染する『動く騒音公害』よ。あの中に詰まっている、香水臭い下心(よくぼう)の密度を鑑定したら、私の頭痛が神殿の柱をへし折りそうな勢いで加速しているわ」

 古代神殿を最高級温泉施設へとリフォームしてから数日。その噂は潮風よりも速く大陸を駆け抜け、リセットの「安眠」を脅かす事態を招いていた。神殿の入り口には、美貌と若さを求める周辺諸国の姫君や貴婦人たちが、我先にと詰めかけていたのだ。

「リセット、そう言うな。彼女たちは一回入浴するために、帝国の国庫が数ヶ月潤うほどの献上金を積んでいるんだ。……まあ、君の『聖域』を他人の肌で汚したくないという気持ちも分かるが」

 エドワルドが、不機嫌さのあまりシーツを噛み締めそうなリセットの肩を宥めるように叩く。しかし、リセットはその手を跳ね除け、黄金の瞳に冷徹な光を宿した。

「献上金? 鑑定開始。……そんな不純な金、私の前ではただの『着色された紙クズ』よ。……陛下、見て。あの並んでいる姫君たちの顔。……あの厚化粧の下には『帝国を色仕掛けで落とす』という粘着質な魔力がドロドロに渦巻いているわ。あんなものをこの泉に入れたら、私の研磨した純水が一瞬でドブ川に成り下がるわよ」

【鑑定対象:神殿前に集まった『美容難民』の一団】 【状態:表面上の美しさを装っているが、内側は他人の不幸を糧にする『魔力疲弊』。】 【真実:温泉に入りたいのではなく、温泉を背景に自撮り(肖像画)を撮って自慢したいだけ。】 【評価:私の泉に対する冒涜。……入浴の前に、その薄汚れた魂を『高圧洗浄』する必要あり。】

「……おじいちゃん。門の前に、私の特製『魔導自動洗浄門(オート・ウォッシャー)』を設置しなさい。……いい? 不純物含有量が五パーセントを超える者は、人間としてではなく『洗濯物』として処理するわよ」

 神殿の巨大な門の前に、リセットが即興で設計した魔導陣が展開された。それは門をくぐる者の「悪意」と「汚れ」を鑑定し、基準値を超える者を容赦なく洗浄するシステムだ。

 最初の一歩を踏み出したのは、隣国の「高慢な第三王女」だった。 「さあ、この伝説の湯で私の肌を……」

「――鑑定結果:不合格。……あなたのその、宝石苺を盗み出そうとしている左袖の隠しポケット、不純すぎるわ。……研磨(カット):一括泡洗浄・強制強制排出(バブル・バースト)!!」

 リセットが指先をピィンと弾いた瞬間、門から真っ白な魔導泡が爆発するように噴き出した。 「な、何これ!? 泡だらけで前が見え――あ、あががが!」

 王女は巨大な泡の塊に包まれ、まるで洗濯機に放り込まれたかのように空中を回転。そのまま「ポンッ!」という軽快な音と共に、遥か彼方の海面へと真っ直ぐ射出(ショット)された。

「……次。……鑑定結果:不合格。あなたの『皇帝陛下に媚薬を盛ろうとしている野望』、不純すぎて鼻が曲がりそうだわ。……泡になりなさい」

 シュアァァァ! ポンッ!!  次々と空を舞う姫君たち。海面には「ブクブクと泡立つ貴婦人たちの島」ができ上がっていく。その様子を、リセットはバルコニーから無表情に見下ろしていた。

「……ふぅ。……お掃除完了。……陛下、これでいいわね? 門をくぐり抜けたのは、心から安眠を求める三名の迷い猫(修道女)だけ。……彼女たちなら、私の隣で静かに本を読んでいても許してあげるわ」

 エドワルドは、海に浮かぶ「泡の山」を眺めながら、思わず天を仰いだ。 「……リセット。君の接客(洗浄)は、もはや外交問題という名の『嵐』を呼び寄せるレベルだな。……だが、不純な者たちを文字通り泡にして流す様は、見ていて実に爽快だ」

 エドワルドが背後からリセットの腰に手を回し、その耳元で深く囁く。

「……しかし、最大の不純物(私)が、まだこの神殿の中に残っている。……門を通る必要のない特権階級として、君を泡の中に沈めるのではなく、私の情熱という名の『熱湯』に沈めさせてもらおうか」

「……陛下、……。……鑑定、修正。……門に『皇帝禁止』のフィルターも追加しておくべきだったわ。……あなたの独占欲、泡で洗っても一ミリも落ちない『頑固なシミ』みたいで、本当に厄介だわ……!」

(((……鑑定結果:最悪。……観光客を掃除したせいで、神殿の中が『完全な密室』になっちゃったじゃない。……私の静かな湯治、またしても陛下の『過剰な愛情』にのぼせさせられる運命ね……!)))

