『レベルMAXの引退生活』 〜追放先でダラダラしていたら、いつの間にか世界最強の聖域になっていました〜

小林 れい

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第二巻:聖域の連鎖反応編

第二話:【流行】「アビス・チューブ」に映り込んだ聖女の寝顔が、世界を魅了する

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ユラリアが開発した魔導配信システム『深淵の覗き窓(アビス・チューブ)』。  それは本来、彼女が「寝たまま娯楽を楽しむ」ための受信専用機のはずだった。

 しかし、情報の管理を任された影の眷属・シャドウには、致命的な欠陥があった。  彼はユラリアを崇拝するあまり、こう考えてしまったのだ。

(((主(あるじ)がこれほどまでに愛らしい姿で休日を謳歌されているのに、自分たちだけが独占するのは不敬ではないだろうか? この「尊さ」こそ、情報の影として世界に還すべきではないか?)))

 忠誠心が暴走したシャドウは、アビス・チューブの回路を密かに「双方向」へと改造。  ユラリアが、魔導エアコンの効いた部屋で、抱き枕(神龍ネロの尻尾)に顔を埋めて「すやすや」と眠る姿を、世界中の魔導水晶へとバックストリームしてしまったのである。

その頃、王都・魔導省
「……見ろ! 閣下の水晶玉に異変が!」  若き魔導士たちが叫んだ。

 国家機密を映し出すはずの最高級水晶に、突如として鮮明な映像が浮かび上がった。  そこには、伝説の聖域に建つ壮麗な邸宅の一室。そして、シルクの寝具に包まれ、無防備に、しかしこの世のものとは思えないほど美しく微睡む一人の少女――ユラリアの姿があった。

「これは……『聖女の休息』か?」 「なんて純粋な魔力だ。彼女が寝返りを打つたびに、水晶から癒やしの波動が溢れ出しているぞ!」

 当初、魔導士たちはこれを「高度な精神攻撃」か「古代の秘儀」だと疑った。  しかし、映像の中のユラリアが「むにゃむにゃ……あと五分……」と呟き、幸せそうに口角を上げた瞬間、現場にいた全員の心が洗われた。

「……可愛い。なんだこの尊い現象は」 「仕事のストレスが消えていく……。これが『救済』か」

数日後
 シャドウの暴走配信(ライブ)は、瞬く間に世界を席巻した。  大陸中の魔導士、騎士、そして重労働に疲れた平民までもが、街の広場にある告知用魔導板を囲んでいた。

「静かにしろ! 今、ユラリア様が欠伸(あくび)をされたぞ!」 「おおお……! 今日の欠伸は一段と気高い!」 「見てくれ、あの隣でモフモフされている巨大なトカゲ(神龍ネロ)になりたい人生だった……」

 もはやそれは宗教に近い熱狂だった。  ユラリアが寝る。ただそれだけの映像が、世界に「安らぎ」を与え、結果として各国の犯罪率が激減。紛争中の国々ですら、「ユラリア様の就寝時間は停戦」という暗黙のルールができ始めていた。

一方、聖域
「……ねえ、ネロ。最近、視線を感じる気がするの」  ユラリアは、特製のシャーベットを食べながら首を傾げた。

「気のせいではございませんか、我が主。聖域の結界は完璧です」  ネロは冷や汗を流しながら答えた。  彼はすでにシャドウの犯行に気づいていたが、「主の寝顔が世界を救っている」という現状を見て、止めるべきか悩んでいたのだ。

 そこへ、アルベルト公爵が震えながら報告にやってくる。

「ユラリア様! 申し上げにくいのですが……現在、王都では『聖女様の寝顔を拝む会』という結社が、国家公認の宗教法人として登録されました! あと、あなたが昨日食べた『ハチミツがけシャーベット』と同じものを再現しようとしたパン職人が、あまりの美味しさに悟りを開き、伝説の料理人として祭り上げられています!」

 ユラリアは、スプーンを口に咥えたまま固まった。

(((……なんですって? 私、ただ寝てただけなんだけど)))

 彼女の「究極の休日」は、今や全人類に生配信され、世界を平和へと導く最強のコンテンツと化していた。

(((……まあ、いいわ。配信されてようが何だろうが、私が動かなくていいなら、それは『休日』の範疇よ)))

 驚異の適応能力を見せるユラリア。  しかし、この熱狂が「聖女をこの目で見たい」という、さらなる厄介事を呼び寄せることになるとは、まだ気づいていなかった。
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