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ちょうど二時限目が終わったところだ。
知花も瑠奈もうなずいて、ハルといっしょに学食へむかった。
「久保さんの話は、みんなと合流してから聞きたいんだけど。こっちの事情だけ、簡単に話しておくな。えっと、すげぇ簡単に言うと、この京都守護大学には霊感を持つ人間が集まるサークルがあるんだ。それが、俺も所属しているオカルト研究会。っていってもほんとうに研究してるっていうより、霊が見えたり、妙なものに好かれやすい人間が集まって、自分たちにこういうことがあったーって話し合って、無難に乗りきろうっていうゆるいサークルなんだけど」
「あー。聞いたことあるわ、それ。中学の時とか、そのサークルに入ってるって自慢している女子、何人かいたよね」
瑠奈が大きくうなずくと、ハルは苦笑いをうかべた。
「……だな。うちの大学は幼稚園から大学院まである一貫校だろ。サークルに所属しているのも全年齢っていうか、卒業生や教職員含めて、いっぱいいるんだよ。霊感を隠さないやつも隠しているやつもいるけど、それでいいっていうほんとゆるいサークルなんだ。まぁ中学時代はそういうの自慢しちゃって、あとで後悔するやつが毎年出るのもあるあるだけどな……。基本、対処法を探りつつ、霊感とかない人間には話したくないことを話せる場っていう感じ」
ハルの言葉に、知花はため息をついた。
あの赤い封筒が見えるようになってから、たった四日の間のことだと言うのに、知花は自分がおかしいのではないかとずいぶん追い詰められた気持ちになった。
もしああいう怪異について話せる場があったら、どれほど心強かっただろう。
「どっちかっていうと隠したいやつのほうが多いから、そんなに学校でも広まってない。けど卒業生とか知り合いから聞いてとかで、自分の子どもに霊感っぽいものがあったらこの学校に入学させる親もいる程度には知られてる。霊関係の対処法って、わかる人間にしか教えられないこともあるし。……俺も中三の時にきゅうに妙なものが見えるようになったり、カンが強くなって戸惑っていたら、声をかけてくれた人がいて。先輩たちには、すげーお世話になっているんだ」
教材のつめこまれた重そうなリュックを背負いなおしながら、ハルが笑う。
「だからさ、久保さんも遠慮せず頼ってほしい。俺も先輩たちに助けてもらった分、恩返しじゃないけど、できることはしたいって思っているからさ」
「……うん」
知花が小さくうなずくと、瑠奈は知花の腕をぎゅっと握って、ぴったりとくっついてきた。
「えっと?」
「あのさ、知花。こいつ、ガキっぽいし頼りなくみえるかもだけど、わりといいやつだし、そこそこ頼れるやつだよ。バカだけど根性あるっていうか、やるって決めたことはちゃんとやるっていうか。クラス行事とか、部活とか、中高だとそういうの、わかることあるじゃん」
「そうだね?」
瑠奈の言いたいことがわからず、知花はうなずきながらも首をかしげた。
瑠奈は「うん」と力強くうなずき、
「だからさ。ハルがこういっているんだから、頼っていいんだよ。なんかさ、私にはわからないけど、困っていることがあるんだよね? 霊とか、そういうやつなのかなってのは、なんとなくわかるけど。そういうのってうさんくさい感じあるし、ハルのことも信じられないのも当然だけどさ」
「えっ、待って待って。瑠奈。私、ハルくんのことは、すごく信用しているよ? その、私、さっきまで自分がおかしくなってしまったのかなって思っていたの。ちょっと前から、なんか赤い封筒が身の回りにきゅうに湧いて出る……みたいなことがあって。他の人に見えないみたいだし、嫌な視線も感じるし……。でもそれって、ほんとうにあったのかなって。自分の頭がおかしくなったのかなって心配だったんだけど、さっきハルくんが、その封筒を消してくれて。すごくほっとしたんだ」
知花は、あわてて瑠奈の言葉を否定した。
助けてくれたハルのことをうさんくさいだなんて思っていなかった。
でも、自分が赤い封筒を見る前だったら、きゅうに霊感だのなんだのいいはじめたハルのことを、うさんくさい人だと思っていたかもしれない。
「そうなんだ……」
「でも、私のことを心配してくれたんだよね。ありがとう、瑠奈」
知花は、自分に寄り添うようにくっついている瑠奈の頭に、こつんと頭を合わせた。
そして瑠奈の手をほどくと、立ち止ってもう一度ハルに頭を下げた。
「ハルくんも。……私、この間から、ほんとうにどうしていいかわからなくて困っていたの。だからお言葉にあまえてしまうけど、助けてほしい」
「うん……」
知花が顔をあげると、ハルは静かにうなずいた。
知花と、目と目が合う。
知花は、ハルの大きな目から、目が離せなかった。
「っても、俺にできることはあんまりないかもだけど。妙にカンがいいのだけは重宝されているけど、霊感っぽいのは他のやつらにぜんぜんかなわないし。けどさ、俺にできることはなんでもして、久保さんを守るから。ちょっとは頼りにしてくれていいよ」
にこりと笑ったハルは、またいつもの子犬のような雰囲気に戻っていた。
知花ははっとして、ハルから少し視線をずらす。