 不純な欲望を泡にして流し去ったリセット。  彼女の「接客(物理)」は、大陸中の貴族たちを戦慄させたが、同時に「汚れなき魂を持つ者だけが辿り着ける聖域」という伝説を加速させ、帝国を精神文化の頂点へと導くこととなる。  しかし、リセット本人は、風呂上がりでもなお熱烈な鑑定(視線)を向けてくる皇帝を、どうやって「すすぎ」すべきか、深く悩むのであった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄?悪役令嬢の復讐は爆速で。

八雲
恋愛
「リリム・フォン・アスタロト! 貴様との婚約を破棄する!」 卒業パーティーの最中、婚約者である王太子エリオットから身に覚えのない罪を突きつけられた公爵令嬢リリム。隣には「真実の愛」を語るマシュマロ系男爵令嬢シャーリーの姿。 普通の令嬢なら泣き崩れる場面――だが、リリムは違った。

断罪現場に遭遇したので悪役令嬢を擁護してみました

ララ
恋愛
3話完結です。 大好きなゲーム世界のモブですらない人に転生した主人公。 それでも直接この目でゲームの世界を見たくてゲームの舞台に留学する。 そこで見たのはまさにゲームの世界。 主人公も攻略対象も悪役令嬢も揃っている。 そしてゲームは終盤へ。 最後のイベントといえば断罪。 悪役令嬢が断罪されてハッピーエンド。 でもおかしいじゃない? このゲームは悪役令嬢が大したこともしていないのに断罪されてしまう。 ゲームとしてなら多少無理のある設定でも楽しめたけど現実でもこうなるとねぇ。 納得いかない。 それなら私が悪役令嬢を擁護してもいいかしら?

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで魔物の大陸を生き抜いていく〜

西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」 主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。 生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。 その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。 だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。 しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。 そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。 これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。 ※かなり冗長です。 説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

【研磨】追放されたゴミ拾い令嬢、実は原子レベルの【磨き上げ】で世界を新生させる ~ボロ屋敷を神殿に、錆びた聖剣を究極の神器にリセットしたら、

小林 れい
ファンタジー
公爵令嬢アイリスは、触れたものを少しだけ綺麗にする地味なギフト【清掃(クリーニング)】しか持たない「無能」として、第一王子から婚約破棄され、帝国最果ての「不浄の地」へ追放される。 そこはかつての激戦地であり、呪われた魔導具や錆びた武器、さらには汚染された大地が広がる、文字通りの「ゴミ捨て場」だった。 しかし、彼女の能力の本質は【清掃】ではなく、対象の原子を整え、摩擦と不純物を極限まで削ぎ落とす【超精密研磨(ハイエンド・ポリッシュ)】だった。 アイリスが「安眠したい」という一心でボロ屋敷の一角を磨き上げた瞬間、その部屋は伝説の聖域を凌ぐ魔力を放ち始める。彼女が拾った「錆びた鉄くず」は、不純物を削ぎ落とされることで、神さえも斬り裂く「究極の神器」へと変貌を遂げていく。 やがて、彼女の作り出した「世界一清浄な場所」を求めて、呪われた英雄や、美しさを失った精霊たちが続々と集まり始め――。

悪役令嬢になったようなので、婚約者の為に身を引きます!!!

夕香里
恋愛
王子に婚約破棄され牢屋行き。 挙句の果てには獄中死になることを思い出した悪役令嬢のアタナシアは、家族と王子のために自分の心に蓋をして身を引くことにした。 だが、アタナシアに甦った記憶と少しずつ違う部分が出始めて……? 酷い結末を迎えるくらいなら自分から身を引こうと決めたアタナシアと王子の話。 ※小説家になろうでも投稿しています

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと

淡麗 マナ
恋愛
2022/04/07 小説ホットランキング女性向け1位に入ることができました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。 第3回 一二三書房WEB小説大賞の最終選考作品です。(5,668作品のなかで45作品) ※コメント欄でネタバレしています。私のミスです。ネタバレしたくない方は読み終わったあとにコメントをご覧ください。 原因不明の病により、余命3ヶ月と診断された公爵令嬢のフェイト・アシュフォード。 よりによって今日は、王太子殿下とフェイトの婚約が発表されるパーティの日。 王太子殿下のことを考えれば、わたくしは身を引いたほうが良い。 どうやって婚約をお断りしようかと考えていると、王太子殿下の横には容姿端麗の女性が。逆に婚約破棄されて傷心するフェイト。 家に帰り、一冊の本をとりだす。それはフェイトが敬愛する、悪役令嬢とよばれた公爵令嬢ヴァイオレットが活躍する物語。そのなかに、【死ぬまでにしたい10のこと】を決める描写があり、フェイトはそれを真似してリストを作り、生きる指針とする。 1.余命のことは絶対にだれにも知られないこと。 2.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。(これは実行できなくて、後で変更することになる) 3.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。 4.ノブレス・オブリージュ 公爵令嬢としての責務をいつもどおり果たす。 5.お父様と弟の問題を解決する。 それと、目に入れても痛くない、白蛇のイタムの新しい飼い主を探さねばなりませんし、恋……というものもしてみたいし、矛盾していますけれど、友達も欲しい。etc. リストに従い、持ち前の執務能力、するどい観察眼を持って、人々の問題や悩みを解決していくフェイト。 ただし、悪役令嬢の振りをして、人から嫌われることは上手くいかない。逆に好かれてしまう! では、リストを変更しよう。わたくしの身代わりを立て、遠くに嫁いでもらうのはどうでしょう? たとえ失敗しても10のリストを修正し、最善を尽くすフェイト。 これはフェイトが、余命3ヶ月で10のしたいことを実行する物語。皆を自らの死によって悲しませない為に足掻き、運命に立ち向かう、逆転劇。 【注意点】 恋愛要素は弱め。 設定はかなりゆるめに作っています。 1人か、2人、苛立つキャラクターが出てくると思いますが、爽快なざまぁはありません。 2章以降だいぶ殺伐として、不穏な感じになりますので、合わないと思ったら辞めることをお勧めします。