ハルは、そんな知花の様子には気づかないまま、迷いなく言った。
「それにさ、オカルト研究会のメンバーは頼りになるやつが多いんだ。きっと久保さんの怪異も、解決できると思うよ」
知花も瑠奈もうなずいて、ハルといっしょに学食へむかった。
「久保さんの話は、みんなと合流してから聞きたいんだけど。こっちの事情だけ、簡単に話しておくな。えっと、すげぇ簡単に言うと、この京都守護大学には霊感を持つ人間が集まるサークルがあるんだ。それが、俺も所属しているオカルト研究会。っていってもほんとうに研究してるっていうより、霊が見えたり、妙なものに好かれやすい人間が集まって、自分たちにこういうことがあったーって話し合って、無難に乗りきろうっていうゆるいサークルなんだけど」
「あー。聞いたことあるわ、それ。中学の時とか、そのサークルに入ってるって自慢している女子、何人かいたよね」
瑠奈が大きくうなずくと、ハルは苦笑いをうかべた。
「……だな。うちの大学は幼稚園から大学院まである一貫校だろ。サークルに所属しているのも全年齢っていうか、卒業生や教職員含めて、いっぱいいるんだよ。霊感を隠さないやつも隠しているやつもいるけど、それでいいっていうほんとゆるいサークルなんだ。まぁ中学時代はそういうの自慢しちゃって、あとで後悔するやつが毎年出るのもあるあるだけどな……。基本、対処法を探りつつ、霊感とかない人間には話したくないことを話せる場っていう感じ」
ハルの言葉に、知花はため息をついた。
あの赤い封筒が見えるようになってから、たった四日の間のことだと言うのに、知花は自分がおかしいのではないかとずいぶん追い詰められた気持ちになった。
もしああいう怪異について話せる場があったら、どれほど心強かっただろう。
「どっちかっていうと隠したいやつのほうが多いから、そんなに学校でも広まってない。けど卒業生とか知り合いから聞いてとかで、自分の子どもに霊感っぽいものがあったらこの学校に入学させる親もいる程度には知られてる。霊関係の対処法って、わかる人間にしか教えられないこともあるし。……俺も中三の時にきゅうに妙なものが見えるようになったり、カンが強くなって戸惑っていたら、声をかけてくれた人がいて。先輩たちには、すげーお世話になっているんだ」
教材のつめこまれた重そうなリュックを背負いなおしながら、ハルが笑う。
「だからさ、久保さんも遠慮せず頼ってほしい。俺も先輩たちに助けてもらった分、恩返しじゃないけど、できることはしたいって思っているからさ」
「……うん」
知花が小さくうなずくと、瑠奈は知花の腕をぎゅっと握って、ぴったりとくっついてきた。
「えっと?」
「あのさ、知花。こいつ、ガキっぽいし頼りなくみえるかもだけど、わりといいやつだし、そこそこ頼れるやつだよ。バカだけど根性あるっていうか、やるって決めたことはちゃんとやるっていうか。クラス行事とか、部活とか、中高だとそういうの、わかることあるじゃん」
「そうだね?」
瑠奈の言いたいことがわからず、知花はうなずきながらも首をかしげた。
瑠奈は「うん」と力強くうなずき、
「だからさ。ハルがこういっているんだから、頼っていいんだよ。なんかさ、私にはわからないけど、困っていることがあるんだよね? 霊とか、そういうやつなのかなってのは、なんとなくわかるけど。そういうのってうさんくさい感じあるし、ハルのことも信じられないのも当然だけどさ」
「えっ、待って待って。瑠奈。私、ハルくんのことは、すごく信用しているよ? その、私、さっきまで自分がおかしくなってしまったのかなって思っていたの。ちょっと前から、なんか赤い封筒が身の回りにきゅうに湧いて出る……みたいなことがあって。他の人に見えないみたいだし、嫌な視線も感じるし……。でもそれって、ほんとうにあったのかなって。自分の頭がおかしくなったのかなって心配だったんだけど、さっきハルくんが、その封筒を消してくれて。すごくほっとしたんだ」
知花は、あわてて瑠奈の言葉を否定した。
助けてくれたハルのことをうさんくさいだなんて思っていなかった。
でも、自分が赤い封筒を見る前だったら、きゅうに霊感だのなんだのいいはじめたハルのことを、うさんくさい人だと思っていたかもしれない。
「そうなんだ……」
「でも、私のことを心配してくれたんだよね。ありがとう、瑠奈」
知花は、自分に寄り添うようにくっついている瑠奈の頭に、こつんと頭を合わせた。
そして瑠奈の手をほどくと、立ち止ってもう一度ハルに頭を下げた。
「ハルくんも。……私、この間から、ほんとうにどうしていいかわからなくて困っていたの。だからお言葉にあまえてしまうけど、助けてほしい」
「うん……」
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「っても、俺にできることはあんまりないかもだけど。妙にカンがいいのだけは重宝されているけど、霊感っぽいのは他のやつらにぜんぜんかなわないし。けどさ、俺にできることはなんでもして、久保さんを守るから。ちょっとは頼りにしてくれていいよ」
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